第7話
「ぜーーったいに無理です!」
私の剣幕を前に、女神シルフィ様は苦笑いを浮かべた。
「悪くて斬殺、良くても監禁されて殿下のせ・・性奴隷になるなんて、どっちに転んでもバッドエンドじゃないですか!!」
「性奴隷って・・どんなにエロい妄想してても大概、実戦は意外と普通なもんなのよ。そんなもんよ、あの年頃の男子の頭の中なんて。8割エロだから」
「そ、そういうものなんですか!? オーウェンとか全然そんな風に見えませんが!」
「あんたね。男がそうじゃなきゃ子供なんか出来ないでしょ? 構造上、エロい気分にならないとアソコが・・」
「分かりました! もう止めましょうこの話!」
「それにさ、ユリウスみたいな陰のあるイケメンに鎖に繋がれて無理矢理ってのも・・けっこうアリじゃない?」
「シルフィ様・・変態ですか?」
「ええー? 割と需要あると思うけどなぁ・・。まぁもう少し、頑張ってみてよ。国の未来がかかってるんだからね!」
女神様の性的嗜好が変態じみている事しかわからなかった・・。
翌朝、やはり私の気は重かった。
前の人生では王宮に召された私はアベリア宮殿と呼ばれる離宮で、実際にほぼ軟禁状態であった。衣食住は申し分無かったが、外出や人と会うにはユリウス殿下の許しが必要であったからだ。それはある意味、鎖で繋がれているのと大差ないのではないだろうか。それがあんな変態じみた妄想を背景にするものだとしたら、寒気がしてくる。
そ、そりゃ、無理矢理身体を暴かれるような事は、結局有りはしなかったのだけれどもっ。
「はぁ・・」
本当はオーウェンに相談したいところだけれど、あまり彼を頼り過ぎると彼の身が危ういので、極力オーウェンを避けていた。私は気分転換に、学園内にある動物の飼育小屋へやって来ていた。鳥籠で暮らす夜鳴鳥という鮮やかな蒼い体毛を持つ鳥の姿に、他人毎とは思えぬ様な想いがして、私は溜息混じりにぼーっと、その鳥籠を眺めていた。
「クローディア様」
呼びかけられ、私は声の方を振り向いた。そこに居たのは眼鏡をかけた勤勉そうな男性。ユミル・ガーベリアである。
「ユミル・・」
私はハッとして、周囲をキョロキョロと見回した。彼との二人きりの所を誰かに目撃されてユリウス殿下の耳に入ろうものなら、大変な事になりそうだ。昼食時ということもあり、幸い周辺に人の気配は無い。
「どうされました?」
「な、なんでもないです。こちらの事情ですわ」
ユミルは「クローディア様は面白い方ですね」といって笑った。うう、本当はこんなに挙動不審ではありませんよ。
「この鳥にご興味が?」
「え、ええ。綺麗な鳥だなと思って」
「夜鳴鳥は実際は夜に鳴く訳ではなく、夜に鳴くと不幸が訪れると信じられていた事からその名がつけられました。大人しくて飼いやすく、昔から貴族階級の観賞用として取引されてきた歴史があります。あ、僕は動物行動学を学んでおりまして、こうして動物達の世話もしているのです」
「まぁ、そうなのですね。動物行動学を・・」
・・人間も一応、動物よね・・
「ユミル」
「はい」
「自分がこの鳥になったとして・・鳥籠を取り払わせるには、どうしたらいいと思いますか?」
縋る様に投げかけたその問いに、ユミルは少し意表をつかれた様な顔をしたけれど、すぐに答えを述べた。
「そんなのは簡単です。籠が無くても逃げないと分からせればいいのです」
────ああ、そうか。
殿下が私を鎖に繋ごうとするのは、やはりシルフィ様の言ったとおり、失う事を恐れているから・・。
私が絶対に殿下の元から逃げ出さないと誓ったら、あの方の狂気も少しは柔らぐのであろうか。
(そうよね。王太子の婚約者なんだから、殿下の子供を産まなければならないのは当然の事なんだもの。嫌でも家の決めた相手と『そういう事』をしなきゃならないのは、公爵家に生まれたときから決まっている事だわ。それならばせめて変態的な行為じゃなくて、通常の・・)
・・・・通常って・・どうやるのかしら。そもそもそういう行為に、通常も変態も無いのでは・・。
ああ。なんだか具合が悪くなってきた・・。
「ありがとうユミル。とても勉強になったわ。それから、私の事はクローディアで結構よ」
ユミルはまた少し意表をつかれた顔をした後、笑顔を見せた。




