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第43話

 次に意識が戻ったとき、私は全く知らない場所にいた。煉瓦で作られたその小さな部屋には、私が寝かせられていたベッドの他、テーブルの上には食べ物やティーセットまで用意してあった。でも窓は一つも無い。燭台の炎が消えたら暗闇に包まれるだろう。蝋燭は半分近く減っており、私が連れてこられてから火がつけられたと考えた場合、三時間以上は経過していると思われる。天井の煉瓦の隅には水で出来た染みがあり、そこから僅かに水が滴っていた。


「地下・・かしらね」


 ドアには外側から錠がかけてあるのか、何度か体当たりしてみたものの開ける事が出来なかった。部屋のもう一つの扉を開くとそこにはトイレもある。壁から突き出た蛇口を捻ると水もちゃんと出た。おそらく井戸水か何かを引いてきているのだろう。快適とまではいかないが、人並みの生活が送れるくらいの設備は整えられているようだ。


「私を監禁するために、これだけの設備をわざわざ作ったとは考えづらいわね。どこかもともとある施設なのかしら」


 それにいくらユリウス殿下とて、まったく人目に付かずに一人で私を運ぶには限界があるというものだ。という事は、私が意識を失ったあの場所からさほども離れていないと考えるのが自然か。


「学園の地下・・?」


 学園の地下にこんな施設があるなど聞いた事がないし、勿論確証は無い。だけど上に人が居るような場所であるならば、発見してもらえる可能性は大いにある。そしてあれから三時間程度ならば、まだパーティーの続行中だ。もしかしたら私が居ない事に誰かが気づき、既に捜索が始まっているかもしれない。


 ────ユリウス殿下は今、どうしているのかしら? 私をここへ運んだ後、何食わぬ顔でパーティーに参加している・・?


 その光景が頭に浮かんだとき、何だかとても、ゾッとした。


(普通の精神状態じゃないわよね・・)


 私が行方不明になれば間違いなく騒ぎになる。公爵家の令嬢で殿下の婚約者なのだから、騎士団を投入しての大捜索が行われるだろう。結果、婚約者である殿下が犯人だと知れたなら、それは国家を揺るがす大スキャンダルだ。そんなリスクを犯してまで彼は私をここへ閉じ込めたいと言うのか・・。


(私がここから逃げ出したらユリウス殿下は・・)


 血濡れた剣を手に、私の前に立った彼────その私を見下した黒曜石の、憎悪に満ちたあまりに冷たい瞳・・。妄想にしてはあまりに生々しい記憶が、私の身体をぞくりと粟立てる。身体を抱えながら改めて部屋の中を見回してみるも、陽の光すら一切入らぬここで誰にも知られずに一生を過ごす想像は、やはり私の身体を震わせるのだった。


(とりあえず今はやれるだけの事をやりましょう。その時の事はその時考える。それしか無いわ)


 私は通気口を探した。ここが地中であるならば、空気を取り入れる為に地上へ繋ぐ通気口があるのではないかと考えたのだ。案の定、ベッドサイドにそれと思われる小さな穴が見つかったので、私はその穴のすぐ側で、テーブルサイドのチェストの中から発見したナイフとフォークを使って音を鳴らした。この通気口が地上へ繋がっているのなら、穴を通して地上へ音が送られる筈。誰かが気づいてくれると良いのだけれど。

 私は音を鳴らし続けた。陽の見えぬこの状況下では、時の流れを告げるのは燭台の上の蝋燭だけだ。一体どれくらいの時間が経過しているのか、それが分からぬ事がこんなにも不安を掻き立てるものなのだと、私は初めて知った。


 

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