表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/66

第2話「人間の剣士と勇者の聖剣があれば、本人認証としては充分だ」

 ――葬儀が終わった。簡易的なものだ。

 ヴェンの計らいで宣教局へのダメージは最小限で済んだが、それでも深い。

 更に教会そのもの、隣の大聖堂も襲撃されていた。


 今回の襲撃について洗っていけば”血の連盟”の存在は明るみに出る。

 その内通者もある程度までは辿れるだろう。

 しかし、まずは体制を立て直さなければどうにもならない。

 そこまで深い傷を負わされたのだ、人間の国の聖都は。


 けれど葬儀は行わなければならない。特に吸血鬼に殺されたのだ。

 丁重に葬らなければ何が起きるか分かったものではない。

 だから簡易的ではあるものの、この襲撃による犠牲者への葬儀は行われた。


 ドクもアーサーも、教会の作法によって葬られた。


 俺とエステルはキトリの部下としてそれに参列した。

 アシュリーたちへの報復は必ず行う。けど、心が追い付かなかった。

 葬儀という儀式を終え、ようやく言葉にすることができ始めた。

 ――今後の方針というものを。


「魔王都への転移は片道切符なんだろ? 読みが外れたら……」


 キトリの家で紅茶を飲む。この味にも随分と慣れてしまった。

 長居を、したものだ。頼りきりになってしまった。


「……もちろんそのリスクはある。

 けれど葬儀が終わっても未だ、あいつらは仕掛けてきていない」


 家主からの質問にそう答えた。

 キトリとしては俺たちがここを離れるのを不安がっている。

 俺たち2人が死地に赴くという意味でも、聖都から離れるという意味でも。


「私もジェイクも同じ読みだ。

 ジェラルドとアシュリー、それぞれの性格から割り出した推測。

 丸っきり外れるってことはないと見ている。それに私たちは魔王だ」


 エステルの奴もすっかりその気か。少しだけ安心できるな。


「……悪魔の国の軍隊が味方になってくれるんだ。

 下手したら襲撃の責任を全て吹っ掛けられかねない今よりはマシか」

「私にどこまでついて来てくれるかは分からないけどね、でもこいつがいる」


 親指で指してくるエステル。

 かなり憔悴し切っていたけど、元気になってくれた。

 よくもまぁ、あのアシュリーと一騎打ちして命があったものだ。


「まぁ、親衛隊と副官くらいだよ、顔が利くのは」

「それだけ居れば充分だろ。あいつら好きに動かせる?」

「ある程度はね。人間の国にホイホイ連れてくると大変だけどな」

「――読みが外れたときにはそうなるかもね」


 まず俺たちは、あの襲撃の夜に起きたことを整理した。

 ――宣教局と教会本部への襲撃。

 話によると対吸血鬼用の装備の半数以上が事前に破壊されていたらしい。

 そして把握しているだけで宣教局に2人、教会に1人の吸血鬼が送り込まれた。


 さらにこの中で特異なのがアシュリーの動きだ。

 アシュリーはエステルと戦闘後、心臓に突き立てられた聖剣を持ち去った。

 ……そもそも、あいつが俺を最優先にしなかったのが不自然ではある。

 では、その目的はなんだ? 宣教局を襲う直前にエステルと出くわした?


 ――いいや、違う。

 それならエステルをウィルド川に叩き込んだ後に宣教局を襲えばいい。

 では、目的はエステル自身か? これは半分くらい正解だろう。

 確かにあいつは俺を殺した勇者様を憎んでいる。それは事実。


 けれどそれならそれで川に落ちたくらいで見逃しはしない。

 吸血鬼にとって、流れる水に入るのは苦痛らしいが不可能ではない。

 エステルへの憎しみが最優先であれば、平気で川に飛び込んでトドメを刺す。


 では、アシュリーが最優先にしたものは何か。

 ――聖剣だ。

 エステルの用いる聖剣こそが、奴の目的だったのだ。


「……あのジェラルドを、ヴェン・ライトニングにしてしまおうなんて」

「あり得ない話じゃないよ、キトリ。

 兄さんはまだヴァンパイアになっていない可能性が高いんだ」


 これはアーサーの傷が剣によるものだったことからの判断。

 加えて、いくら実子といえど吸血鬼に堕ちていれば加減はしないはず。

 そんな父であり、上司であったアーサーへ向けるエステルの信頼だ。


「人間の剣士と勇者の聖剣があれば、本人認証としては充分だ。

 まだ私は魔王として表舞台に殆ど立っていなかった。

 継承戦の時と、こいつの国葬をしたときだけ。いくらでも誤魔化せる」


 キトリほどではないとはいえ、アシュリーも幻惑の魔法を使える。

 ジェラルドの髪と瞳の色を変えてしまえば、充分だろう。

 もちろん、そのためにはレイチェルと親衛隊を潰す必要はある。

 あいつらには俺の息がかかっているからな、でも逆にあいつらを潰せば。


「……表向き、悪魔の国でのアンタは怪我をしていて入院中なんだよね?」

「そう、最悪なことに物凄く相手に都合が良い。

 私自身が不在だから、それを知る側近を消せば、私に成り代われる」


 つまり、最も危険なのはレイチェルだ。

 必ず助け出さなければならない。もうたくさんだ。

 俺はもうお前に誰も渡さない、アシュリー・レッドフォード。


「――さて、準備はできた。転移魔法の扉が開く」

「行っちゃうんだね、魔王様もエステルも」

「ありがとう。君には本当に世話になったよ、ドクターキトリ」


 こちらの言葉に笑みを浮かべるキトリ。

 彼女は宣教局再建の要だ。

 というか、彼女のような親アーサー派が居てくれないとヤバいのだ。

 本当に全ての責任をアーサーとエステルに吹っ掛けられかねない。


「全てが終わったらまた来るよ、それまで宣教局をよろしくね」

「うん。新しい魔王様――」

「……そうだね。決めるしかないか、覚悟」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ