表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/66

第7話「……そんな、分かり切ったこと」

「――上手く行った? 魔王様」


 キトリの姿のまま、キトリの家に戻り、キトリに出迎えられる。

 エステルよりも先に出てきたから、彼女はまだ戻ってきていない。


「ああ、バッチリだったよ。30年前の暗号が通じた。

 ヴェンは今夜、君にお金を返しにやってくる」

「へぇ~、じゃあ、作戦通りって訳だね。チョーカーの解除法、分かる?」


 キトリの確認に頷く。チョーカー中央にあしらわれた円形の刻印。

 これがそのまま魔術式となって、ダイヤルを回すことで解除される。


「本命への潜入するときにも使えるでしょ? しばらく貸してあげるよ」

「良いのかい? 返せるかどうか分からなくなるけど」

「ふふっ、エステルに返してくれれば充分さ」


 首に巻くものを借りる。そんな状況に、国葬に並んだ日のことを思い出す。

 狼の軍人にマフラーを巻いてもらった時のことを。

 エステルを巻き込んでクイーンルビィ号へ出発する朝、彼に返しに行った。


『――驚いたな、まさか本当に返しに来てくれるなんて』

『ふふっ、優しい軍人さんから借りっぱなしなんて、ボクの美学に反しますから』

『ありがとう。君のような子に見送ってもらえて陛下もさぞ幸せだったはずだ』


 ……俺にとっては、君のような軍人が居てくれることこそが幸福だった。

 いち国民に過ぎない子供をいたわることのできる君が。


「分かった。全てが終わったらエステルに返すよ」

「うん。守ってあげてね、あの娘のことを」

「俺が守る必要なんてないくらいに強いと思うけどな」

「それはそれ、これはこれよ」


 しばらくしてエステルも帰ってくる。

 そして、キトリに用意してもらっていた聖都の地図を広げる。


「……敵の本拠地がまさか、サウスランド商会とはね」

「私も聞いた時は驚いた。

 けど、ここ5~6年で入ってきた連中だからまだマシじゃない?」


 ユニオンの本拠地、その表向きの役割はサウスランド商会の聖都支部だ。

 ここ15年で急拡大した商会、その主要メンバーをアシュリーが取り込み、ユニオンの本拠地を作らせた。話を聞いた時は俺も驚いたのをよく覚えている。


「どんなに大きな組織でも頭を押さえてしまえば融通が利く。

 特に聖都へ新規参入する見込みのあるサウスランドは都合が良かったんだろう」

「……その時にはもう既にある程度うちに内通者が居たと?」


 おそらくはその通りだとキトリに回答する。

 いくら新しい商会が新しい支部兼店舗を開くのに紛れ込ませるとはいえ、ある程度は宣教局の目そのものを鈍らせておかなければリスキーだ。

 

 その自信があったからこそアシュリーはユニオンの本拠地を聖都へ移し、6年近い時間をかけて今日の状況を作り出した。俺のヴェン・ライトニングを難なく軟禁できるほどに宣教局を蝕んだのだ。


「――ねぇ、魔王様なら真正面から殴り込めるんじゃないの?」

「確かに。君なら記憶を強制的に読み取れるし」

「本当に手立てが無いのならそれも考えるが、まぁ、無理だろうな」


 一刻も早くドクを助け出したい。そう焦る気持ちは確かにある。

 けれど、焦れば焦るほどにどこか冷静な自分が囁いてくる。

 現状の手札での正面突破が困難である理由を。


「サウスランド商会の支部は、百貨店も兼ねているんだろう?

 つまりは表向きの役割を果たすため相当数の人間が用意されてることになる。

 エステル、今朝ヴェンにつけられていた監視役から何を引き出せると思う?」


 紅茶をクイッと飲み進め、エステルが口を開く。


「……そんな、分かり切ったこと」

「ふふっ、そうだ。何も引き出せやしないのさ」


 真正面から乗り込み、アシュリー側に悟られる前に何人の記憶を引き出せるか。

 どんなに多く見積もっても3~5人だろう。

 そして、その中にドクの居場所を知る者が居ると考えるのは楽観的過ぎる。


「せめてユニオンの構成員がどこに居るのかの目星は欲しい。

 あるいは、サウスランド商会の見取り図が必要だ」

「一応、宣教局に見取り図はあるはずだよ。問題は父上が上手くやってくれるか」


 万全の状態なら間違いなく上手くやってくれる。

 問題は、今のヴェンには監視がつけられていることだ。

 そこまで高度な人材ではないが、それがどう影響してくるか。


「――元々の身体であれば、強行突破も考えたんだがな」

「まともに情報を引き出せなくても?」

「ああ、適当に襲って相手の出方を見るという手段もある」


 翼竜形態で手当たり次第に全てぶっ壊して様子を見るというのも可能だ。

 しかし、今の俺には本来ほどの力はない。

 強引なことをしたところで、ドクを助けられなければ意味がないのだ。


「なになに? 魔王様は元の身体より弱い身体に転生したの?」

「いや、最終調整が済んでいないからロックされているんだ。

 出力が高すぎると身体が耐えられるか分からないから、ってね」


 本来はドクと合流して段階的にアンロックしていくはずだった。

 全てを仔細に把握している訳ではないが、元々の身体より強く造ったとドクは言っていた。少なくとも翼竜形態と同等の力は用意したと。


「……まだ強くなるのか、もうあれだけ強いのに」

「頼れる男だろ?」

「ふふっ、もう少し背を高くしてから言うんだな? 少年」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ