表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/66

第4話「自分の娘が魔王に内通していたってことでね。まぁ本当にしてたみたいだけど」

「――じゃあ、本当にこの子が”不動のジェイク”だと。

 で、今回の黒幕が薔薇の吸血鬼アシュリー・レッドフォード。

 ユニオンという組織を使って裏で糸を引いているか」


 ざっくりここまでの経緯を説明する。

 吸血鬼アシュリーと血の連盟のくだりについてはすんなり納得した。

 宣教局内部のキナ臭さと、永遠の命というエサが噛み合ったのだろう。

 納得していないのは俺の方に対してだ。


「……信じられないな、その身体が作り物だなんて」

「俺にだって信じられないよ、その歳で魔道具開発主任って」

「ふぅん? 見た目通りの歳に見えているんだ、魔王の瞳にも」


 やっぱりそんな感じか。容姿と実年齢が噛み合っていない。

 その可能性は考えていたが。


「俺には、魂で年齢を判断する能力はないからね」

「成長を止められているのさ、ちょっとした呪いでね」


 人間の成長を止める呪いとは。

 そんなものがあるのならそっちから永遠の命にアプローチすればいいだろうに。

 ヴァンパイアの血なんてものに頼らずとも。

 まぁ、宣教局の魔道具開発主任が解呪できない呪いだ。制御できないのか。


「実際いくつなの?」

「22歳」

「……やっぱり若いな」

「200歳近い魔王様からしたらみんな赤子でしょ?」

「へぇ、信じてくれるんだ?」

 

 こちらの言葉に頷くキトリ・パストゥール。

 そして指を鳴らした瞬間、熱々の紅茶が3つ出てくる。

 ……いったいどういう仕掛けなんだ。

 わざわざテーブルの一部がパカッと開き、中からせり上がってくるなんて。


「本当なら、君の身体を造った魔術師から色々と話を聞きたいけどね。

 そうじゃなきゃイマイチ信じられない。

 あのリインカーネーションを、現代の魔術師が完成させたなんて」


 ドクに教えられるまで俺は存在も知らなかった魔術式を知っているのか。

 流石は宣教局の主任だ。魔術師としては本物だ。


「――その、魔王の身体を造った魔術師が人質にされているんだ。ユニオンに」

「えっ、のっぴきならない状況じゃない。

 それならどうして宣教局に戻ってきたわけ? 人質救出の方が優先でしょ」


 ……この反応、やはり彼女も知らないのか。

 敵の本拠地がこの街にあることを。


「ユニオンの本拠地が聖都にあるからさ。ドクもそこに捕らえられている」

「……冗談、じゃなさそうね。敵がそんなに近くにいるなんて」

「私も悪い夢だと思いたかったけど」


 紅茶をクイッと飲み干し、コトンと置くキトリ・パストゥール。

 飲むの早いな、こいつ。


「それでここに戻ってきたと。必要なのは宣教局で保有している情報と装備?」

「うん。安全に父さんとコンタクトを取りたい。

 その上でユニオン本拠地に潜入する準備だ、本来ならすぐできることなのに」


 身内が黒でなければ宣教局に戻って俺の情報を元に、既に保有している情報を洗い直せば突破口も見えてくる。潜入用の装備だってすぐに準備できる。


「――私には特に監視はつけられてない。けど、司令はちょっとヤバいかも」

「私が魔王になったせいで、か」

「そういうことだけど」


 ジロッと2人からの視線が注がれる。

 俺のせいか?! いや、全くもって俺のせいだな。


「このたびは一身上の都合で誠に申し訳ありませんでした」

「まぁ、なっちゃったものはしょうがないよね。

 うーん……司令に会うとしたら宣教局本部になるかな、軟禁状態だし」


 ……軟禁状態とは。そこまで先手を打たれているのか。

 まぁ、こちらは完全にアシュリーの思惑通りに動かされているのだ。

 エステルが宣教局を頼れないようにしておくのは当然ではある。


「そこまでやられているのか……」

「自分の娘が魔王に内通していたってことでね。まぁ本当にしてたみたいだけど」

「……これは、その、なりゆきで。エステルのせいじゃないです」

「もちろん知ってるよ。それにあっちだって最初から黒だ、口実でしかない」


 ハメられたとはいえ、あのヴェンが宣教局内部に軟禁中とは。

 それで黙っているような男じゃなかったはずだが。

 いや、虎視眈々と時を待つ男でもあるか。


「――キトリ、手引きしてくれる?」

「それしかないでしょうね、このまま敵の思惑通りに進むのはヤバい」


 そう答えつつもキトリは深い溜息を吐く。

 今の宣教局内部を知る彼女からすれば、相当危機的な状況ということだろう。

 俺もその気配は感じている。ここまで深く浸食されているのだ。


「……キトリさん。君の直感で良いから答えて欲しい。

 この事態が終わった後、宣教局が残っていると思うかい?」


 彼女の言葉を聞いているだけで、ここまで連想できてしまった。

 上から横から裏切り者だらけで司令さえ軟禁されている。

 詰んでいるのだ、もう既に。それはユニオンを排除したところで変わらない。


「半々……いや、9割で致命傷を負うだろうね。

 もう既にゾンビみたいなもんなんだ、毒が回ってる。いや、食屍鬼か。

 悪魔の国よりも歴史が長いんだ。名前は残るだろうけどそれだけになるかな」


 亜人と蔑まされた者たちが悪魔という名前を手に入れるよりも前からだ。

 人間の神の教えを広める”宣教局”が存在しているのは。

 しかし、それでも名前しか残らないだろうと判断している。


 ヴァンパイアに毒されているというのは、そういうことだ。

 やはり、その覚悟が要るな。

 いざとなったら宣教局ごと潰してでも、決着をつける覚悟が。


 ――思考の枠を広げておけ、ジェイク。

 いつもの調整を重んじる態度では、獲られかねないぞ。


「やはりそうか、内部からはそう見えているんだね?」

「……残念ながら。認めたくないものだけれど」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ