9話
「えっと……スノーフィールさん、でしたっけ?」
「はい、第3世代愛玩用の人造人間、個体名スノーフィールです。先ほどは、助けて頂き誠にありがとうございました」
路地裏の一件の後、俺とスノーフィールさんは表道の広場へと移動していた。
スノーフィールさんの服は暴漢たちのせいでボロボロのため、現在彼女は俺の上着を着ている形になる。
レンと同様に、その体格は俺よりも一回り小さいため、俺の上着はかなりダボダボだ。
だが、その姿は小動物チックで、正直かなりクル物があった。
とりあえず、決してそのことを悟られないよう、努めて冷静に振る舞う所存である。
「うん。その……正直、人違いだったんだけど、助けられてよかったよ」
「はい。ありがとうございました」
「…………」
「…………」
会話が終わってしまった。
き、気まずい。
普段はレンが会話を振ってくれるから忘れていたけど、俺ってばコミュ障だった。
どうしよう。こういう時はどうやって話をすればいいんだろう……
「……あ、そうだ。その、スノーフィールさんのご主人様ってどこにいるの? よければ送っていくけど」
彼女にあったことを説明しないといけない。
なにせ、彼女は現在希少なタイプの高級品ドールらしいのだ。
彼女の主人も中々帰ってこない彼女のことを心配している筈だ。
「現在ご主人様はこの街にはおられません。ですので、お気遣いは無用です」
「……え? 近くにいないんですか?」
「はい。現在、わたしは単独でご主人様の命の元、行動しています」
それは何というか……かなり無責任なんじゃないのか?
実際、彼女は襲われかけたというのに。
「どうしてあなた様はお怒りになっているのですか?」
「え? ……あ、ごめんなさい。その……無責任だって。思って」
「……? 言葉の意味が分かりません。私はご主人様の言いつけに従って行動しています。なぜ、そう思われたのですか?」
「それは……」
そう問われ、返答に詰まってしまう。
何というか、今の俺はドールという存在を保護・または見守ってあげないといけない存在だと、思ってしまっている。
その理由が、目の前のドール、スノーフィールさんがあまりにも無防備過ぎるからだ。
何というか、子供っぽいと感じてしまう。
多分そう思ってしまう理由は……
「……俺の知っている君と同型のドールがすごくしっかりしていて、その子と無意識に比べていたんだと思う」
「そのドールがレンフィールと呼ばれるドールなのですね」
「うん。そうなんだ」
「その方はわたしとそんなにも似ているのですか?」
そう言われ、改めてスノーフィールの顔を見る。
うん、やっぱりというかほぼ一緒の顔だ。やや、顔つきが幼い印象を受けるが。
「レンフィールも自分の事を、第3世代の愛玩用ドールって言ってたし、多分同型なんだと思うよ」
「────っ」
俺がそういうと、スノーフィールは見開く。その表情には出会ってから初めて見える感情らしきものが宿っていた。
「……そうですか。なら、あなた様はそのレンフィールというドールの現ユーザーなのでしょうか?」
「え? うん、まあ書類上はそうなると思います」
実際は契約者って肩書が正解だけども。
でも、急にスノーフィールさんの口数が増えたような気がする。
そんなに自分の同型が珍しいのかな?
「ご存じかもしれませんが、現在わたしの型のドールは諸事情により鋳造が停止されています。そのため、わたしを含めて、同型は計13体しか存在しないのです」
「へー。そうったんですか」
確か前、レンは自分の事は高級品とも言ってたっけ?
世界に13体しかいないドールということであれば、確かに高級品には違いない。
「ですから、嬉しく思います。自分の姉妹の居場所が分かって」
「そうだったんですね。……あ、なんなら今日レンさんに会っていきますか?」
「……いえ。大丈夫です。居場所だけ分かれば、問題ありません」
そういって、スノーフィールは立ち上がり、俺に向き直る。
「それではわたしは失礼させて頂きます。上着もお返ししますね」
そういって、彼女はいそいそと上着を脱ごうとする。
俺はそれを慌てて引き留めた。
「いや、ダメ、ダメだって! その上着は差し上げますので、そのまま帰っていいです!」
「──そうですか。……なら、このままお借りします」
危なかった。
公衆の面前であんなボロボロな姿を見られたら、誰が見ても俺が犯人になってしまう。
暴漢から助けたハズなのに、俺が捕まっちゃシャレにならない。
「……あんたは優しい人ですね」
「え?」
「レンフィール。まだ見ぬ姉妹が少し羨ましいです。わたしもあなたのようなユーザーのドールになりたかった」
スノーフィールは相変わらずの無表情だが、先ほど吐露した言葉には確かな羨望の念が込められていた。
「さようなら、優しい方。できれば、もう会わないことを願います」
「あ、ちょっ……行っちゃった」
何やら意味深な言葉を残して、スノーフィールさんは人混みの中に消えていった。
あれほど目立っていた彼女でも、群衆の中に紛れれば、もはや見つけることはできない。
「何というか……不思議な子だったな。いや、アレこそがドールなのかもしれない」
レンはドールではあるが、中身は俺と同じようなものだ。
そうであれば、スノーフィールのような反応が、本来のドールのソレにあたるのだろう。
「……なんか疲れたし。今日はもう帰ろう」
予想外の出来事で、流石に身体もかなり思い。
今日は素直に家で休もうと思い、踵を返して帰宅の途についた。
「──ん?」
ふと、気配を感じ振り向くが誰もいない。
気のせいかなと思い、そのまま歩き始めた。
〇
「──これが……最後の……『スラッシュ』!」
「……よし! これで熟練度マックス! スラッシュの修得完了だ!」
数日後、マイホームの空き地にて、遂にスラッシュの熟練度をカンストさせた。
あの、路地裏での一戦のおかでげ、大分コツを掴んだ俺は破竹の勢いで熟練度のカウントを進めていった。
そして、遂に俺はスラッシュを修得を完了させたのだ。
「お、おお、おおお……!」
「どうだ? オリガミ。スラッシュの修得を完了した感覚は?」
「うん。見てて」
以前レンが話していた、スキルの修得をした後のイメージの話。
うまく言葉で説明できないが、確かに感じる。
俺の中に、スラッシュを発動するためのトリガーがあることを……!
「すう……ッ!」
イメージするのは撃鉄を下ろすこと。
スラッシュというボタンをその撃鉄で押すイメージ。
それに連動し、身体の魔力がうねり、身体が自然と剣を振るった。
魔力を纏った世界樹の枝の一振りは、思い剣圧を放ち、周囲の草を舞い散らせる。
「よし。スラッシュの修得。確かに完了だ。これで次のチヤートに進めるな」
「うん。大分待たせてごめん」
「いや。最後はかなりトントン拍子に進んだんだ、問題ないさ。これも、その私の同型らしい子のおかげだな」
「そういえば、結局あの後、スノーフィールさんは来なかったね」
レンと同型のドール、スノーフィールはあれから全く音沙汰がなかった。
レンに彼女の事を聞いてみても、同型とは会ったことが無いらしく、特に思い当たる節は無いとのことだ。
「まあ、興味が無いわけではないが。一先ず置いておこう。なにせ、私たちにはやるべきことが山ほどのあるのだからな」
「確か次にやることは、金策だっけ?」
以前空き地の砂場に書かれたチャートを思い出す。
スラッシュの修得の次にやることは、確か金策だったはずだ。
「ああ。異界に入るにあたり、我々にはあまりにも装備が不足している。それを揃えるための一歩として、行わなければいけないのが……安定した金策手段。そして、それはオリガミのおかげで何とかなりそうだ」
バン、とレンは地面に樽を置いた。
そして、その中に所狭しと敷き詰めらたものを引き抜き、掲げる。
それは、世界樹の枝で作られた木刀だ。
「すごい、本当に作ったんだ、世界樹の木刀」
「ああ。君が拾って貯めておいた系100本以上の世界樹の枝を使い、更に信用できるルートから極秘裏に斡旋し、作成した世界樹の木刀。巷ではかなりの売れ筋だと聞いている。その売り上げの何割かは我々の懐に入るという寸法だ。ふふふ、ふはははは!」
計画通りの事が運んで嬉しいのか、レンは邪悪な笑い声をあげている。
実際、世界樹の枝は俺が意識すれば無制限に拾えるため、人件費のみの消費となっている。そのため、儲けとしてはかなり俺たちに利益が出る取引だ。
しかし、世の中はそう甘くもない。
「信用できるルートっていうか、ぶっちゃけ、セラスさんに仲介してもらっただけだけどね」
「…………まあ。そうだな。正直この金策はセラス嬢の力ありきではある」
世界樹の枝を売る。
そのアイデア自体は、レンがかなり早い段階で提案していた。
しかし、それを売る手段となるとどうにも厳しい。
なにせ、世界樹の枝という貴重な素材を、どうしてただのD級冒険者でしかない俺たちが提供できるのかという謎が出来てしまう。
俺たちのチート能力については、極力秘密にすべきである。
お互い、その方針には同意し、さあどうするという段階で、白羽の矢が立ったのがセラスさん存在だ。
レン曰く、セラスさんは信用に足る存在であるらしい。
どうにも、ここ数日レンがいなくなったときは、セラスさんの元に通っていたようだ。
そこで色々な交渉が行われた結果、この世界樹の木刀を売り出そう計画が始まったのだ。
そして、俺たちにはある条件が付きつけられた。
それこそが……
「定期的にセラス嬢の依頼を請けること。これが先方の出した条件だ。そして、既にその依頼は始まっている」
レンはそういって、一枚の討伐用紙を取り出した。
「鉱石系の魔物。エレメンタラー。その群れの討伐依頼。難易度はDからCの下位相当。しかし、セラス嬢の依頼故、必ず何か起きる。……そうだったな、オリガミ」
「うん、絶対、ものすごいことが起きる。保証するよ」
「そんなに強く保証しないでほしいね。……とにかく、我々が次に行うべきは、この依頼だ。異界に向けての本格的な第一歩だ。踏ん張りどころだぞ、オリガミ」
「ああ。こっちだって、練習の成果見せてやるさ」
そうして、俺たちの次の目標が決まる。
ナギの世界での魔物討伐依頼。
セラスさんお墨付きのやばい依頼、エレメンタラーの群れの討伐依頼。
何が起きるか分からないが、ここまで来たからにはやるしかない。
俺とレンは気合を新手にして、エレメンタラーの群れ討伐依頼に出発した。
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