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7話

──レンフィールこと、レンとの元の世界に帰るための協力をするという契約を結んで、数日の時間が過ぎていた。


 あれから異界に潜り、破竹の勢いで攻略を進めている……という当初の俺の予想を裏切り、今俺がしていることはというと……


「『スラッシュ』! 『スラッシュ』! ……す、『スラッシュ』!」

「ダメだ、ダメだ! 全然熟練度が上がってないぞ! もう少し気合を入れろ!」

「いや……もう、無理……魔力切れ……だって、レンさんも……分かるでしょ」


 マイホームの近くの空き地で、技名を叫びながら素振りをする毎日を送っていた。


「……まあ、確かに。しかし参ったな。『スラッシュ』の習得にこれほど時間が掛かるなんて」


 そういって、レンは俺のステータス手帳にカリカリと書き込みを加える。

 

 ──『スラッシュ』:斬撃系攻撃スキル。熟練度32/100


「今日で熟練度は3増えた。当初は丸一日使って、1上がるかどうかだったから、進歩はしているが……むぅ……」

「ぜえ、ぜえ、ぜえ……その、ごめんなさい。才能、なくて……」


 息も絶え絶えになり、魔力が尽きた影響でうまく体が動かせない。 

 俺は体を地面に投げ出しながら、不満そうなレンさんに詫びを入れつつ、己の不甲斐なさに目の端からちょっぴり涙が零れた。


「……でも、スキル修得が……こんなに、大変だったなんて……思ってもみなかったよ」


 そう、今俺がやっていることは、レンの能力を使ったスキル修得だ。

 

 事の始まりは、二人の出会い日の翌日から始まる……





「──異界に挑むためには、オリガミの強化が第一だ」


 昼下がりの午後。

 俺とレンは家の前の空き地に集まり、今後のミーティングを開いていた。


「私の思い描くチャートはこんな感じだ」


1.オリガミの強化。最低C級冒険者名のみの実力をつける。

2.金策しつつ、仲間を集める。

3.異界の攻略に乗り出す。


 レンは砂場の上に、近くで拾った世界樹の棒で、そんなことを書いていく。


「実は既に金策については当てがある。しかし、それにはどうしてもある程度の実力が欲しい。そこでまず優先すべきなのは、オリガミの強化だ」

「俺の強化……つまりステータス上げってこと?」

「いや。ステータス上げも重要であるが、それ以上に今回重視するのは『攻撃スキル』の獲得だ」

「おお! 攻撃スキル修得か!……えっと、攻撃スキル……って、何?」


 レンは当たり前のようにステータスとかスキルとかの単語を使うが、それが認識出るのはあくまで彼女だけだ。

 この世界はゲームのような世界じゃなくて、それっぽい現実世界なのだから。


「例えばだ。君は剣の達人の振り方に名前があるのは知っているか?」

「え? 剣道の上段切りとか、そういうの?」


 剣道漫画で、剣というのは流派は違えど結局は決まった型から繰り出されるのだと見たことがある。

 流派というのは、それにちょっとしたアレンジの違いに過ぎないとも。


「そうだな。それはこの世界でも同じだ。だが、この世界の剣士が繰り出す斬撃は、我々の知るものと違う」


 そう、この世界がファンタジーたらしめる要素として、魔力が存在する。

 この世界での剣の一振りには魔力が宿る。

 それによって、斬撃が飛んだり、炎を纏ったり、斬撃が3つに分かれたりなんていうのは珍しくない。


「私はそういった連中のスキル欄を見てきた。さぞかし、多種多様な技名で溢れているのだろうと。火炎切りとか、魔人剣とか、ディバインセイバーとかエクスカリバーとか」

「その口ぶりだと、違うの?」

「ああ、彼らの技名は全て『スラッシュ(?)』と表示されていた」


 スラッシュかっこハテナ?


「ハテナの部分はその人物独自の要素が入っている。炎の剣を操る剣士なら『スラッシュ(炎)』。ビームを出す剣なら『スラッシュ(光)』なんて具合にな」

「つまり……どういうこと?」

「簡単に言えば、私の目はそういった魔力を纏った斬撃すべてを『スラッシュ』というスキルとして一律に認識しているということだ。そして、ここからが本題だが、私は今まで見てきたスキルを振り分けポイントを消費して、他者に覚えさせることが出来る」

「え、マジ?」


 スキルの修得って、レベルアップの時に勝手に覚えるようなイメージだったけど、あとから好きに追加できるなんて、かなりの反則業だ。

 加えて、さっきの説明通りなら、俺は一つのスキルを修得することで、並み居る剣の達人たちと同じ技を手に入れることが出来るってことだし。


「ちなみにだが。私が今まで見てきたスキルは手帳にメモしてある。そんな中で、割り振りポイントが少なく、有用そうなスキルはこんな感じだな」


 手帳を見せてもらうと、なんか安いMMORPGに出てくるような、簡素なスキル名がびっしりと並んでいる。

 スラッシュを始め、スマッシュ、ワイルドショット、オーラガード、ブレイクなどなんか既視感があるものばかりだ。


「このうち、君の戦闘スタイル的にもこの剣を扱ったスキル『スラッシュ』の習得をしてもらいたい」

「お、おお。いよいよ異世界ファンタジーっぽくなってきたな。テンション上がってきた!」


 スキルの修得。レンの昨日見せた力は本物だ。苦節1年、俺もようやく底辺冒険者からの脱出できるかと思うと感無量だ。


「それで、どうしたらスキルの修得が出来るんだ!」

「簡単だ……はい、『スラッシュ』を修得したぞ」

「──え、もう?」


 昨日のように、レンが指を振ると光の糸が舞い、俺の身体を包み込む。

 そして、なんの準備もなしに、俺はスラッシュを修得できた……らしい。


「こ、これで本当に俺も達人並みの剣が振れるようになったの?」

「ああ。試しにやってみるいい」


 レンはそういって、貸していた世界樹の枝を俺に手渡す。


「よし……ふう……」


 世界樹の枝を受け取った後、虚空に向かって構える

 早なる心臓を落ち着かせるために、深呼吸。

 そして、気持ちを集中させ……


「──シィ!」


 世界樹の枝を、ブンと横に振った。


「…………」

「…………」


 静寂が二人の間に流れる。

 これが、スラッシュ? なんかただカッコよく棒を振っただけのような……


「ダメだな。熟練度が上がっていない、やり直しだ」

「へ? 熟練度って何?」

「それは後で説明する。というより、オリガミ。君、魔力を全然練っていないじゃないか。スキルは魔力を消費して発動するんだ。ただ振るだけじゃ意味がないぞ」

「あ、はい。すみません」


 なんか怒られてしまった。

 でも確かに、スラッシュっていうのは魔力を纏った斬撃ってさっき説明されたばかりだった。


 そりゃあ、魔力を練らずに振るっても意味ないか。


「……って、簡単に言うけどさ。魔力を乗せる斬撃って時点で俺、やり方分からんだけど

「そこは心配ない。昨日、私の魔術をレジストしただろ? あの要領で魔力を練り、念じるだけでいい。……いや、最初は叫んでおけ『スラッシュ』とな」

「え、それはちょっと……」


 なんか、この年になってそれはちょっと恥ずかしいというか……


「漫画のキャラたちはいつも叫んでいるだろうが。必殺技と思って言ってみろ。ほら、はーやーく。はーやーく」


 間の抜けた手拍子で催促するレンに促され、俺は改めて自分の中の魔力路を意識する。

 昨日、レンが理力と呼ばれる能力欄を上げてくれたおかげて、以前よりも自分の体の中に宿る力、魔力を感知するしやすくなった気がする。


 魔力を練り、全身の血管に通すイメージ。

 そうすることで、俺の体には今、魔力が全身を駆け巡っている。


「さあ、叫べ! 羞恥心を捨て、渾身の一撃を見せろ!」

「よし────『スラッシュ』!」


 脳裏に撃鉄が降ろされたようにイメージ図が走る。

 その瞬間、体が勝手に、本当に俺の意思を無視して動いた。


 ブン、魔力を纏った横薙ぎが繰り出される。


 その一振りをすさまじく、周囲の雑草がその場で吹き飛ばされるほどの剣圧を生じた。


「す、すごい……これが、スキル」


 さっきの技を本当に自分が繰り出したのだろか?

 夢ではないのかだろうか?


 しかし、確かに俺が振った後に沿って、周囲の雑草が奇麗に吹き飛び、剣圧に沿った更地が形成されている。


「やばい、やばいよレンさん! これ、マジでこんな簡単に……俺、これならすぐに異界の攻略なんて──」

「いや、ダメだ。失敗だ」

「へ?」


 俺の興奮に水を差すように、レンはさっきの一振りを失敗だと断言した。

 いや、失敗って、現に技がこうして発動したのに……


「失敗って、ど、どういう意味?」

「文字通りだ。さっきの一振りでも、熟練度は増えてない、あれは完璧なスラッシュじゃないってことだな」

「えっと……その熟練度ってなんなのさ?」

「熟練度は熟練度だ。ほら、ゲームでよくあるだろ? 新しいスキルを修得するためには、特定のスキルを特定の回数使うのが条件とか。要はそれだ」


 そういって、レンはカリカリと手帳に文字を書き加える。


 そして、書いた内容を俺に見せてくれた。


 ────『スラッシュ』:斬撃系攻撃スキル。熟練度0/100


「これも見方は単純だ。スラッシュは100回、完璧に使って見せないと、このスキルは定着しない。定着しないスキルは実際の戦闘じゃほとんと使いものにならないんだ」

「え、でもさっきそれっぽいの出たよ?」

「……これは前のユーザーから聞いたことだが。魔力を扱った技というのは、技を繰り出すというよりも、それを発動するスイッチを押す感覚に近いらしい。要は、コントローラーのボタンを押せば、キャラが勝手に技を出す。そのレベルになって初めて技として完成する……と言われた」

「スイッチ……」


 それは、さっき脳裏に浮かんだ撃鉄のイメージみたいなものだろうか?

 あれを下ろすイメージをするだけで、技が出る。


「実際私も同意見だ。私の扱う魔術も、それに近いイメージで行使している。つまり、この熟練度が達成された暁には、君はスラッシュの技ボタンが出来上がっているということだ」

「そう、なんだ」


 何というか、要領の得ない話ではある。

 だが、取り合えず分かったのはこの熟練度を達成させないと、技をマスターしたということにはならないということみたいだ。


「何となくわかったよ。とりあえず、スラッシュを100回、完璧に発動すればいいってことでしょ? なら簡単じゃん」

「……まあ、な。とりあえず今日から君にはスラッシュの熟練度を達成させることだけを意識してくれ。他のことは、私がやっておく」


 そういって、レンは未だ片付けが追っていない我が家に手を付けるべく、家の中に消えていった。


「ま、100回成功させるだけだし、夕方くらいには終わるっしょ」


 そんな軽い気持ちで始まったスラッシュ修得の道。

 初日の成果が1/100で終わった時の絶望感は、後にも先にも無かった。




 ──そして現在。


 俺は未だスラッシュを修得できないでいた。


「……もう少しなんだよな。何となく、イメージは付いてきたんだけど……」


 これが正解だ、上手くいった、という感覚は何となく掴んできた。

 実際、それを全身で感じたときは熟練度が上昇しているのも確認済ではある。


 しかし、ネックなのは……


「MP不足ってのは、どうしようもないんだよなぁ」


 魔力を消費する関係上、スラッシュを練習で発動するにも制限がある。

 レン曰く、俺がスラッシュを触れるのは1日50回が限界のようだ。


 それ以上は、MPが尽きて、失神してしまうらしい。

 その制限内で、完璧なスラッシュを100回というのは中々大変だった。


「なんか、野球投手の投球制限みたいだ」


 そう考えると、今やっているのは部活動の練習のようにも思えてきた。

 高校では当然のように帰宅部だった俺には、そんなこと無縁なことだと思っていたけど。


「人生って本当、何があるか分からないよなぁ」


 地面に転がりながら、流れる雲を追っていると、そんな哀愁染みた考えが過ってくる。

 レンは俺の練習を見届けると、情報収集だとか言って、どこかに行ってしまっており、現在ここには俺しかない。


 既に今日の発動制限も終えてしまったし、今日はあと何して過ごそう。


「……金はまだあるけど……ちょっとギルドに顔を出そうかな」


 もしかしたら実りのいい依頼があるかもしれない。

 そう思った俺は、少し重い体に活を入れながら、街のギルドへと向かった。

 


誤字脱字報告助かります! ありがとうございます!


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