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5話

「──見つけた。ゴブリンだ」


 長閑な田舎道を歩き続けて数分。

 ターゲットがいるとされる森の近くにやってきた俺たちは、一匹のゴブリンを見つけた。


「依頼書の情報を見るに、あの個体ではなさそうだな」


 レンフィールはセラスさんからもらった手配書と目の前のゴブリンを見比べている。

 

「あのゴブリンは角が1本だが、手配書のゴブリンは2本角だ。オリガミ、どうする?」

「ゴブリンは群れる魔物だから、多分近くにはいるとは思う。ここで下手に騒がれて仲間を呼ばれるのも嫌だし、先制攻撃がベストかな?」

「なら私は君の戦いぶりを見学させてもらおうかな。油断はするなよ」


 俺はゴブリンに気づかれないようにゆっくりと近づく。

 手には木の棒……いや、世界樹の枝を握りしめ、いつでも攻撃できるよう準備する。


「ゲッゲッゲ」


 ゴブリン。

 大きさは人間の子供程度はある、緑色の体色をした醜悪な小鬼といった風貌をしている。


 魔物の中では弱い方に分類されるが、徒党を組まれれば厄介になる。

 だからこそ、仲間を呼ばれる前に倒しきる必要がある。


 まあ、ゴブリンだし。2発だな。


「──ゲッ!?」

「──ッ!」


 ゴブリンが俺の接近に気づくのと同時に、駆け抜ける。

 ゴブリンが獲物である棍棒を構えるよりも速く、俺は世界樹の枝を振り上げ…


「まずは一つ!」


 ゴブリンの脳天に世界樹の枝を叩きつけた。

 瞬間、世界樹の枝で殴られたゴブリンから光の粒子がはじけ飛ぶ。


「ゲ、ゲゲッ!?」


 木の枝で殴られただけのはずなのに、予想以上のダメージを受けてゴブリンは混乱していた。

 その隙を見逃すほど、俺は甘くない!


「これで……ラスト!」


 体勢を崩すゴブリンに対して、追撃の一撃を加える。

 渾身の力を込めたその一振りは、ゴブリンに合った瞬間、光の粒子がスパークする。


「ゲ、ゲ──」


 予想通り、世界樹の枝を2発受けたゴブリンは輪郭が崩れていき、光の粒子となって霧散していく。


「……ふう、倒せた」

「おおー。すごいな、それが君の戦い方か」


 一息吐くのと同時に、レンフィールがパチパチと拍手してくれた。


「うん。この木の棒……確か世界樹の枝だったんだっけ? こいつで殴られると、あんな感じにパーンってダメージが入るんだ。弱い魔物なら1,2発当てれば大体は倒せるんだよ」

「この目で視たところ、世界樹の枝によるダメージはHPではなくMPに影響するようだな。世界樹の枝の一撃を受けた瞬間、ゴブリンのMPが減少し、ゼロになった瞬間倒せていた」

「へー。これって、そんな仕組みだったんだ」


 レンフィールの解説で、どうしてこんな木の枝で魔物が倒せるのかという疑問が解けてた。

 そう考えると、確かに俺のスキルって、チートっているかもしれない。


「というか、レンフィールさんてHPとかMPも見れるの?」

「ああ。説明しにくいが、戦闘になると、こう、君たちの頭上にゲージが見えるようになるんだ」

「何というか……本当にゲームみたいな見え方するんだね」

「まあな。私のスキル天使の視座。現実世界をゲームの世界に落とし込む能力……とも解釈できるかもな。ところで、これからどうする?」


 周囲を見渡すも、新手のゴブリンがくる気配はない。

 ただのはぐれだったのかもしれない。


「同種の魔物はその場に集中するっていうのは、この業界じゃ常識なんだ。多分、この辺りにターゲットはいると思う」

「そうか。なら、少し時間をくれ」


 そういってレンフィールは近くの木に軽やかに上り始めた。

 そして、周囲の様子を見渡し始める。


「えっと、何しているの?」


 そんなことをしても、この森じゃ小さなゴブリンは見つからないのに。


「ゲームと同じだ。例え姿を視えなくても、アイコン表示で私は魔物を見つけることが出来る。……多分、あそこにターゲットがいるぞ」

「あ、ちょ、ちょっと待ってよ!」


 そういって、木の上から音もなく着地したレンフィールはスタスタと森の中に入っていく。

 俺も慌てて、そのあとを追った。


「でもすごい。レンフィールさんの目があればもしかして採取系の依頼も簡単になったり?」

「まあ、薬草の種類くらいはすぐに見分けられるだろう。私も金策手段として活用する予定だ。……そして、オリガミ。分かるか? 居たぞ、ターゲットだ」


 森の中にある、少し開けた広場に着く。

 その中央に、一匹のゴブリンがいた。


 その体躯は通常の個体よりもやや大きい。

 体色に変化はなく、持っている武器は先ほどの個体と同様に棍棒が一振り。


 しかし、その頭部には、2本の角が生えている。


 ゴブリンの特異個体だ。


「ほら言った通りだ! どうせこうなると思ってたよ!」

「うるさいぞ。しかし、確かに奴はただのゴブリンのようだ。上位種の誤報とかではないな。……セラス嬢、確かに食えない人物のようだ」


 レンフィールとようやくセラスさんに対しての印象が一致して嬉しく思うのも束の間。

 2本角のゴブリンが俺たちに気が付いた。


「それで? 今度はレンフィールさんの力が見られるんだよね? そうじゃなかったら、一旦ここは逃げるのを提案したいんですが……」

「ああ。期待していい。……さあ、来るぞ」

「グゲゲ!」


 2本角のゴブリンはゴブリンとは思えない俊敏さで、俺たちに襲い掛かってきた。


 レンフィールを下がらせた俺は、ゴブリンを迎撃すべく構える。


「グゲゲ!」

「まずは一つ!」


 ゴブリンの棍棒の一撃に合わせて、俺は世界樹の枝を振るう。

 お互いの獲物が衝突し、木製武器の衝突とは思えない火花が散る。


 鍔迫り合いになる形で、俺とゴブリンは獲物を押し付けあう形となった。


「うそでしょ! 普段ならこれでゴブリンの棍棒がはじけ飛ぶのに!?」

「グゲゲ!」

「──ッ!? こ、んの……意外と力も……」


 ゴブリンとは思えない程の力に、徐々に俺の方が押され始める。

 このままだと、武器ごと弾き飛ばされる……!


「──なら、筋力を上げようか」


 その瞬間、光の糸が俺の身体を包み込む。

 振り向くと、その糸はレンフィールの指から伸びているものだった。


「さあ、筋力を強化した。押し返せるか?」

「いや、そんな、簡単に……?」

「グ、ギ?」


 手ごたえが変わった。

 先ほどまで、ややゴブリン側に有利だった力関係が、わずかに、ほんのわずかにだが俺の方へと傾いてる。


 突然の力関係の逆転に、ゴブリンも、当の俺も混乱していた。


「まだ足りないか? なら、もう一段だ」


 再び光の糸が俺の身体を包み込む。

 

「──ッ!」

「グギ──」


 その瞬間、俺とゴブリンの力関係が確かに逆転した。


「これ、な……!」

「グギ!」

「らぁ!?」


 押し返せる。 

 そう思った瞬間、ゴブリンが器用に棍棒をそらし、俺の身体をよろけさせた


 体勢が崩れる。

 その刹那、再び糸が舞う。


「技量と俊敏を上げた。切り返せ、オリガミ!」


 普段の俺ならこのまま倒れこんでしまうであろう体勢から、何とか持ち直す。


「まずは……一つ!」


 そして、同じく体勢を崩していたゴブリンに向けて、一撃を加えた。


「グゲーッ!」

「よし。乱数もあるが、おそらくあと3発で落ちる! 畳みかけろ、オリガミ!」

「──シィ!」


 普段よりも体が軽い。

 自分の思った通りに身体が動く!

 世界樹の枝の一撃により、揺らめいるゴブリンに向かって続けざまに一撃、更に追撃を加える。


「グ、ゲ、ゲ……」

「よし! あと一撃だ! そうすれば私たちの勝利……いや、これは」


 背後でレンフィールの戸惑いと同時に、森の奥からゴブリンの叫びが木霊する。

 まずい、どうやら他のゴブリンたちに気づかれたようだ。


「いや、まだ距離はある。オリガミ! 早くケリを付けろ! このままだと包囲されるぞ!」

「グゲゲ!」

「くそ、ダメだ。逃げられる……!」


 二本角は小賢しくも、一目散に仲間の元へ合流すべく駆け出してた。

 微妙に追いつけない距離だ。このままじゃ逃げられる。


「なら……君の力で何とかして見せろ!」


 再び舞う、光の糸。

 ステータスを強化されるその光で、今度は何を強化したのだろうか?


 俊敏、それとも技量か?


 その答えを聞こうと時、急に視界が広がる違和感を覚えた。


「……あ、そうか。俺にはこれが!」


 唐突に脳裏に浮かぶ打開策。

 その閃きのままに、俺は手をかざし……


「あいつを止めろ!」


 命令する。それと同時に、感じる脱力感。

 魔力が消費されたとき特有の感覚。


「グギ!?」


 刹那、ゴブリンの地面から木の根が出現し、ゴブリンの足に絡みつく。

 その場に拘束されたゴブリンは動きを止めた。


「これでぇ……ラストぉ!」


 駆け出し、無防備なゴブリンの頭部に世界樹の枝を叩きつける。

 インパクトの瞬間、今日で一番の衝撃音が鳴り響き……


「──よし」


 2本角のゴブリンの頭部が消し飛び、その体は光の粒子となって大気へと還っていく。


「ゲ、ゲ……」


 そして、運悪くその光景を見てしまったゴブリンたちはそれぞれの顔を見合わせると……


「ゲゲー!」


 蜘蛛の子を散らすように、その場から逃げ帰っていった。

 どうやら、あの2本角ゴブリンはこの群れのリーダーだったようだ。

 頭目を失ったゴブリンたちは、森の奥へと消えていった。


「あー……なんか、疲れた」


 戦いの疲労感で、俺はその場に身体を投げ出す。

 だが、普段感じている疲れとは違い、今日はほんの少しの高揚感が混じっていた。


「お気に召してもらえたかな、私の力は?」


 そんな俺の気持ちを知っては知らずが、レンフィールはドヤ顔気味に覗き込んできた。


「まあ、うん。なんか、これぞ異世界転移って感じだったよ」


 レンフィールの力。ステータス操作。

 その力は本物だった。

 その場で力があがり、体の使い方がうまくなり、思考の視野が上昇した。


 この1年停滞していた俺のすべてが、たった一瞬で様変わりしたのだ。


「でも逆に、俺の努力って何だったんだろうとも思うけどね」

「それは誤解だ。私が強化できるのはあくまで割り振りポイントありきだ。そして、このポイントは魔物を倒して貯めていくしかない」

 

 レンフィールはそういって拳を俺に突きつける


「これは君の努力が結んだ結果だ。おめでとう、オリガミ」

「…………あ、うん。ごめん、その……ありがとう」


 ようやくその意図を察した俺は、同じように拳を突きつけ、

 ガンガンってお互いの拳をぶつけ合った。


 


多くの誤字脱字報告助かります。ありがとうございました!


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