4話
「──ここが冒険者ギルドか。思った以上に小奇麗なところだな」
自宅から歩いて約数十分後。
人生初めてのオタク会話に花を咲かせることが出来て、ちょっと楽しかったりした。
そんな楽しい時間も束の間、ようやく冒険者ギルドに到着したレンフィールの開口一番の言葉がそれだった。
「レンフィールさんってギルドは初めて?」
「ああ。だからこそ驚いている。漫画のように居酒屋みたいな場所を想像していた」
「まあ、気持ちは分かるよ」
冒険者。
本流、分流なんて区別はあるが、その実態は簡単に言えば荒くれ者たちによる何でも屋だ。
冒険者を名乗るためにはギルドに登録するだけ。
あとは異界に向かうなり、依頼をこなしていけば立派な冒険者だ。
冒険者に斡旋される依頼内容は多岐に渡る。
一番簡単なのは草むしりだったり、迷子のペット探し。
腕に覚えがあれば、作物を荒らす動植物や魔物の駆除。
実績があれば国や学院といった特定の組織から直接依頼が来るなんてものもあるらしい。
そんな冒険者に付き纏うイメージは、正直なところ野蛮人のソレだ。
だからこそ、そんな荒くれ者たちが集まるギルドの中が、小奇麗なオフィス風なのにギャップを感じるのはしょうがない。
ぶっちゃけ、俺も最初は面食らったしな。
「それでオリガミ。ここではどうやって魔物討伐の依頼を請けるんだ。漫画のテンプレじゃ、掲示板に手配書が張ってあるイメージだが」
「まあ、そういうのもあるよ。でも、今日はいい時間だし、いい奴は残っていないと思うよ」
ギルドの中央には強大な掲示板が鎮座し、そこに依頼書が何枚か張ってある。
適当に中身を見るが、迷子探しの依頼だったり、めっちゃ強そうな魔物の討伐依頼なんだりの労力と見合っていない依頼しか残っていない。
「……言っておくけど、この強そうな魔物の討伐依頼を請ける、なんて言わない…よね?」
「ふむ。……そうだな。これは厳しそうだ。他に何かないのか?」
ギルドに来た目的は、魔物討伐を通してレンフィールの力を確認するというもの。
要は腕試しだ。
だから適当なナギの世界に行って魔物を探すのもありだが、いい感じの獲物に出会わないかもしれないし……
「……こういう場合は受付の人に相談すると、いい依頼を斡旋してくれる場合もあるけれど……お勧めは……あまり……その……」
「……? なんか歯切れが悪いな。何か問題でもあるのか?」
「問題……まあ、ないとは言えないんだけど……受付次第というか……何というか」
「とにかく受付だな。そうすると……」
レンフィールはキョロキョロと周囲を見渡す。
ギルドの受付は正直結構込んでいる。今でも、受付の前には厳つい連中が列を作って待機している。
「混んでいるな。……ん? あそこの受付はガラガラだな。あそこで聞いてみよう」
「あ、ちょ、あそこの受付はダメで──」
案の定というか、ギルドの事情を知らないレンフィールはずんずんと唯一閑古鳥が鳴いている受付に向かってしまう。
正直、そこは絶対避けたい場所だというのに、彼女は俺の制止を無視して受付に行ってしまう。
「まったくどうして人の言うこと聞かないかぁ…」
文句を言う相手は既に先に行っているので、ただの独り言だ。
俺も急いで彼女を追いかけようと小走りになる。
「──『棒振り』がドールを連れているぞ」
そして、冒険者の一団とすれ違いざまに、そんな会話が聞こえた。
「D級の癖に、ドール連れとか。偽物連中は派手でいいねぇ」
「ほんとほんと。ああいうミーハーばかりで、嫌になっちまうよ、まったく」
「……」
どうやら連中は本流冒険者のようだ。
こういう人たちは誰彼構わず、こういった陰口を叩くものだ。
だから、別に俺が気に入らないかという理由じゃない。
でも、だからと言っていい気分なものでもない。
俺は彼らを無視して、急いでこの場を離れた。
そして、レンフィールにようやく追いつくが、間に合わず彼女は受付嬢に話しかけ始めていた。
「すまない。魔物討伐の依頼を探しているんだが……」
「あらあら、こんにちは。冒険者ギルドにようこそ。受付嬢のセラスと言います。初めて見るお方ですね。……あら、イツキさんじゃないですか! こんにちは。お久しぶりですね」
「は、はは。こんにちは。お久しぶりです、セラスさん」
その受付に立っているのは、和風なドレスを身にまとう朗らかな印象を受ける女性だ。
桜を連想させるピンク色の髪の毛を後ろに束ねて、おっとりした口調で話す様は正にギルドに咲く一輪の花と言ってもいい。
受付嬢のセラスさん。
この世界で右も左も分からない時期に、何度か助けてもらった恩人でもあり、
このギルドで最も油断ならない食えない人でもある。
「この方はイツキさんのお連れさんですか。見たところ……ドールのようですけど。何というか、とても元気な方ですわね」
「レンフィールと言います。よろしくお願いします。オリガミと一緒に、今後はお世話になると思います」
「まあまあ! こちらこそ、ご贔屓お願い致しますわ。それで本日は討伐依頼を請けたいとのことでしたけど……」
「ええ。ちょっと腕試しに最適な魔物を見繕ってほしくて──」
「ちょ、ちょっと待って! セラスさん、少し席外しますね!」
とんとん拍子に話を勧めようとするレンフィールの首根っこを掴み、いったんセラスさんから距離を置く。
「いきなり何をするんだ。ヒトを猫のように……」
「急ぎたいのは分かるけど、セラスさんはダメ、セラスさんからの依頼だけは請けちゃダメなの!」
「……? どういう意味だ」
「セラスさんはね。あんなぽわぽわした見た目で、かなりえぐい人なの!」
彼女の受付にいつも人がいないのには理由がある。
それは、彼女が斡旋する依頼の難易度がかなり鬼畜だからだ。
書類上だけでは、簡単な魔物討伐の依頼に見える。
だが、彼女のもとに集まる依頼は必ずと言っていいほど厄ネタがあるのだ。
下級の魔物の討伐依頼だと思ったら、それが突然変異種だったなんて日常茶飯事で。
畑の依頼を請ければ、必ず厄介な魔物が襲撃し。
群れの討伐依頼なんて受けた日には、必ず上位個体が混ざっているのがオチだ。
そんな依頼を彼女は故意なのか無意識なのか斡旋する。
彼女のせいで、冒険者生命を絶たれた人間は少なくない。
そのため、彼女のことは地雷嬢なんて言う人もいる始末だ。
「──だから、セラスさんの受付はそんな気軽に請けちゃダメなんだ。そんなことをしたら、命が幾つあっても足りないんだよ」
「なるほど。そういった類の人か。分かった。参考になる」
「分かってくれた? だから、時間はかかるかもだけど、ほかの受付に並んで──」
「セラス嬢。こちらが要望する内容についてだが……」
「──レンフィールさん!?」
説得できたと安心したのも束の間、レンフィールはさらっとセラスさんと話の続きをする。
「あの、ちょっと……レンフィールさん話を──」
「そうですねぇ……腕試しということでしたら、このゴブリン討伐なんてどうですか? 街の近くですし、ちょっと行って、パパっとやって帰ってこれますよ! ちょっと、通常の個体より大きいらしいですけど、所詮ゴブリンですから。お勧めです!」
「ではそれで」
俺の話は完全無視で、レンフィールは依頼受注を進めていく。
「オリガミ。ほら、さっさとこの依頼を請けてくれ。私はギルドに登録していないから」
「うふふふ! イツキさん、この子とても面白い方ですね!」
「あ、あはは……そ、そうですね」
なぜ、どうして……
そんな文句を声に出す暇なんてないほどスピーディに俺たちの初討伐依頼が決まった。
〇
街のすぐ近くには、オーロラのようにはためく空間の歪みがある。
その光のカーテンの向こうに広がる空間こそが、異界。
世界樹の果実によって形成された異空間。
外の世界とは隔絶された、独立した小さな世界だ。
「ナギの世界なのに、通常個体と違うゴブリン。ダメだぁ。これ、絶対特異個体のパターンだぁ……どうして、どうして……」
「そこまで怖がることか? あくまでそういうことがあるというだけだろう?」
「俺はね! セラスさんの依頼をね! 何故か、いつも、請けさせられているから分かるの! これはそういうパターンなんです! 素人は黙っとれ!」
「そ、そうなのか。すまない」
だが結局了承してしまったのは俺だ。
とにかく、さっと倒してパパっと終わらせてしまうしかない。
「まず確認だ。今回は私の力、ステータス操作能力。これがどれほどのモノか君に体感してもらうのが主目的だ。異界の攻略。主の討伐。これを成し遂げるのに相応な力だということを理解してもらおうと思う。……ところでだが、オリガミ一つ質問いいか」
「うう……はいはい、なんでございましょう」
「君、防具は着こんでいるが武器はどうした?」
今の俺は普段の冒険者活動の正装だ。
動きやすい革製の鎧で急所を覆い、便利な道具袋を腰にベルトにつるしていつでも取り出せるようにしている。
しかし、レンフィールの言う通り、今の俺には武器が無い。
「ああ。武器はこれから『拾うんだ』 ちょっと待ってて」
「……?」
レンフィールを置いて俺はその辺をぶらぶらと散策する。
この異界は既に主を倒されて、果実も回収されている。
そのため、天気は快晴で、長閑な田舎風景が広がっている。
ナギの世界。既に人の手によって完全に管理されている異界だ。
だからこそ、ある程度奥、世界の深部に近づかないと魔物は出てこない。
俺は気楽にその辺の茂みをあさり続けて……
「お、あった、あった。レンフィールさん。お待たせ、武器拾ってきたよ」
「ああ、おかえり。……だが、それが武器? どう見ても木の棒に見えるんだが」
「ああ、うん。そうだよ、いい感じの木の棒が俺の武器なんだ」
拾ったのは、幼少期によく拾った振るったりするのにちょうどいい感じの木の棒だ。
ぶん、と試しに振ってみるがいつものようにしなりもよく、強度も十分だ。
「まあ、初見じゃ意味が分からないよね。実は俺、異世界に来てから──」
「『世界樹の枝』か。なるほど『世界樹の加護』というスキルはそういう意味か、これが君のスキル、チート能力というわけか」
「え?」
「ん? 違うのか?」
チート?
え、これが俺のチート能力なの?
いつもいい感じの木の棒を拾うことが?
え、マジ?
「あの……魔物に有効な武器って結構高くて。それで、俺異世界に来てからやけにいい感じの木の棒を見つけるようになって。武器代浮くから使うようになって。それに、これ何故か魔物とかに効果抜群で、それで、その……」
「世界樹の枝。魔に対する特攻があるとされているな。それに世界樹の加護。使用者が望めばその実力に応じて世界樹の恵みを受けると。なるほど、中々いいスキルじゃないか」
「あ、マジなんだ。この棒を拾えるのが俺のチート…」
異世界チートなんて無いと思ってたのに、あると明言されていたから楽しみにしていたのに。
どんな非常識な力が隠されているのかワクワクしていたのに。
「知らなかった。俺ってばちゃんと漫画みたいな異世界ライフしてたんだ。木の棒を拾えるだけだけど」
「なぜそう自分を卑下するのか理解に苦しむな。好きな時に世界樹の枝を拾えるスキルは非常に有効だと思うがな」
レンフィールはそういいながら、カリカリと手元で何かを書いているようだ。
「あの、レンフィールさんは何を書いているの?」
「ん? これか。これは君の……」
興味本位で尋ねると、レンフィールさんはそれを見せてくれた。
それは使い込まれた手帳で、そこには最早懐かしさを覚える日本語が書かれており、
「──現在のステータスだ」
──ステータス
折上樹
男性
振り分け可能ポイント10
体力:6
精神力:6
筋力:6
技量:6
俊敏:6
理力:6
スキル:背果樹の加護、棒振り
「これが俺のステータス……え、手書き?」
「残念ながら私の見ているステータス画面は他人には見せられない。ステータスオープンなんて便利なものはないんだ。だが、TRPGみたいで味が出るだろう?」
「まあ、味があると言えばそうだけど……」
殴り書きのせいなのかもしれないが、彼女の字はものすごく個性的だった。
汚いと断じるにはきちんとした法則がありそうだが、されど見易い字というわけではない。
「……あまり字の事は言わないでくれ。自分でも見難い字なのは自覚している」
そういって、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめるレンフィール。
もしかして、前世の時からこんな字だったのか? 完璧超人の弱点を意図せず知ってしまった。
「とにかくこれが現時点での君のステータス。客観的な君の実力だ」
「そうなんだ。……でも、比較対象が無いからよくわかないよ」
「そうだな。ちなみに、私のステータスは……こんな感じだ」
──ステータス
レンフィール
女性
体力:12
精神力:12
筋力:12
技量:12
俊敏:12
理力:12
スキル:簡易魔術、天使の視座
「……え、俺弱すぎ?」
待って、俺の能力値ってレンフィールさんの半分しかないの?
「私のステータスは全ドール共通のものだ。だからまあ、今のオリガミの肉体的能力はドールの半分くらいということになるな」
「半分。それに筋力も下って。もしかして、俺レンフィールさんと力比べしたら負けるの?」
「まあ、そうなるな。試してみるか?」
そういってレンフィールさんは腕相撲のポーズを取る。
「……いや、いい。なんか、負けたら色々挫けそうだし」
だが、初めて会った時のあの強気ように合点がいった。
ステ的に劣っている相手であれば、あれほど強硬な態度にも出れるか。
「ちなみにだが、オリガミのステータスはさっきギルドの冒険者を見た感じでも平均以下といった感じだったな」
「あ、そうですか」
それはまあ、しょうがない。
俺、底辺冒険者だし。相応の実力しかないのは分かっていたし。
でも……
「これでも1年頑張ってたんだけどな。それでも平均以下なんだ。……自信なくすなぁ」
「まあ、それも私と組めば解消されるさ。なにせ、割り振りポイントが10もあるんだ。直ぐに平均以上になるだろう」
レンフィールの説明では、この割り振りポイントを消費して各パラメーターを上げることができるらしい。
「だが、今割り振っても実感が湧かないだろう。まずは一旦君の現在の実力を見せてくれないか?」
「分かったよ。それじゃあ、行こう」
木の棒を腰のベルトに差し、俺たちはナギの世界を歩き始める。
今日もナギの世界の空は快晴で、気持ちのいい風が吹いている。
風に揺れ、波打つ草原はいつ見てもきれいだと思う。
何度見ても、その光景に心が穏やかになる。
「ねえ、レンフィールさん。奇麗だよね、この景色」
「……別に、私はそうは思わないな」
「あまり日本じゃ見れないから心が洗われるっていうか…」
「田舎に行けばよく見かける光景だとは思うが?」
「まあ、そうだけども」
この世界を好きになってもらう作戦。
第1次作戦は失敗に終わる。
「……あー。そ、そういえばさ、俺のスキル欄に棒振りっていうのがあったけど、あれって?」
話題を変えつつ、実はさっきから気になっていたことを尋ねてみる。
棒振り。それは俺にも悪い意味でなじみ深い単語だった。
「視た感じ、パッシブに作用するスキルのようだ。木の棒装備時に、筋力・技能にボーナスが付くようだな」
「へー……ちなみにだけどさ、スキルって何なの?」
「スキルとは……その人間の技術や逸話が昇華されたもの。または、生まれ持った特殊な能力のこと……そういったものがスキルとして表示されると認識している」
「そうなんだ。……棒振りってさ、俺の通り名みたいなやつなんだよね」
棒振りのイツキ。
いつしか、ギルドで俺はそう呼ばれていることを知った。
「まあ、蔑称だけどね。木の棒を片手に魔物に挑むなんて、傍から見るとバカみたいだし」
「だが、スキルとして認識出来るということは、君はある程度実績を残しているということだ。そう自分を揶揄する必要もないように思えるがな」
「そうかな……」
「ああ、そうだとも。君は立派な冒険者というわけだ」
実感は湧かないが、レンフィールは人をおだてるタイプじゃないのは何となくわかる。
だから、そういってもらえて、少しだけ嬉しかった。
「──よし! 俺、今日は頑張っちゃうよ!」
ちょっといい気分になった俺は、少し速足でターゲットがいる場所へと向かった。
誤字脱字報告ありがとうございます!
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