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3話

久我廉也とは完璧超人である。


学年トップの学力でスポーツ万能。

次期生徒会長が確定しているほど、人望が厚く、おまけに女子が黄色い声を上げるほどのルックスの持ち主。


天は二物を与えず、なんて言うのは負け犬の遠吠えなのだと理解してしまう程に、久我廉也という人物は存在感を放っていた。


結局クラスメイトの顔をまともに覚えていない俺でさえ、彼の顔をすぐさま思い出せる。


誰からも愛され、注目された男。

雲の上の人。天上人。俺とは生涯絶対縁のない人種。


それが、久我廉也なのだ。


「──どうかしたか? 人の顔をジロジロと。何かついてるのか?」


 そういって、プニプニと自らの顔を撫でまわす少女。

 愛玩用の人造人間(ドール)、個体名レンフィール。


 その仕草一つ取って、愛らしいという感情が沸き起こる生きる人形。


 それが、あの久我廉也だと誰が思うだろう。


「……いや、無理があるでしょ」


 そんな素直な感想が自然に出てしまう。まっこと恐ろしき異世界。

 

 TS転生なんて、ニッチなジャンルが現実化するなんて誰が想像できようか。


「人の顔見てなんだ急に。あと目が少しいやらしいぞ。さっきも言ったが、私をそういう対象としてみるのはよしてくれ」

「あ、いや。全然。そんなこと、微塵も思ってないです。はい」

「……本当か? まあ、いいが」


 あの衝撃の告白のせいで、再びスパークしていた思考も回復してきた。

 とりあえず、改めて今後についてどうするのか、レンフィールと話を続けていく。


「正直レンフィールさんには聞きたいことがいっぱいあるんだけど…」


 初めて出会った同郷の人間。

 話し合いたいことは山ほどある。


 自分たちがこの世界に来た理由を知っているか?

 この1年間の間、何をしてきたのか?

 俺に備わっているらしいチートスキルとは何なのか?


 だが、彼……いや彼女? と手を組んでいく上で確認しなければいけないのは…


「どうやって元の世界に戻るつもりなの? その方法ってもう考えているの?」

「無論だ。最短最速。RTA並みのテンポの良さで行くつもりだ」

「お、おお……」


 RTA。リアルタイムアタック。

 なんか、元久我廉也な子から出るとは思えないのが単語が飛び出たな。


「そ、それでその方法とは?」

「それは簡単だ。……『異界』の攻略。その『主』を倒し、それが守る『世界樹の果実』を使う」

「…………」


 絶句する。


 正直なところ、元の世界に戻る手伝いと言ったら、本とか資料集めをするとか、そっち系の話と思っていた。


 だが、一方でその手段には説得力があるのも分かっている。

 俺も当初は元の世界への帰還の術を探っていた。


 だからこそ分かる。

 元の世界に帰る。そんな大それた奇跡を叶えるためにはそれしかないことに。


 分かるのだが……


「か、簡単には言うけど。レンフィールさんはそれがどんなに大変か分かっている?」

「情報としては知っている。確認だが、君は冒険者としては偽物……ああ、いや。『分流』冒険者なのはあっているか?」

「ああ、うん。俺は主が倒されて平和になった異界しか言っとが無いから、あってるよ」


 冒険者には『分流』と『本流』という区別がある。


 分流は生活のために依頼をこなす冒険者。主が倒され安定した異界…『ナギの世界』にしか潜らない冒険者だ。

 俺を含めて、そういう分流冒険者は、偽物だとかにわか、なんて揶揄される。


 そして、本流冒険者。この人たちは未攻略の異界……漫画とか聞きなじみのある表現に直せばダンジョンに潜り、その攻略を是とする人たちを指す。

 本流として異界に挑むのが冒険者としての本懐である、なんていうのはこの業界に入って散々聞かされた話だ。


「異界を形成する世界樹から落下した果実。その果実は世界を一つ捻じ曲げ、生み出すだけの膨大な魔力が内包されている。これを利用する。それしか元の世界に帰る手段はない。……これが、私が結論だ」

「それってさ。つまりは……」

「ああ。君には今後、本流の冒険者として異界の攻略をしてもらうようになる」

「────」


 血の気が引く。

 簡単に言ってのけるレンフィールだが、それがどれほど過酷なことなのか理解しているのかしら?


「や、あの、その……言っとくけど、俺って弱いよ。D級なんだよ? 食っていくだけの稼ぎしかない底辺なんだよ?」

「それは謙遜が過ぎるんじゃないのか? こんな素敵な一軒家を購入できたんだ。それ相応の稼ぎや余裕があると推察するが?」

「……まあ、多少はあるかもだけど……いや、そ、それでも、厳しいのには変わらないと思うんですが」

「ふむ。まあ、現時点では厳しいのは事実だ。しかしだ……」


 レンフィールはぴんと人差し指を立てる。


「私の力と君の力。二人の力を合わせれば将来性はあると思っている。──ということでだ。早速出発といこうじゃないか」

「え、どこに?」

「決まっている……私の力、どれほどの物か君に体験してもらうとしようか」


 〇


 とういうことで、俺たちはギルドに向かうことになった。


 俺の一軒家は街から離れた郊外に立っている。


 今からギルドへ行くとなると、結構歩くことになるのだが、レンフィールはお構いなしにずんずんと先に進んでいく。


 街へ繋がる街道を歩きながら、考える。


 ──どうにかして、レンフィールの考えを改めることはできないか?


 彼女はこの世界に対して強い嫌悪感を持っている。

 その理由は聞けてないが、大分闇が深いのは間違いない。


 同郷のクラスメイトであり、俺の未練の解消のためにも手伝うこと自体はやぶさかでないが…


「いや、いやいやいや。無理、無理だってせっかくここまでやってこれたのに。死んじゃう。俺ってば死んじゃうよ?!」


 異界の攻略は想定しなかった。

 いや、手段としてあり得たかもしれないけど、初手からそれ一直線は考えてなかったよ。


 異界の魔物はめっちゃ強い。

 俺も冒険者としてある程度は経験を積んでいるから分かる。俺はまだそのレベルではない。


 というか、一生かけても無理な気がする。


 あそこに潜っている冒険者の動きはまさに人外のソレだ。

ああいった連中が潜って、それでも死ぬ世界。それが本流、異界攻略と呼ばれるもの。


 いくらレンフィールの力でレベルアップ的なことが出来るかと言って、それでどうにか出来るほどの物とは到底思えない。


 であればどうするか。


 手段は一つしかない。


「この世界の魅力を伝えて、永住させる……ことは無理でも、少しはいてもいいやと思わせる!」


 それしかない。

 あの勢いだと、どんな強行軍を取られるか分かったもんじゃない。

 手伝いはするし、協力もするけど。


 もっとこう、スローライフ的に行きたいんだ、俺は。


 そうと決まれば、なんか適当にこの世界の魅力をスピーチしようと思い、レンフィールに近づき……


「えーあちらに見える天まで届かんとする勢いの樹木こと世界樹と呼ばれる……」

「──なあ、オリガミ。君はRTA動画で好きな走者はいたか?」

「……はい?」


 なぜか緊張してボソボソと観光案内し始めてしまう俺を遮り、レンフィールはそんな話題を振ってきた。

 だが、その振られた内容があまりにも予想外で面食らう。


「私はニヤニヤ動画だとレトロゲーム系をメインに上げている○×氏の動画好きだった。彼に感銘を受けて私も何回か走ってみたが、あのチャート作りは狂気の沙汰だと思い知ったよ」

「えっと……ごめん、俺あまりそっち系の動画って見なくて」

「そうなのか? あまりゲーム実況はみない感じか?」

「えーと……その、最近はブイチューバ―的な奴がメインで…あ、し、知っている? そのブイチューバ―って」

「もちろん知っているさ。私はニジゲンの◇▽ちゃんが推しで──」

「あ、そ、そうなんだ。俺もその子は好きだよ。でも最近は──」

「実はスパチャを投げたことが──」

「俺、家にフィギュアが──」


 ──あれ?


 なんの話してるの?

 俺、なんで異世界で好きだった推しのゲーム実況者の話しているの?

 それも外見は女の子だけど、中身はあの久我廉也とだよ?


 完璧超人で、人生で絶対縁が無いと思っていた久我廉也とだよ?


 知らなかったよ。久我廉也ってスパチャ狂いだったの知らなかったよ。


「──ん? どうしたオリガミ。ぼーっとして」

「え、いや……なんでもないんだけど……」

 

 実は気を使われて、話を合わせてもらっているだけだったり?

 いや……


「それでな。人生縛りをしてモケモンしている動画は本当におススメで……」


 こんな素敵な笑顔で推しトークする姿が演技とは思えない。

 とういうか、まるっきりオタクのソレだし。


「レンフィールさんってさ」

「ん? どうかしたか?」

「──もしかして、結構オタク?」


 恐る恐ると聞いてみる。

 あの久我廉也がオタクなんて、普通はあり得ないことなのだが……


「──オタクなんてそんな。ただちょっとそれ系が好きなだけだよ」

「…………」


 ここで私めっちゃオタク! なんて反応されたら信じきれなかった。

 しかし、恥ずかしそうに、謙虚に返すその姿を見て確信してしまう。


 ──久我廉也ってオタクだったんだ。


「どうしたんだ、オリガミ。さっきからうわの空で、それよりもだな。その実況で──」


 パリンと砕ける俺の中の久我廉也像。


 元の世界で、遠くから見ていた別世界の象徴だった彼。

 周りに話が合う人がいなくて、孤独な日々を送っていた俺だったが、あんな遠いようで近い場所に同好の友がいるとは思えなかった。


 ──オタクなエリートって本当にいたんだん。オタクに優しいギャル並みに空想な存在と思ってた。


 ファンタジーな異世界で、いろいろなものを見てきたが。

今日の出来事が一番幻想チックだったなと、レンフィールとオタク会話に花を咲かせながら思ったのでした。


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