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2話

「……なに?」


 勧誘を拒否されるなんて思ってもみなかったのだろう。

 レンフィールは怪訝そうに可愛らしい眉をひそめた。


 困った顔も可愛いなぁ…という感想を飲み込む。


 今まで押せ押せだったレンフィールの勢いが削げたことで、俺もようやく脳みそが回転してきた。


「えっと、さっきだけど。自分のこと、転生者って……」

「あ、ああ。そうだ。君なら分かるだろう? 私はいわゆる、異世界転生をしている。逆に君は異世界転移だろう? 依然とは雰囲気が変わって気づかなかったが、確かに面影がある」


 異世界転生。

 つまり、この子は元々肉体ではなくて、この世界で産まれ直したってことか。


「あと…どうして俺の名前、知ってるんだ?」

「簡単だ。私には視えるんだ。名前、性別、年齢、能力値…つまり『ステータス』。そういった、モノが視えるのが私の特殊技能。それが私の異世界チートいうわけだ」

「異世界チートって……」


 これまた懐かしい単語を聞いた。

 異世界転移または転生モノで殆どの場合主人公に備わっているインチキ能力の別名。


 俺もこの世界に来たばかりは、それがあるものだと信じて疑わなかったが…


「その…えー、レンフィールさん。残念だけどここはちゃんとした現実なわけで。そんな夢みたいな力はないんだよ? それに、この世界には残念だけど漫画みたいにステータスの概念はないし」

「それは知っている。だからこそ、私の眼はチートだと言っているんだ」


 レンフィールは疑う俺に対して、むっとした態度を取る。

 口をすぼめて可愛いなぁ…なんて考えは頭の片隅に置いとくとして…


「もしかして、それはドールとしての機能なんじゃないの?」

「それはない。同型の連中に聴取したが、そういった機能は確認できなかった。ゆえに、これは私だけの特殊能力というわけだ」

「そ、そうなんだ」 

「……なぜそこまで頑なに疑うんだ?」

「だって…」


 この世界には元の世界と違うファンタジーな面が多くある。

 天まで届く巨大樹。魔力の有無。魔法の存在。魔物。異界エトセトラ。


 この世界は確かに漫画のような法則や存在が、リアルとして存在する。


 しかし、だからこそ。

 元の世界と違うからと言って、この世界は漫画やゲームの中というわけではない


 ──だって、俺にはそんなチート能力なんて……


「その類の力は君も持っているだろう? この目で確認できる限りではだが」

「……え?」


 なにそれ、初耳なんですけど。


「……気づいてないのか? まあ、ならそう大したスキルじゃないってことか」

「や、ちょ、ちょっと待って。ほ、ほんとに俺、そんなチートみたいな力持ってるの?」

「なんだ。私の力を疑っていた癖に。自分の事となるとえらく素直だな」

「そ、そりゃあ…」


 レンフィールの指摘に少し気恥ずかしさを覚えつつも、胸が高鳴るのを自覚する。


 本当に、俺にもそんな力があるのだろうか?

 もし、そうであるならば。もしかして、俺も冒険者として『本流』デビューが出来るんじゃ…


「そんなことよりだ。オリガミ、君はどうして私の誘いを蹴る?」

「……え、あ、俺?」


 オリガミ。この世界では苗字で呼ばれることはほぼないので、それが自分の事を指していると自覚するのにワンテンポ遅れる。


「……? 当たり前だろう。ここには君と私しか居ないし。それにオリガミなんて苗字、学校でも君くらいしかいなかっただろう」

「あ、うん。そうだね、すみません」

 

 反射的に謝るが、彼女の言葉に引っ掛かりを覚える。

 学校?


「それで。どうして私の誘いを断る。元の世界に帰りたくないのか?」

「……まあ、うん。はい」

「……正気か?」


 目線からも、おまえ頭大丈夫か? って感じが伝わる。

 

「この世界は確かに漫画やアニメのような存在が現実と存在するファンタジー世界だが、その実態は狂っていると言わざる負えない。

 私のようなドールと呼ばれる存在を作り、奴隷として使役する制度。魔法という技術が存在するにも関わらず、低い水準の文明レベル。加えて、いつかどこ死ぬとも分からない、それが当然だと言えてしまう治安。ここは、そんな場所なんだぞ?」


 レンフィールの語る言葉には感情が籠っていた。

 彼女がこの世界に生を受けて、今日まで経験してきたことが、彼女にとってどれほど過酷で耐え難く、嫌な記憶しかないことが、ひしひしと伝わってくる。


「うん。レンフィールさんの言いたいことはわかるよ。……俺も最初は戻りたかった。元の世界に、日本に帰りたかった。でも…」


 自分の命を掛けて戦って。

 勝って、生活の糧を得て。


 生きているという実感が湧いた日々の中で、俺はこの世界も悪いものじゃないと思っている。


「飯は不味いし、倫理観なんてぶっ飛んでて、いつ死んでもおかしくない世界だけど…

──俺はこの世界が好きなんだ」

「……まあ、立場が変われば視えるモノ違う。君の意見は尊重しよう。だが──」


 俺の言葉を最後まで聞いて、レンフィールはきっぱりと…


「私はこんな気持ち悪い世界は嫌いだ」


 言い切る。

 その瞬間、俺とレンフィールとの間に隔絶した溝があるのを理解する。


「そして、話を戻すとしよう。オリガミ、改めて私と契約を結ばないか?」

「……あれ? 俺、さっき断った気が…」

「君がこの世界に残りたいのは分かった。だから、私が元の世界に帰るのを手助けしてほしい。いや、協力してもらおう。そのための契約だ」

「えっと……」


 いくら元同郷とはいえ、なんで俺がそんなことを…

 面倒なことになったという思ったが、レンフィールは続けざまに言い放つ。


「一つ私の力の一部を明かそう。──私は契約した他人のステータスを強化することが出来る」

「…………はい?」

 

 え、それて、つまり……


「『レベルアップ』『能力値の振り分け』。更には『スキル修得』。そういったことが。私には可能だ。君にならその言葉の意味が分かるはずだな?」

「…………それって、本当?」

「強化するにはゲームなどと同様に魔物を倒す必要がある。つまり経験値。私は『EXP』と呼んでいる。

 私と契約した暁には、この異常な現実世界で、ゲームのような体験を出来るというわけだ」


 レンフィールは得意げに唇をゆがませ、どうだとしゃくりあげた。


「契約を拒むのなら、このまま君の元を去ろう。業者には私の方から追い返されたと言っておく。少し待てば、君の望む、文字通りのお人形さんがくるだろう。だが…」


 レンフィールがのぞき込みように、俺を見つめる。

 真紅の瞳が、怪しく揺らめいて、ひどく官能的だ。


「望めば、君は『主人公』になれる。どうだ?」

「───」


 彼女の瞳を見て、脳にビリビリと電流が走ったように錯覚する。

 すぐに彼女の望む言葉を投げかけ、彼女のために尽くしたいという欲求がこみ上げ来る。


 この感覚、覚えがある。

 これは、『魅了』の魔術だ。


「───ッ!」


 反射的に、自分の体の中に意識を集中させる。

 特に、腹の中央。魔力路と呼ばれる臓器。

 そこに神経を集中させる。

 

 炉を活性化さえ、魔力を練り上げ、急いで全身に行き渡らせる。

 体内の魔力を強制的に循環させることによって、体外から入った魔術効果を打ち消すのだ。


「──ぷはぁ…ッ! はあ、はあ、はあ……」

「……むー。失敗か。やはり冒険者を洗脳して駒にするプランはダメか」

「……どうして、こんな……」


 危なかった。

 気づくのが遅れていたら、本当に洗脳されていたかもしれない。


「私は何としてでも元の世界に帰る。それがどれほど非情な手段であっても。たとえ、元クラスメートだろうとな。……だが、ある意味でオリガミ。君は合格だ」


 レンフィールはソファーに座り、優雅に足を組む。

 ここまで終始舐められっぱなしで、非常に癪だが、この場での力関係は彼女が上のようだ。


 そして、彼女の言ったクラスメートって言葉…


「やっぱり……俺と君は、元の世界でも会っている?」

「ああ、そうだ。君と私は同じ学校で、同学級。つまりクラスメートだった。まあ、今の私は非力なドールになっているがな」

「ふ、普通…非力なドールは…ユーザーを洗脳しようなんて、しないよ」

「そうだな。強かな、と訂正させてもらおうか」


 得意げな彼女の顔を改めてみると、確かに見覚えがあった。

 ほとんどクラスメートしゃべったことが無いからすぐには思い出せないが、ああいった顔をする同級生がいた気がした。


「さて、ここまでやっておいた今更だが。私と契約を結ばないか? 先ほども言ったが、私には元の世界に戻るためのプランがある。そのためには、ある程度力を持った冒険者が必要だ。

 見返りは、私の力。望むなら……この身体を好きにしてもいい。

さあ、どうする? オリガミ──」


 レンフィールは悪びれた様子もなく、そういった。

 正直なところ、ここまでした彼女のことを改めて信用なんて、普通ならできないが……


「分かった。君と契約を結ぶよ」

「…………正直、意外だ。ビックリしている。どうして、その選択をした」


 俺が受ける思っていなかったようで、レンフィールは心底驚いた様子だ。


「いい機会と思ったんだ」

「……?」

「俺はこの世界で骨を埋めるつもりだ。でも、本当にそれでいいのかって、少しは迷いがあるんだ。でも、君を無事日本に送り届くのを見届ければ、それもなくなるかもって、そう思ったんだ」


 そうだ。

 正直なところ、俺にも元の世界に未練がある。


 だが、それはできれば断ち切りたいもの。

 気持ちに決着をつけるのに、今回の件はいい切っ掛けになるのではと、レンフィールの言葉を考えるうちに、自然と思っていたことだった。


「そうか。……私が言うのもなんだが、随分と甘いやつだな、君は。……だが、そういう甘さ、今の私には大変好ましく映るよ。

──なら、改めて。自己紹介をしよう」


 レンフィールは立ち上がり、俺の前に来た。

 俺も自然と背筋をただし、彼女に対峙する。


「第3世代愛玩用、人造人間(ドール)。レンフィール。前世の名前は久我廉也(くがれんや)。お察しの通り、君とは元クラスメート。特技はない。能力は『ステータス操作』。元の世界に帰るまで、よろしく頼む」

「……折上樹(オリガミイツキ)。D級冒険者、です。ジョブは戦士とかの前衛で、その……よろしくお願いします」


 レンフィールが差しだした手に、俺は遠慮がちに手を重ねる。

 今更ながら、同世代の女子としゃべって対峙しているのに緊張してきた。


 彼女の手は、冷たくて、すべすべでずっと握っていたくなるほど気持ちがいい。

 ああ、俺ってばこんなかわいい子とこれから二人屋根の下で暮らすなんてなんて幸せ──


「え、待って。くが? それにれんやって……くが、れんや。……久我廉也!?」


 は、ちょ、ちょっと待って。

 久我廉也って……


「うちのクラスの、イケメンで勉強もスポーツ出来て、生徒会の次期会長って言われていた、あの完璧超人の久我廉也!?」

「いや……さすがにそこまでのほどの器量じゃないが……君の脳裏にある久我廉也で合っていると思うが」


 人の顔を覚えきれない俺でも、はっきりと脳裏に浮かぶ久我廉也の顔。

 だが。それは男のそれで…


 目の前の、人形のような可愛らしい姿は似ても似つかなくて……


「TS……転生?」

「恥ずかしながらな。だから、一つ覚えてほしいことがある」


 そういって、レンフィールは力強く手を振りほどき


「私の性自認は男だ」


 さっきまで、ニギニギさせてもらった手を隠し、体を庇ながら…


「ゆえに、君に性的な云々は抱かないし、抱いてほしくない。そこのところを理解してほしい」


ちょっと気持ち悪そうにそういった。

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