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1話

「──ふう」


 最後の荷物を降ろして、ようやく一息つく。

 そして、見上げた先にあるのは、少々年季の入った一軒家だ。


「夢のマイホーム、か」


 そう、このボロ家は、俺が冒険者稼業で稼いだ金で買った、正真正銘俺の家だ。


 2階建ての庭付き。

 最新の家庭魔道具がついていないが、最低限のキッチンにシャワー室も完備している。

 

 異世界転移した元男子高校生が買ったものとしては上等だろう。


「……そうだよな。ここにきて、もう1年は経つんだもんな」


 あの日、学校の修学旅行の最中。

 突如として、光に包まれた俺は、この剣と魔法がリアルに存在する異世界に迷い込んでいた。


 漫画のような展開。

 しかし、それのような特殊能力…いわゆるチートが俺にはなかった。


 強いて言うなら、いつもいい感じの木の棒を拾えるようになる変な力が身につけてはいるが…


 とにかく、俺は異世界転移に巻き込まれた。

 それも、チート無しのタイプのだ。


 この世界に来た当初の記憶は、ずいぶん遠いものに思えた。


 必死に職を探し、見つからなかった俺は冒険者となった。

 漫画でよく目にする、異世界の花形的な職業。


 しかし、その実態は命の危機と常に隣り合わせな危険な職業だった。


 戦士として異界に潜り、ギルドで依頼を請けて魔物と対峙し、その日暮らしの金を稼いで生計を立てていた。


 大変だった。

 でも、充実した日々とも感じていた。


 ただ、空虚に時間が過ぎるだけの元の世界の暮らしと比べて、俺はこの世界での生活がいつの間にか気に入っていた。


 そして、いつしかこの世界で骨を埋めようと決めた俺は、貯金を始めた。

 目的は自分の城を持つこと。


 この世界に永住するために必要な、自分の帰る場所を作ること。


 苦節1年。

 そんな俺──折上樹はとうとう、成し遂げたのだ。

 自分の城を、マイホームを持つことに。


「──さて。あとはアレを待つだけだな……なんか、緊張してきた」


 家の中に入り、簡素なソファーに腰かけた俺は、次のイベントに備える。


 じつはもう一つ。

 俺は、マイホームと共に購入したものがある。


 それは俺を主人と呼び、敬い、身の回りを世話してくれる存在。

 その手の漫画をたしなむ者なら一度は夢見る存在。


 ──コンコン。


 小さなノックの音色がマイホームに響いた。

 来た。ついに来てしまった。


 心臓が鐘のように鳴り響く。


 緊張しつつ、されどポーカーフェイスに努めて玄関に向かう。


 そして、ガチャリをドアを開けると…


「──はじめまして。ドール、『レンフィール』、ここに参上いたしました」

「…………」


 そういって、目の前の白い少女はスカートのすそを持ち上げて、軽く会釈した。


 声が出ない。

 想像していた以上に、目の前の少女…いや、人造人間(ドール)は美しかった。


「すごい、これが…ドール」


 人造人間(ドール)

 それは、この世界でいうところの、奴隷に近い立ち位置にいる人造生命体だ。


 人によって作られた、文字通りの生きる人形。

 労働力、戦闘補助、日常生活のサポートから愛玩用として。

 

 多種多様な目的のために鋳造された、人間の良き隣人、パートナー。

 

 だが、倫理観念が俺の知る世界よりも大分遅れているこの世界において、そんな都合のいい存在は、文字通りの奴隷として扱われていた。


 奴隷を買う。

 それは、異世界漫画においてどの主人公もやっているある種のテンプレだ。


 それを俺もしたい。

 そう思い、高い費用出して買ったドールだったのだが……


「ドールなんて、言い得て妙だ」


 レンフィールと名乗ったドールの容姿は、とても美しかった。

 白磁の陶器を思わせる白髪と白肌。

 風と共に揺れる髪は、出来すぎなほど美しい。

 さらに、頭頂部でぴょんと跳ねる髪が、ある種のアホ毛のようで可愛らしい。


 ドール、人形。


 その言葉にふさわしいほど、目の前の存在は美しく愛らしく思えた。

 そして、言い知れぬ高揚感がこみ上げる。


 こんな美しい存在から、俺はこれからご主人様と──


「購入を感謝する。だが、私は君の愛玩人形に成り下がるつもりはない、一個人。一人の人間としての人権、待遇を要求する」

「──へ?」


 ドールの予想外の言葉に面食らう。

 そんな俺の横を素通りして、ドール…いや、レンフィールはずんずんと家の中に入ってきた。


 ──ドスン。


「ふむ……【偽物】冒険者と聞いていたが。中々どうして、いい家を持っているな」


 レンフィールは主人であるはずの俺そっちのけで、わが物顔でソファーに腰を下ろした。

 そのあまりにも自然な振る舞いに、しばらくフリーズした俺だったが、ようやく我に返る。


「ま、待て待て待て待って…! えっと、あれ? 君ドール、だよね? 俺が買った、俺がご主人様なドール…」

「ああ。その通りだ。私のユーザーは君だ。そんな当たり前のこと、どうして聞く?」

「え、いや、え、だって…」


 ドールは基本的に自我が希薄である。

 ユーザー…つまりは、ご主人様のいうことを聞き、常にその後ろをついていく。それが。ドールのはずだ。


「その、君の態度が、その……あまりにも、人間らしくて」

「……! ふ、ふふ…人間らしい。人間らしいか。は、はは。っははははは!」


 俺の言葉の何が面白かったのか、レンフィールはカラカラと笑い出す。


「人間らしい。なんとも面白い表現だ。ヒトと同じ姿を持ち、思考する存在を指さして、人間らしいとは。……っは。随分と悍ましい思想を持つな、貴様は」

「え? あ、う……」


 怒っている。

 目の前のドール。いや、レンフィールという名の存在は今、怒っていた。

 

 その怒りの理由は、至極真っ当なもので。

 そして、この世界には似つかわしくない、文化的な感性から来ているように思えた。。


「これだからこの世界の人間は救えない……いや、待て」


 俺を射殺さんばかりだったレンフィールの眼が、一瞬和らぐ。

 そして、そのドール特有の真紅の眼が、俺の瞳を捉える。


「君は……もしかして、日本人か?」

「……え?」


 日本人。

 その単語の意味を一瞬、脳が理解できなかった。


 それほどまでに、俺はその単語をこの世界に来てから聞いてこなかった。


「ふむ。更に加護持ち…チート持ちか。これは……もしや…」

「えっと…あの、一体さっきから何を……」


 レンフィールはひとしきり頷くと、ウームと考え込み始めてしまう。

 あまりにも早い展開に、さっきから思考が追い付かず、俺もフリーズしてしまう。


 そして、俺のマイホームに奇妙な静寂が流れて数分が過ぎようとした時…


「よし、プランを変えよう」


 いきなりレンフィールはすくっとソファーから立ち上がる。

 突然のことに、俺もびっくりして背筋を伸ばす。


「当初のプランでは、馬鹿な底辺冒険者を洗脳して我が手駒とする予定だったが」

「──え?」


 なにそれ? え、俺洗脳されるの?


「これも何かの縁ということだ。だからこそ、名乗ろう」


 ずいっと、俺の前に立つレンフィール。

 そして、堂々とした姿を彼女は宣言する。


「私はレンフィール。今はか弱きドールの身だが、前世は日本人だった。マスター……いや、折上樹。君に契約を結びたい」

「けい、やく? それに、どうして俺の名前……」

「──私は、元の世界に帰るつもりだ。そのための、完璧なプランもある。……折上樹。私と一緒に元の世界──日本に帰るつもりはないか?」


 そういって、レンフィールは惚れ惚れするほど素敵な笑顔と共に、手を差し出してきた。

 その堂の入った姿に、一瞬元の世界でクラスメートであったある男子とかぶって見えた。


「一緒に、この間違った世界から脱出しようじゃないか!」


 その彼女の力強い言葉につられ、俺は無意識に手を伸ばし。


「さあ、ここに契約を─」

「あ、大丈夫です。俺、ここで生きていきますので」

 

 その手を無理やり降ろさせた。

 

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