嘘つきのあなたに
街路樹たちが緑から鮮やかな黄色や赤に色づき、風も肌に突き刺さるような寒さになってきた。容赦なく吹き続ける風から身を守るように、羽織っている薄手のコートを胸の前でギュッと掴む。
いつものように仕事を定時に頑張って終わらせ、啓介との待ち合わせ場所で待機していたが、時間になっても啓介は来ない。
15分過ぎた頃に啓介から着信があった。連絡はメッセージがほとんどなので、電話なんて珍しい。良い連絡では無いと思い電話に出る。
『悪い、湊。今日も残業になりそうなんだ。埋め合わせはまた今度するから』
「……そう。仕事忙しいのね。先週も残業だったものね」
残業の割には、電話の向こうから聞こえてくる啓介の周囲は随分賑やかだ。微かにクラッシックのBGMも聞こえる。
『そうなんだよ。本当に湊には悪いって思ってるよ。……あ、ゴメン!!呼ばれたから切るな』
私の返事も聞かずに啓介からの電話は切れる。啓介は聞こえてないと思っているのか、誤魔化す事なく取り繕う。だが、私の耳には届いていた。
女性の声、そして私の友人の声だった。
啓介との出会いは3年前になる。
高校の頃から友人の真理が彼氏と別れたから、会社の人と飲み会するから来ないかと誘われた。乗り気では無かったが、どうしても人数が足りないと泣きつかれたので渋々参加した。
そこに居たのが、真理と同じ会社で3つ歳上の野島啓介だった。
最初は初対面だったので、当たり障りのない話がメインだったが、帰りに連絡先を交換してからは、週に一度は何かしらメッセージが来るようになっていった。趣味の話も増え、お互いに共通の映画が好きだと知った時の嬉しさは今でも覚えている。
週に1度の連絡が3度に増える頃には、2人で出掛ける事も多くなっていた。
そんな恋人未満の関係が3ヶ月程続くと、啓介から正式に告白され交際を始めた。
真理にも啓介と交際する事になったと報告した時は自分の事のように喜んでくれた。そして、自分にも新しい彼氏が出来たと報告もしてくれた。
啓介とはそれなりに上手くいっていると思っていた。人並みに喧嘩もするが、仲直りの際には2人で美味しい物を食べたり、お酒を飲んだりもした。
真理とも変わらず良好な友人関係を続けていたと思っていた。真理の彼氏の愚痴や相談も聞いてアドバイスもしていたし、啓介と喧嘩した時も相談した。
「……何処で間違えたんだろう」
誰に言うのでもなく、呟きが深い溜息と一緒に出る。いつまでも待ち合わせ場所に居てもしょうがないので、その場を離れる。夕飯の準備は何もしてないので、取り敢えずコンビニに向かう。
2人の関係には薄々気付いていた。同じ職場だし、仲良くなるきっかけも多い。それに、真理の口から啓介の話を聞く事も多かった。
不安は無かったと言ったら嘘になるが、真理にも彼氏がいたから油断していた。もしかしたら喧嘩したとか、相談した時等上手くいってない時期を見計らって、どちらから言い寄ったかは分からないが、関係が進んだ可能性もある。
疑いが確信に変わったのは、2人で出掛けていたのを目撃した時だ。見間違いかもと思ったが、恋人と友人の顔を見間違える事なんてない。それよりも目を疑ったのが、2人が仲睦まじく腕を組んで歩いていた事だった。
目撃した日からそれとなく私と会わない日の事を聞いたりもしたが、「買い物に行った」「残業だった」等の答えしか返って来なかった。だが、真理に聞くと残業も無い。買い物に行った日は真理も同じ場所に出掛けていた。そして、真理と啓介の残業の日が同じ日になる回数も増えていった。
「情けないなぁ。2人に騙されるなんて」
誰に愚痴るという訳でもなく呟くと、ただただ虚しさが心に広がっていた。きっと今頃2人で食事でもしているのだろう。自分はコンビニでご飯を買おうとしているのに、そう考えるとさらに虚しくなる。
「………湊??」
やけ酒でもしようかと、缶ビールを手にした時に聞き慣れた声が聞こえた。
声がした方を見ると、同期の冴木涼だった。
「え、冴木さん??こんな所でどうしたんですか??」
「それはこっちのセリフだよ。今日は予定があるからって、定時で急いで帰ったのに。コンビニで買い物が予定??」
フッと冴木に笑われ、惨めさと恥ずかしさで急速に顔が赤くなるのを感じた。
冴木は湊より2つ歳上だが、会社では同期だ。大学院を出てから入社し、この前誕生日だとか言っていたので今は29歳になったはずだ。端正な顔立ちに背も高くスラッとしている。おまけに高学歴。だが、それを自慢する事もなく、仕事も手を抜かないので上司からの信頼も厚い。絵に描いたような完璧な人間だった。
女性人気もある冴木に、コンビニでビールを買おうとしている瞬間を目撃されるなんて穴があったら入りたい。
「……こんな予定では無かったんです。すみません、変なとこ見せてしまって」
謝る事でもないのだが、何故か謝ってしまった。
「いや、謝らなくていいよ。まさか居るとは思わなかったからさ。……何かあったのか??」
あまりにも浮かない顔をしていたからか、冴木は神妙な顔をして聞いてきた。わざわざ同期に話す事でもないと思い、手を顔の前で左右に振り否定する。
「いえ、大した事では無いので……。私、帰ります」
その場にいるのが居た堪れなくなり、慌てて商品を戻し帰ろうとする。が、冴木に腕を掴まれ動けなくなる。
「流石にそんな顔してる女性をこのまま帰す訳にはいかないよね。まだ20時前だし、ちょっとご飯付き合ってよ」
「えっ……でも」
「1人でコンビニ飯もつまらないからさ」
有無を言わさない笑みで言われれば断りにくく、ぎこちなく頷いた。
冴木について行くと、案内されたのなカジュアルな雰囲気のイタリアンだった。
「ここで良いかな??イタリアンって気分じゃ無かったら、店変えるけど」
「いえ、ここで大丈夫です。素敵なお店ですね。彼女さんとよく来るんですか??」
何気なく聞いてみたが、冴木はきょとんとした顔のまま答える。
「彼女??俺に彼女はいないけど??」
「え??そうなんですか??」
「何故かいるって思われてるけどね」
不思議そうに首を傾げながら、冴木は店の扉を開ける。
表はカジュアルなのに、店内に入ると静かだった。流れてくるBGMは穏やかなヒーリングクラッシックで、照明も明るすぎず暗すぎないくらいで調整してある。アンティーク風な装飾品で彩られ、季節に合った小物類も置かれている。
席数はそんなに多くないが、少人数で座れるテーブル席が幾つかと、奥の方に仕切られて簡易的な個室になっている席が3つあった。
店員に声を掛けられ、テーブル席を案内されたが冴木が気を利かせたのか、仕切られた方を希望する。
壁にコートを掛け、席に着くと一気に疲労感がやってくる。冴木と2人で話す機会などあまり無く、緊張もあるのだろうが出された水を1口飲み気持ちを落ち着かせる。
コップを置き顔を上げると、そんな私の様子を頬杖をつきながら、じっと黙ったまま見つめる冴木と目が合い、思わず目線をコップに移す。
「………ちょっとは落ち着いた??」
「は、はい。ありがとうございます」
冴木の言葉にパッと顔を上げて答えると、頬杖ついたまま微笑んでいた。
「なら良かった。てか、前から聞きたかったけど同期なのに何で湊は敬語なの??」
「同期と言えども一応歳上なので…」
「気にしなくていいのに。じゃあ今だけは敬語無しね」
「えっ!!それは無理で「ダメ」……頑張ります」
有無を言わさない拒否にそう答えるしか無かった。思ったより頑固だなと思い、小さく息を吐いた。
「……何があったか聞いてもいいか??」
こちらが落ち着くのを待っていた冴木は遠慮がちに聞いてくる。
「……聞かせるような話では無いのですが」
彼氏がいる事、友人と同じ会社、その友人と浮気しているようだと簡単にだが話す。今日の予定も恐らく浮気で無しになった事も、言葉に詰まりながらも話した。
自分で説明してて、ますます惨めになり冴木と目を合わせる事が出来なくなった。
話が終わり俯いていると、冴木が小さく息を吐く音が聞こえた。
「そうか。話しにくいのに、聞かせてくれてありがとう」
その言葉に驚き、思わず顔を上げる。すると、冴木は哀れむような表情でもなく、ただ優しく微笑んでいるだけだった。
「……情けないとか、思わないの??」
「何で??」
「だって、友達と彼氏両方に裏切られて、何もせずお酒に逃げようとしてたのに」
「湊は悪くないだろ??悪いのは裏切った2人だ。情けなくなんかないよ」
「……ありがとう」
情けなくて、悔しくて、悲しくて、泣きたいのを我慢していたのに。冴木の言葉に今まで堪えていた涙がこぼれ落ちる。
「あぁ、ごめん。泣かせたくないのに…。泣かないでよ湊」
狼狽えながら冴木は私にハンカチを差し出す。自分のを出そうと思ったが、差し出してくれたのに断るのも失礼な気がして「ありがとう」と言いながらそのまま受け取る。
「でも、その2人は許せないな。自分の大事な人に嘘ついて裏切ってどうするんだか」
冴木にとっては他人なのに2人に対して怒ってくれる。関係ない冴木まで巻き込んで申し訳ないと思いつつ、私の味方になってくれる冴木に頼もしさを感じる。
「湊はどうするつもり??」
「……正直、もういいかなって。嘘つかれた事も、裏切られた事も悲しいけど。失った信用は戻らないし」
話しながら、思ったより私自身がショックを受けていない事に驚く。もしかしたら、知らないうちに啓介への愛情が冷めていたのかもしれない。そう考えると別れを切り出すベストなタイミングだ。
「私自身、そんなにショックを受けてないから愛情も無いのかなって。……別れようかな」
「……そう簡単に別れていいの??その2人の思い通りじゃん」
その通りだった。正論すぎて何も言えなくなり黙ってしまう。
「それは私も悔しいし、なんとかしたいけど」
そう言うと、冴木は腕組みしながら「うーん」と考え込む。正直、なんとかしたいとは言ったものの、特にアイディアがある訳では無い。仕返ししようにも、浮気されたからってこっちも浮気する事も出来ないし、職場や家に嫌がらせする訳にもいかない。
冴木と一緒になって考えていると、「よしっ」と冴木が言う。
「スカッとするか分からないけど、現場に乗り込むか」
「…………えっ??」
突拍子も無い発言に目を剥いて驚く。
「いやいやいや、そんな修羅場にしたい訳では無くて!!」
それだけは避けたいと思い全力で拒否する。が、冴木は首を横に振り続ける。
「何も1人で行けとは言わない。俺も一緒に行こう」
「はい??」
理解が追い付かない。巻き込んでしまったのは私だが、関係ない冴木まで現場に乗り込む必要は無い。
「湊の彼氏、『啓介』って言ってただろ??聞いた事あるな〜って思ったら、つい最近営業先の担当が替わって新しく担当になった人だって思い出してさ。取引先が同期とトラブル起こしてたら問題大ありだからさ」
「担当って、確かに啓介は営業だけど、うちと取引があるって聞いた事ない……。」
「まぁ取引って言ってもうちの下請けの会社だけどね。湊の部署とは関わりないかな」
「もしかしたら隠していたのかも…。取引先だって分かって。会社名も教えたけど、人事部だと関わらないって思ったのかな」
「多分、そうだろうね。さて、下請けの会社の人間がうちの人事部の人間とトラブル起こして、向こう側が黙ってると思う??」
通常の会社なら取引先の人間と、私的と言えどもトラブル起こしたら黙ってないだろう。冴木は取引先に伝えて、私が迷惑したとでも言えば動くと踏んでいるのだ。上司から信頼が厚い冴木だからこそ出来る事だ。
「浮気してるペースは分かる??」
「えっと……」
メッセージとスケジュール帳を頼りにここ数ヶ月を思い起こしてみる。
「2週間に1回のペースでドタキャンされ、週に3回は残業しているみたい」
「結構な頻度だね。自分の彼女差し置いて。……このまま普通に連絡取ってみて、今度誘われたら湊から断ってみる??もしかしたらその日密会するかもしれないし」
「でも、密会する場所なんて分からないよ??」
「いつも待ち合わせ場所は同じ??」
「うん、同じ場所。会う時間にもよるけど店とかも大体同じかな…」
「同じ場所使うかは分かんないけど、その友達はSNSに載せたりしてない??湊が行かない店とか」
冴木の言葉にハッとして慌てて真理のSNSを開く。アカウントは持っていても見る習慣がないのですっかり忘れていた。真理のアカウントを見ると、友人や会社の人と行った旅行やランチの様子をアップしていた。
その中に、夜の写真もいくつかあり、『彼氏と』や『今日もデート』等のタグ付けでアップしていた。よく見ると、見覚えのある時計や車、そして私がプレゼントした男性物のバッグや靴も写り込んでいた。私が見ないと思って載せたのか、私に対して匂わせているのか分からないが、見せつけているのは分かる。
冴木はSNSを見て固まった私の手からスマホを取り、目を細めて見る。
「……完全に匂わせだね。この中で行った事あるお店ある??」
私にスマホを返しながら問い掛ける。写真を見ながら何軒かピックアップする。ただ、啓介が選ぶお店の傾向として、何軒かルーティンするため私とのデートで行って被っているお店もある。
「なるほど……。今日は何処の予定だった??」
「真理の写真にもある3週間前のこのお店。ファミレス風だけど、落ち着いててオムライスが美味しいお店で人気あるの。でも、真理は1ヶ月以内に行ったお店に、デートでまた行くのは嫌うから違うかもしれない…」
自信が無くなり、落ち込んでしまうが1ヶ月以上前にデートで行っている和食の店をチョイスする。
「次に行くとしたらこの辺かも……。真理から誘えばだけど。啓介が誘うなら次はファミレスになると思う」
啓介はあまりデートにお金を使うタイプでは無かった。食事も美味しければ安い店で十分なのでファミレス系統が多くなる。
「ならその2ヶ所に絞っておこう。それで、次のデートは断るかドタキャンしよう。そしたら密会するかもしれないから、定時で上がってその2ヶ所を張ろう」
「………なんか、巻き込んで申し訳ないです」
申し訳なさでどんどん小さくなる私の頭にポンッと手を置き冴木は微笑む。
「俺が勝手に巻き込まれにいったんだから気にするな。それより、腹減ったろ??遅くなったけどご飯食べよう」
頭から手を離し、メニューを見始める冴木に感謝と照れ臭さが入り交じり、顔が赤くなるのを感じた。
食後に出されたコーヒーを飲みながら、冴木と会社の話等していたらスマホの通知が鳴る。視線をスマホに移すと啓介からだった。後で返そうと思い、スマホから視線を外すと冴木も私のスマホを見ていた。
「………彼氏から??」
面白くなさそうな顔をし、聞いてくる。
「…うん。帰ってから連絡するよ」
先程までの優しい冴木の表情とは違い、怒ったような冷たい表情に驚きおずおず答える。
「ふーん。……まぁいいけど」
せっかく楽しんでたのに、悪い事したなと思い今日はもう帰ろうと急いでコーヒーを飲み切る。
「ごめん、急がせた??」
私が急いでコーヒーを飲んだのを見て、冴木がバツが悪そうに聞く。
「あ、ううん。楽しんでたところに、水差すように通知来たから悪かったなって…」
まさかそんな事を言うとは思わなかったのだろう。キョトンとした顔で冴木が目を見開く。そして、フッと吹き出して笑う。
「ごめん、そんなつもりは無かったんだけど。俺、そんな顔してた??」
「えっ……ちょっとだけ」
まさか笑うとは思わなかったが、正直に答える。顔に出るとは思ってなかったのか、冴木は口元を手で覆いながら言う。
「そんな顔に出てるとは思わなかったな〜。営業失格だな」
「いや、たまたま見ちゃっただけだからあまり気にしない方が…」
慌ててフォローするが、冴木は納得言ってないようで溜息を吐く。
「次は気をつけるわ。……さて、そろそろ遅いから帰ろうか。駅まで送るよ」
そう言い、席を立つ冴木に続き、コートを羽織り席を後にする。会計時に自分の分は払おうと財布を出そうとしたが、冴木に「いいから」と手で制しながら言われ、結局奢って貰ってしまった。
店を出た後、駅まで送ると言う冴木に甘え送ってもらう事にする。冴木の少し後ろを歩き、俯きながら小さく息を吐いた。時間は22時近くになり、寒さも増して風が吹く度に身を縮める。前を歩く冴木は先程から無言だ。表情が見えない分、沈黙が不安を煽る。面倒事に巻き込んでしまって不快に思ってないか、うざがられて無いか、色々考え何か話さなければと思い「あの」と声を掛ける。
「今日はありがとうございました。色々とごめんなさい」
お礼と謝罪が混ざってよく分からないお礼になったが、冴木は後ろを振り返り足を止める。
「敬語」
「えっ」
「また敬語になってる。ダメって言ったじゃん」
てっきり店内にいる間だけだと思ってたので、普通に敬語で話し掛けてしまった。が、それは受け付けないらしい。
「せっかく普通にしてたのに。敬語はもう外して」
ムスッと不機嫌な顔で言われれば断れない。クスッと笑い了承する。
「ごめん、気を付ける」
その返事に満足したのか満面の笑みを見せる。
「それで良し。そして、お礼も謝罪も要らない。さっきも言ったけど俺が勝手に巻き込まれにいったんだからさ」
そう言うと、また再び歩き出す。その後を慌てて小走りで追うと、急に冴木が立ち止まる。危なく背中にぶつかるところだった。
「……今更だけど、何でそんな後ろ歩いてるの??」
「えっ…。人気ある冴木さんの隣なんて歩いたら女性陣が怖いから…」
「そんなの気にしなくて良くない??今俺と一緒にいるのは湊なんだから。いない人達の事なんて考えてられないよ」
隣を歩くよう促され、冴木の隣に並んで歩き始める。人付き合いも完璧だと思っていたが、そうでもないらしい。意外と周囲の人の事は気にしていないようだ。でも、ふと思う。
「……どうして私の事はそんなに気にしてくれるの??」
答えにくいのか、冴木は気まずい顔をしたまま綺麗に整えられた髪を掻き上げる。
「………まぁ乗りかかった船だし、気になるしね」
答えにくい事を深く追求するのも悪いと思い「ありがとう」とだけ伝える。
駅に着き、送ってくれた事へのお礼をし、今更ながら連絡先を知らないことを思い出し、慌てて冴木に連絡先を聞き交換した。それから冴木はどうやって帰るのか訊ねる。
「俺は地下鉄だから大丈夫だよ。じゃあまた明日会社で。気を付けてね」
そう笑顔で言うと背を向けて地下鉄の方へ歩いて去っていった。
明日、会社行く前に何かお礼の物でも買って行こうと思い、改札を抜け電車に乗る。車内は空いていたため、降り口に近い席に着き、スマホを見る。ロック画面の通知に啓介からの未読メッセージがある。
『今日はごめん。今家に着いた。今日の埋め合わせ、来週の金曜でもいい??』
早速埋め合わせの連絡だった。断ろうか迷ったが、取り敢えず返事はせずにそのままにしておいた。冴木に今日のお礼と啓介からの誘いがあった事を伝える。冴木からはすぐに連絡が来た。
『こちらこそ!!話しにくい事、話してくれてありがとうな。一応デートはOKしておいて、店だけ確認しとこう』
了承した旨を告げ、スマホをしまう。が、真理のSNSを見ておこうと思い、再びスマホを取り出す。案の定、今日の様子もアップされていた。載せていた写真は予想通り和食のお店だった。そして、写真の隅には見覚えのある時計も見える。家に着いたら、念のために啓介が写っている写真は投稿と一緒にスクショしようと思い、スマホをしまう。丁度よく最寄り駅に着いたため、席を立ち降りる準備をする。
改札を抜け、駅を出ると周辺にはまだ沢山の人が歩いている。皆、強い風が身体に当たるため身を縮めて家路を急ぐ。家に着いたらまずシャワー浴びて、それからスクショしよう。そしてから啓介に連絡しなきゃ……。やる事が沢山ある。啓介に連絡するのは気が進まないが、冴木も協力してくれている。「よしっ」と1人で呟き家路を急ぐ。
思ったより長くなったので2つに分けてます。