1話
「努力なんてのはクソだ」
男は描きかけの原稿をくしゃくしゃに捨て去った
部屋はゴミばかりで溢れていた
「誰もが、作家になれるわけじゃねーし野球選手にだってなれるわけじゃない…こんなことのためにどんだけ費やしたか…努力が美徳とか笑わせる」
歯軋りをしながら机を叩いた
男はありとあらゆるものにチャレンジして失敗した。Yo○Tuberになるために機材を買ったり、作家、漫画家を目指したりいろいろやってみたが結果は出せなかった。
無駄な努力ばかりを積み重ねてきた。
不屈の精神さえあれば、いつか花開くただそれだけを信じて39歳まで足掻き心はどん底まで落ちていた
「リセットしたい…リセットしたい…リセットしたい…」
唇を深く噛みしめた
軽い血溜まりができるまで深く噛む様子はまともな精神状態にはなかった
異常な承認欲求、努力至上主義が彼を築いていた
「向上心のない者は馬鹿だ…ぐそ…俺は…ゴミ…そのものだ」
大量の睡眠薬を服薬して水を流し込んだところで男は気を失った
目を覚ますと真っ白な世界にいた。
モヤがかかったように回りは何もなかった
そんななか脳に直接響くような声が聞こえた
「異世界へと転生する気はありませんか?」
「は?」
突然のこと過ぎて間抜けな返事方をしてしまった
思考しようとするが考えなどまとまるはずもなかった
自ずと返事は遅くなり静寂な時間だけが流れた
「あなたは39歳で死にました、転生するか魂を消滅させるかどちらにします?」
あぁそっか…死んだんだ
「突然過ぎて訳が分かりませんが…まぁ」
深く考えた…
何度挑戦しても失敗した人生
異世界だろうがなんだろうが…
俺という魂では何をやっても水泡に帰す
そんなことばかりが頭をよぎる
無駄な努力…。
やるだけ無駄なのだ
「選択権ないじゃないですか…そりゃ消滅の方でしょ」
何者かはわからないが、そいつはすこし焦ったような感じがした…
「…それは違うでしょ。たかが、39歳まで頑張って終わりじゃ薄っぺらすぎるでしょ」
「小説も漫画もベストを尽くしたので、もう厳しいと肌で感じていますよ…努力はしました」
努力ということばでは安っぽいと思われる程度には頑張った
「あなたのペンネームは清浄でしたっけ?10の−21乗…。極小の単位。例えどんだけ薄い可能性でも最後まであらがう…ってことで付けた名前でしたっけ…」
「大言壮語ですね…そして多くのものと同じ挫折の道をたどった…まぁそういうことですよね」
死んだ後で罵倒されるのか
大言壮語な名前であるのは確かだったなとは思うが少なくない年数は費やしたはずだ
アホ面ひっさげで、口だけ動かしていた訳ではない…。
苔おろしにされながら耐えた日もある
愛想笑いで凌がれたと感じた日にはビリビリに引き裂き書き直した
腹が立つ…
努力したことある人間なら誰もが経験する出来事。だけど自分が歩んだ道を馬鹿にされるのは我慢がならなかった
歩んだ道自体を非難されたくはない
多少頭が回ってきた感じはする
「もっと遅咲きの作家とかはいるのに、頑張り切れないあたり…俺は未熟なんですよ。まぁ、努力してどうにかなるだけの甘い世界でもないですからね。諦めも肝心というのは人生の教訓ですね」
努力は報われるならしてもいい、まだ続けたい気持ちはあるが自分自身の器は信用出来なくなっていた
「罵倒や嘲笑。苦渋、辛酸を味わい…何度も壁にぶつかり続けた。面白いと言われたり…夢を託されたりいろいろあったりしたじゃないですか?まだまだイケたかと…多少の応援してくれる方もいたはずです」
「アンタは俺のストーカーか!」
うだつの上がらんポンコツ人間を監視しすぎだ。
「お話を考えてる時のあなたは輝いていたじゃないですか…」
誰かに努力を認められたかった…
確かにそういう気持ちはある
しかし、こいつは自分の心のうちを覗かれているような感じで好かない…
気持ちが悪い
他人に理解されたがったが、不慣れな部分に立ち入られる
悪寒で吐き気がする
「楽しかったのは確かですけどね…それだけでは人生負け組になって痛々しい。コミカライズも出版もなんもない。形に残せない報われない努力なんですよ。誰の為にもなりません」
趣味で書いていくことは考えたが、それでは意味がない。
他人に読まれてこそ作品は完結すると考えている。
書くなら誰かの心の支えになれる様な存在でなければならない。
子どもの頃に読んだ漫画の主人公の生き方が自分の支えとなっている。
誰かの助けになりたかった
それは自分のエゴになるのかもしれないとは知っている…
気持ち悪いかもしれないとも思うが、物書きなら多くの者が通る道であるだろうということは知っている
「では、努力した分だけ報われるなら転生してくださると…作家でなくてもいいとそう解釈してもよろしいでしょうか?」
何故…ここまで転生させようとするのか気になる
そして意訳が酷い…。
努力が報われたいのは確かだが、自分という本質からだいぶそれた着地点だろう。
作家でない方がいいな的に聞こえる
「努力した分だけ力になるのは面白いですけどね…しかし…唐突で意味がわかりません。何をさせたいわけ…」
話の流れがよめないが所謂、努力という部分で何かしら突っかかってきてるのは何か意味があるのだろう
「私は…あなたにやって欲しいことがあって。そうですね。期待してます。助けて欲しいと心から願っています」
「はぁ…?」
得たいのしれない人物。
もっと超常的存在かと思っていた
「私はといいますが、一体あなたは何ものですか。あなたは俺なんかより高位の存在に感じます。役に立てるかすら疑問ですね」
喧嘩になって言葉が荒くなってしまったが、出会いが違えば敬っていただろう
「自称神というところです…人造の神ですね。人から成り上がったというところです」
人から神に大層ご立派だよな
だけど…
「人を導く存在。ご立派。迷える子羊を助けてあげたらいいのではないでしょうか?しかし、助けられたい側というのは可笑しな話。向いていないのでは?」
「神力は私たちの生活源ですからほどほどに神威を示し、崇められるよう手助けはしてますよ」
…手ごたえがない
痛いところをついたつもりではあるが…、傷ついた様には感じなかった
「人は人…神にはなれない。やめておけばよかったと後悔するところです」
「とある世界の人は進化し続けたみたいです。タイムマシンを開発したり。魂の本質を暴き、魂の領域を拡張したり…開発可能性のあることはやるところまでやってしまった」
「死に怯えるが故に魂に記憶領域を作り、快適に生きるためにスキルを作り、新しい世界で生きるための世界まで作った。
だけど、悠久の時を生きる中で、人が人であり続けるのには限界があった」
老人といえば、孫に甘かったり。欲望とはかけ離れた無欲に近い存在だろう
「無我の境地に至った、仏にも近い御仁になったのではないでしょうか」
「…はぁ…全くの逆ですね。人というのは欲望の塊です」
ため息をつかれた
検討違いだから黙ってて欲しいのだろう
「慰められたいからと愛玩動物を可愛がる。地球温暖化を気にしつつ、生活を守るために地球を汚し続ける。時には正義のために悪人を渇望します。ストレスの矛先を国外に向けさせようとガス抜きの戦争をする。人というのは豚や牛、鯨もなんでも食う…。上げ出したらキリがありません」
「人は欲望のために犠牲を厭わない。…欲望に忠実になっていったのです」
「多情な神さまになって干渉しすぎて悪影響を与えてるということですか?」
「そういうことですね」
力を持ちすぎると傲慢になるということだろう。そして、スタンフォード監獄実験さながら神様役にどっぷり浸かっていると…
はぁ…めんどくさい…
「悠久の時を経てなお愚直に真っ直ぐいける人間がいたらいいですね…」
イジってきた理由は、これなんだろう…。
謎の期待感に寒気がする
努力にも消費期限がある
悠久の努力を渇望されるに違いない
努力も過ぎれば、それは苦行だろう
「ふふっ…丁度いい人材が目の前にいらっしゃるではないでしょうか。魂の拡張できる領域は時空神に匹敵すると算出されてます。遅かれ早かれ引き抜きがあるレベルなんです」
「神様修行ですかね…一体どんな神がお望みでしょうか」
「私の話では有りませんが、最上位神が望むのは性神ですね…。スキルの性欲に関するものを人族のMAXを超えてレベル30まであげて欲しいとのこと」
「レベル30とはどういったレベルですか?」
「例えば火耐性のレベルが上がると身体が、火の性質に近くなります。人族の限界は15に設定されていて。リミットオーバーして25まで上がるとエレメンタリークラスに昇進、さらに最上位の太陽神は火耐性がレベル30だったりします」
「太陽と比較されるレベルの性欲…人間の魂で到達しろと…やり方が怖いですね」
「そこは時空神様が開発してくださるかと思います。世界線すら移動してきてしまうお方で多重存在のエキスパートです。性欲系スキルの中のオーガニズムレベルを15に上げた状態で、千身一体スキルを使えばサポートをかけ離れたリミットオーバーを達成するはずです。1000回分のオーガニズムを同時にその身に受けるという衝撃力はでかいはずです」
千連釘パ○チといったところだろう。スキルを人の最大まで補正した上で魂の限界まで拡張する荒技が酷すぎる
「性神…近寄るだけであぶなそうな話ですね」
エレメンタリーたちと比較するなら近寄るだけで被害を被るかもしれない
感情のまま振り撒く姿を想像すると恐ろしい
「最上位神は魂の器がデカくて、神力も溢れています。ちっぽけな他神の神力の影響を受けづらいです。蟻が象を倒すぐらい不可能なことです。それぐらいの器と神力を集めてくれないと不感症が治らないので切実ですね」
「神力集めは1万年の寿命のある女性のハイエルフでしょう。老いは神力集めの悪影響なので途中から老いを感じさせないように改造します。AV女優とは隔絶した存在じゃないと神力も稼げないですからハードてす。保健体育の実技や全裸登校、目立つアイドルまでこなして身体で死ぬまで神力を稼いでください。性神になった後は天下り先でやりたい放題が約束されていておすすめのポストです。性神の神力は高値で取り引きされること間違いないです」
おすすめと言われても、何故女性になって男性にエロエロされないといけないのでしょうか。あと限界を超えたオーガニズムとやらは神力とやらでガード出来るのか…
服も神力も剥ぎ取って快楽の海に溺れろってか…生きる意味を見失いそうだ
300年の女子高生をやる気もないですから他のをお願いします
「話の落とし所はそこではないのでしょうね?本質が見えて来ません。何故力をつけさせたいのですか?」
「そうですね…私が頼みたいのは、この馬鹿げたシステムの破壊、または救済です。」
「転生先は人に与えたりしてるんですよね?人族の味方といった風には感じますけどね」
「まぁ…一度転生してから考えてください」
「あなたは、時空間耐性3まで取得した状態になってます。何度転生しようが魂にバックアップされていてスキルが剥がれ落ちないようにしてあります」
悠久の時を努力に費やせと言いたいわけですね
それに脳で記憶するだけではなくなっていたと…
転生するか、消滅するかの2択のはずなのに…。断ってもいいえを突っ返される謎仕様にも納得です
向こう側はやらせる気満々でした
「もう一度生きて、魂を抹消するかどうするか再考願いたいところです」
「いいえはないでしょうか…」
「あまり愚痴愚痴いうと性神にさせますよ。八百万の神といって馬鹿には出来ません。大切な神様の1つになれますよ…」
脅してきているあたり神といっていいのだろうか。システムの不備を感じる。干渉しすぎだ。