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22 【外伝】侍女と護衛のチチクリ事情

聖女付き侍女のローザは、王子付き護衛のイアンとチチクリアって‥‥

◆◆侍女語り


 実のところ、私ローザと、王子の護衛イアンは、ともにオニワバンだ。それと二人のチチクリ事情は、王子にはバレている。しかし、私が侍女としてお仕えするお嬢様はオニワバンのことと我々二人のことを知らない。聖女を務められる純真な御心では疑うことさえできないはずだ。そう、お嬢様が聖女に就任されたときに私は侍女に付いた。

 イアンは私と同じ孤児で、同じように拾われてオニワバンの養成寮に入った。3歳年上で、きわめて生意気だった記憶がある。そんなアイツと再会したのが、最西端の伯爵領だった。聖女と王子の初対面の席だ。即座に子どもの頃を思い出した。二人のチェスとオセロのやり取りを眺めていたら、あいつが口元を動かした。


「おい、このコンビ、相性が抜群じゃあないか」


 私たちは読唇術が使える。その意味を理解して、私がうなずくと、とんでもないことを言い出した。


「二人を引っ付けよう。オレたちもクっつこう」


 なんだ、コイツ。何をバカなことを考えているんだ。でも、お嬢様と王子の相性は抜群だ。こんな相手は二度と見つからない。確かに王族と平民が一緒になるのは難事だけれど、この二人だったら有り得ると思えてきた。そうか、二人は夫婦になる運命か。いずれベッドの上で睦み合うのかと思った。そしたら、その隣室で私とコイツが控えている姿を想像してしまった。

 じゃあ、今から繋がるか。早いほうがいい。私とコイツなら、互いの弱点を補い合えて、使命に関してメリットしかない。聖女と王子は立場上、しばらくは処女と童貞のままだけれど、私たちは許される。よし、やろう。早速、唇を動かす。


「王子が退出して30分後に廊下の終端で待つ。柱の陰にいるから準備万端で来い」


 思い起こせば、初潮を迎えたときに私は女の身体を使う(すべ)を叩き込まれた。自分の感情を制御して男を手なずける訓練だ。行為は、あくまで冷静に、相手を観察して五体を動かす。声のあげ方や下腹部筋の使い方も伝授された。

 手取り足取り教えてくれたのは女の先輩だった。男を使わないのは、仲間内で恋愛感情を持ってしまわないようにという配慮だという。万が一、身内で繋がってしまったら永久の番(とわのつがい)と呼ばれる。番頭さんに報告して、オニワバン全員が知るところとなる。我々同士の世界は絶対の信頼で成り立っていて、別離とか裏切りという言葉は存在しない。

 私たち二人は瞬時に決断した。


 指定場所に着いて、しばらく待っていたら、イアンがやってきた。

 そして、儀式が終わると、


「墓場までよろしくな」


とつぶやいて去っていった。


 そう、馬や猫と同じ一瞬の交わりだ。たったこれだけで生涯の相手が決まった。もちろん、後悔はない。ただ、ヤツだって本気は初めてのくせに、馴れた風が悔しい。他方で、頼もしくも感じた。猥談で耳が肥えているのだろう。手淫の回数だって、私とは比べ物にならないはずだし‥‥。


◆◆護衛語り


 国王に、休暇を取得せよとずっと言われてきた。しかし、我々なら2人で済むところを、代役を頼むと最低でも4人が必要となるし、第一、大事な両陛下を他人には任せられない。拒否したい想いはローザも同じだ。あまりに強く申し付けられたので、1年に2回4日を、いただくことにした。住居なんて持っていないから、そのときは旅館だ。


 前日の下城後にチェックインして、当日一日をボーっと過ごす。翌日の朝のチェックアウト後、登城する。登下城の際は、同伴だと見えないように細心の注意を払う。

 世の中一般の生活は想像さえできない。職務中の二人は三食を別々に摂る。それを休暇中は、向かい合って顔を突き合わせるというわけだ。これは気恥ずかしい。

 2泊3日中、ときたま、思い出したように身体を繋げる。あいつの湯浴みを寝床の中で待つ間は、不安というか、何か落ち着かない。だからまず抱き締めて、生きていることを確認する。


 そうだなあ。このごろ、二人で過ごす時間が楽しいような気がする。日中は街に出てみようか。手を繋ぐなんて、あいつは許してくれるだろうか。


 前の王太子が亡くなったときに、護衛だった兄弟子(あにでし)は商都支店長に異動した。ちょうど空席となったのだ。同伴でもよいとのことで、前王太子妃の侍女を連れて行った。オレたちと同じだったのだろう。こういう夫婦は見せかけではなくて、真剣が許される。すなわち、子どもを作ってもよいことになっている。ただし、3歳になった子は親から引き離され、王都本店の寮住まいとなり、オニワバンの修業が始まる。


 オレたちも先輩と同じような生活を望むならかなえてやると、番頭さんには言われている。けれど、二人とも両陛下が命よりも大事で、今の生活で十分に満足している。

 先日、婚姻届けを出した。オレたちはこれくらいで精いっぱいだ。

和風表現に拘ったR18版は、ムーンライトノベルズをご覧ください。

https://novel18.syosetu.com/n6047hn/

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