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19 中編:宗教観/水稲栽培

(2)宗教観


 そんな危険な土地に住んでいるとね。人間の意識も他とは変わったものになるわよね。

 まず、自然への恐れね。昔の人々は“(たた)り”って、考えていたみたいね。神様たちの所業として、国の根幹をなす宗教になったようね。自然信仰ね。天候に左右される農耕を主体としていたから、太陽信仰に落ち着いたわ。それが国家神道(しんとう)と呼ばれる多神教ね。

 さらに、国家として統一された頃に、大陸から仏教と呼ばれる宗教がもたらされたの。神道には無かった世界観や精神世界を提供してくれたから、国を挙げて取り入れたわ。ただこれ、宗教というよりも、生き方を説く哲学に近いわ。形としては多くの仏(神)を想定する多神教なんだけれど、それらは生き方を説く上での例え話なの。密教とか、禅とか、難しいところよ。この仏教と神道は混然一体となったわ。

 それから大陸から儒教という教えがもたらされたわ。最初は支配者が家来の忠誠を保つためだったけれど、忠誠の向かう先が最終的に仕事へ変わったわ。たぶん、これが官僚組織に根付いているのね。その道徳観の根底をなすものとしてとらえられているわ。


 それから民衆には不思議な“御天道様(おてんとうさま)”という概念があるの。明確なものではないのだけれど、民衆の根底にあるのよ。神道に似ているけど別物よ。子どもが悪戯をしたり、大人が悪事を働こうとすると、よくいうの。「御天道様が見ている」ってね。具体的に何かを祀るっていうわけではないのだけれど、なんでも見通している超自然的な存在を信じているのね。それがね、神様が動植物や物にまで宿っているという考えに結び付くの。川に向かって立ち小便をした弟を祖父が叱ったわ。「川の神様の(ばち)が当たる」ってね。私自身は祖母に言い続けられたわ。「トイレは、入る時より出ていく時のほうがきれいになるようにしなさい。トイレの神様が観ているよ」ってね。ペンにも机にも神様が宿っているから、粗末には扱えないわ。


 この全てのものに神が宿るという感覚と共に見逃せないのが、この国特有の言語なの。難しくいうと、子音には母音が必ずくっつくの。ちょっと想像がつかないと思うけど、おおむねそうなの。それがね。情緒にも影響するのよ。皆さんは、秋の虫の声を聴き分けられるかしら。スズムシが「リーン、リーン」で、コオロギが「コロコロコロ」だわ。日本語を話す人々には心地よく響いて、“声”の様に感じるのよ。ところがそれ以外の人々には雑音にしか思えないらしいの。皆さんも雑音かしら。これ、解からないわよねぇ。


 宗教のことに話を戻すとね。外国からハイカラな宗教が入ってくると、すぐに感化されて、クリスマスとかバレンタイン、ハローウィンとかいう風習を取り入れるの。奇妙よね


 一人の人間がね、今、話した宗教というか信仰を全部、混然一体として受け入れているのよ。女神さま一本の皆さんに信じられるかしら? ははっ、私が聖女だったわね。 

 前回紹介した自然環境を重ねると、生命とか社会とかに対する考えが独特になるのよ。


 こんな曖昧な存在がニホンの人たちね。でね。自分たちは単一民族だって信じているの。ただ調べてみると、東西南北あらゆる方面からやってきた人々が混ざり合って成立しているんだって。だから地域によって偏りがあるみたいね。ほんと、面白い人たちよ。


(3)水稲栽培


 ニホンの農業の特殊な点で、以前に下肥(しもごえ)の話をしたわね。その前段階として、とんでもない生産技術があるのよ。それが水稲栽培ね。その栽培地を田圃って呼ぶわ。水稲はね、稲が水を介して地中の養分を吸収するの。だから成長が早いのよ。それにたくさんの種類の微細な成分も取り込むから美味しくなるの。同じ稲で畑で育てる陸稲(おかぼ)という品種もあるけれど、まったく味が劣っているわ。

 稲は本来は暖かな亜熱帯の作物なのだけれど、生産性が高いといって、涼しいニホンに持ってきたのね。適合させるために長い年月をかけて品種改良を繰り返したみたいよ。それがね、苗を植え変えたり、水を張ったり、とてつもなく手間がかかるのよ。それも気温に合わせて微妙な調整が必要なの。ほんと、大変なのよ。地域にいくつもある田圃を一度に作業しなければならないから、農民は助け合うの。逆にいうと、隣近所との付き合いを維持するのが大変よ。

 水耕栽培はね、連作が利いて、施肥が容易なの。また雑草取りも楽だわ。ほとんどのところで1年に2回も収穫ができるのよ。中には3回なんて言う地域もあるわ。皆さんは今、3年毎に耕作地、休耕地、放牧地って回しているでしょう。これだけでも6倍以上の差よねえ。

 さらに、それで1回あたりの生産量が1桁違うっていうんだから、耕作面積が少ないニホンでは必定よね。どんな山奥でも、水が引けるのなら田圃よ。そのために土木技術が発達したの。ため池や堰、用水路ね。千年も2千年も前から営々と築いてきたの。古墳や城郭はその応用といえるわ。

 一方でね、栽培に精密さが要求されるということは、病気や害虫、さらに天候異変に見舞われると、途端に収量が落ちるの。だから、それらに備えた非常用備蓄は当然よ。為政者の心構えが試されるということね。

虫の声の話は、『日本語話者と虫の声』あたりで検索してみてください。


水稲栽培のアドバンテッジは一体どこにあるのかと調べても、連作可能とか、陸稲より食味が良いくらいしか出てこないのですね。でも、これ、水を引く手間ヒマを考えると、おかしいと思うんです。で、ここでは収量が1桁違うって書いてみました。全くの出鱈目です。下肥と相性が良いというのも、でっち上げです。

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