12 元聖女様と王子様の結婚式と初夜
薄くR18ぽい部分があります。
私の聖女としての任期が終わりに近づき、神殿内の動きがあわただしくなってきた。神官長は、収入の王宮依存度を下げる決心をしたようだ。それと、かねてより進めていた全国の神殿を一元化するという高邁な理想を実現するため、宗教事業を組み立て直すという。聖女を活動の中心に据えるというのだ。近頃は、その募集に関する問い合わせが引っ切り無しらしい。
そこで、聖女をまず5人、ゆくゆくは10人体制として、各地の神殿を毎年1回は訪問させる。選抜はオーデションとして、容姿のみならず、歌唱力とか舞踊力も加味する。もちろん学力も求める。
私が選ばれた5年前には、ガラポン抽選器の前に10人しか集まらなかった。隔世の感がある。‥‥ということは、ガラポンは、もう使われないということ。私が最後。少し寂しい。
神官を養成する神学校では、神学だけでなく経営学も学ばせる‥‥というような方針が漏れ聞こえてきた。こりゃあ、ロバート王子の絶対王政、中央集権化に負けず劣らずの野望だ。
私は退任した後、王宮住まいとなった。最低限のシキタリを早急に習得するためだ。結婚式の準備も着々と進んだ。私たちの4か月後の9月に王子の兄上=王太子も挙式するので、その予行演習の意味合いが強いらしい。式次第は王子と神官長が打ち合わせている。夫となる第2王子は、こういうことに拘るタチだ。
王太子のお相手は東の隣国の王女様だ。私がその言語を習得済みということで、話相手を期待されている。それで会話の腕をさらに上げるべく日々、レッスンを受けている。聖女では必要のなかったダンスの教習もあって、なかなか忙しい。
結婚式は大聖堂で執り行われた。神官長自らが導師を務めてくださったのは感無量だった。感謝半分、憎さ半分といったところか。私たち二人に当てられたスポットライトにはびっくりした。鏡を利用して太陽光線を反射させたのだという。晴れの日で良かった。曇りだったらどうしたんだろう。我が夫の発案とのことだった。
王太子のときは、これに馬車パレードが続くようだ。
結婚式のあとは披露パーティーだった。舞踏会も開かれた。王子とのダンスは楽しかった。しかし、疲れた。すべてが終わって湯あみをし、夫婦の新たな寝室に引き下がっていると、王子がやってきた。ねぎらいの言葉をかけてくれた後、もうしわけないけれど決まりだからと身体を重ねてきた。優しかった。
翌晩も抱かれた。行為に先立っていわく、
「深夜肉体労働は週イチと言ったのだけれど、最初の1週間だけは毎晩、相手をしてほしい。24年間、溜め込んでいて我慢ができない」
うなずくより外はなかった。同じベッドで寝るのだから、その後も何かの拍子で約束が反故になった。行為中はどうも、こちらの表情や身体の動きを細かく観察しているようで、技術はグングンと上達していった。その努力が解ってしまうと文句をつけることができなくなった。
◆◆侍女語り
ああ、始まった。お二人の最初の夜だ。
扉一枚を隔てた寝室からベッドの軋む音が微かに伝わってきた。私ローザは王子妃の部屋で控えている。オニワバンの集音術を使えば様子はツブサに拾えるけれど、今晩はそれを必要としない。両膝をついて、無事に済んでほしいと祈るのみだ。寝室を挟んだ向こう、王子の部屋のイアンはどうしているかな。泣いているかもしれない。アイツのほうが4年ほど長いものね。それに王子の暴走を抑えるべく苦労も多かった。
その点、お嬢様は楽だった。節度を保って華美に流れず、王子以外の男性とは一線を引かれていた。王子とだって今の今まで“おあずけ”を食らわせていた精神力は並大抵ではない。口づけの一つくらいは、なされたかったろうに‥‥。今晩の心構えは母親から授けられたという。ただ、前世での知識が半端なかった。この方面の経験があったのかとカマをかけてみたら、「どうかしら」と、はぐらかされた。5年間、お仕えして得た感触ではゼロ、あるいは一度だけだったと確信している。何か、お辛いことがあったのだろう。
人体全般に関しては女性のみならず、よくご存じだ。この世界は迷信ばかりだと嘆かれていた。もっとも、前世でもお嬢様が生まれる少し前までは同じようなものだったらしい。赤ん坊を産む役割から女性が解放されるのは文明が発達しても難しいという意味のことを口にされていた。自らの身体に違和感を持ちながら諦めておられるのだと思う。私もそれを実感している。
半刻ほどで寝室が静かになった。お二人は就寝されたようだ。よかった。連日、行事が続くし、疲労は大敵だ。王子が鬼畜な性分でなくて本当によかった。それにしても、どんな格好をされているのだろうか。お身体を冷やさないで欲しい。いけない、いけない。不敬だわね。王子を信頼しよう。
私はこの姿勢のまま仮眠をとることにした。明朝は王后陛下に今晩の御報告をしなければならない。
元来の投稿は 2022/03/13
結婚式で進行を司る役を“導師”としてみました。本来は仏教系で呼ばれる言葉のようです。
女性の身体的負担を軽減する方法として現在、フィンランドで開発された子宮内リングが普及し始めています。避妊と共に生理の苦痛緩和が図れるとのことです。





