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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
60/64

【60】鏡の飛翔

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

 これこそ我が世界、知られざる深淵の旅路。


 メイア11歳の夏。


 一瞬、波音が聞こえた。

 沈むような感覚とともに、不可解な多色の輝きがメイアの脳裏をよぎる。


 輝きの中をくぐる。


 どこにいるか分からない。

 いや、足の下には何もない?

 落下する?


「目を閉じ、思い人のことだけ考えろ!」


 メイアの体を抱くエリシェの老成した声が耳に注ぎ込まれる。

 何か答えようとしても、いまだ、恐怖に震える唇は何も言えずにいる。


 再び、輝きの中をくぐる。


 どこにいるか分からない。

 濃霧が湖のように広がる風景。

 ああ、これはグリスン谷だ。

 村も畑も何もかもスープのような白い霧に没している。


「来い、もう一度飛ぶ」


 振り返ると、エリシェは岩場に描いた魔法陣の中で、巨大な鏡を調整している。

 そして、その上空には輝く七枚の鏡のような光が舞っている。

「あ」

 しかし、それが何かを問うだけの余裕はメイアにはまだない。


「一度は守る。その間にウィリスの名を呼べ」


 そして、エリシェもすでに、次なる呪文の詠唱に取り掛かった。

 ゼルダ婆から聞いたことがある。

 魔法の力は人の子には大きすぎる。

 長い詠唱と入念な準備があって初めて出来ること。

 それでも、魔法を使うならば、人は多くの代償を支払わねばならない。

 すでにエリシェは、疲労し、その腕やドレスにさえ、見えない獣の爪に引き裂かれた跡が見える。さきほど丸呑みされたはずの彼女がなぜ生きているのか? おそらく何かの魔法だろう。だが、あれほど強大な怪物を一度は偽った魔法の代償は十分に彼女を蝕んでいる。


 メイアは、心を落ち着かせる。

 エリシェはエリシェの役割を果たそうとしている。


(私は、私が出来ることをしよう)


 それがどれほどの意味を持つのかはわからない。

 でも、今、そうするしかない。

 彼女は叫んだ。


「ウィリス!」


 大きな声が谷に響く。


「ウィリス!」


 霧の中から巨大な龍の頭が浮かび上がる。

 でも、メイアは叫び続ける。


「ウィリス!」


 龍は、崖の上で叫び続ける少女を発見する。その周囲には、古鏡の魔法がきらめく。いらつくように、龍は吼える。

 その声は言葉にならない唸りであったが、強烈な意志を伴ってメイアとエリシェを襲う。


 汝らは我が餌。

 ただそれだけの存在に過ぎないのだ。


 圧倒的な否定。

 メイアは声を詰らせる。

 もう食べられてしまうしかないのね。


 言葉が出なくなる。


「叫び続けろ!」


 エリシェがメイアを抱き起こす。

 同時に、火龍の大顎が迫るが、一瞬、きらめく鏡のような魔法にさえぎられる。

 鏡はたちまち砕け散り、同時に、メイアとエリシェは再び、闇に落ちる。


 一瞬、何かを通り抜けた後、落ちたのは、グリスン谷をはさんだ反対側の崖の上だった。


「叫べ!」


 エリシェの口元からは、血が流れている。

 それでも、棘ある雛菊の名前の通り、微笑み続ける。


「叫べ!」


 メイアは理解し、そして、叫ぶ。


「ウィリス!」


 火龍が振り返り、メイアを見つける。

 ふたたび、唸りを上げようとして、龍は北に視線を逸らした。

 凍てつくような北風が一気に吹き寄せ、谷から霧を吹き飛ばす。

 そして、白い巨人が龍に向かって槍を突き出した。



棘のある雛菊エリシェ・アリオラは、魔族「鏡の公女エリシェ」に名前を捧げた古鏡座の魔道師であり、鏡面転移や魔鏡の防御を使いこなす。

ただし、この世界の魔法とは本来、人の子の使う技ではなく、その反動が術者を苛むというものである。


★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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