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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
59/64

【59】火龍の雄叫び

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

 歌え、その祈りを声に乗せよ。


 メイア11歳の夏。


「霧は晴れない」

と、その少女は言った。

「だから、お前には、ウィリスを導いてもらわねばならぬ」

「ウィリス!」

 メイアは声を上げた。

「帰ってくるの?」

「帰ってくる」

 そして、彼女は北の空を指した。

 霧に包まれた白い空だったが、どこか夏とは思えぬ何かが感じられた。


 少女の名前はエリシェ・アリオラといった。

 彼女はその外見とは裏腹に老成した口ぶりで、ジードや村長と話しこみ、結局、朝から村人は里を去ることになった。

 彼女は、南の村に住む《霧の龍王パーロ・ファキール》の恐ろしさをとくとくと説明し、火龍の足止めのために、ジード、メイア、酒造りのウシュキ、そして、弓と罠に詳しいものとして、リシュの爺を残した。

 ジードとリシュは、ありったけの綱と道具を抱えて、川を少し下った。ジードは、火龍が早めに来た場合のために、鏑矢を持って川岸に潜んだ。その合間に、リシュの爺が川面を大物が抜けたら、鳴子が鳴るように仕掛けを張った。

 ウシュキは秋祭りのために仕込みかけた酒を村の川岸に運んだ。

「酒の匂いは、人の気配を隠す」

と、エリシェがいう。

「龍を酒に酔わすのかね?」

と、ウシュキが問うと、エリシェは微笑む。

「あれを酔い潰すには、この村が沈むほどの酒が必要だろう。

 そもそも、あれが酒を飲むかどうか、確認したものはおらぬ。

 少なくとも、泥酔した火龍という記録は残っていない。

 ……興味深い問題かもしれないわね」


 やがて、朝になり、村人たちが九十九折を上っていく。

 もはや霧は濃く、崖の上はもはや見えない。


「あとは、段取り次第」

 メイアを横に控えさせたまま、エリシェは、村の中央から動かなかった。

「あの、」とメイアは思い切って話しかけた。

「エリシェ様は、ウィリスや婆様とお会いに……」

 場違いな質問であることは分かっていた。

 だが、霧に包まれたグリスン谷で、メイアは沈黙を守り続けることが出来なかった。

「ああ、つい先日、会った」

 エリシェの答えはそっけなかった。

 メイアは言葉を続けることが出来なかった。

 しばらくの間があってから、エリシェは言葉を続ける。

「悪いな、どうも、世間話というのは苦手だ」

「いえ、あの」

「……《風読みのゼルディア》、いや、おぬしらの先代お迎え役、ゼルダは、我が妹のようなものだ」

 10歳にしか見えない少女の口から出るには、不似合いの言葉である。

 あきらかに四十を越え、老婆の域に達しつつあるゼルダの姉には決して見えない。

「ウィリスは、今、最後の扉に迫っているはずだ」


 そして、鳴子がカタカタと音を立て、鏑矢が虚空に甲高い音を上げた。

「来たぞ」

 エリシェの声は、引き続く火龍の雄叫びにかき消された。

 谷全体が轟きに揺れ、メイアはもはや恐怖で動くことさえできない。


 そして、また、すべては沈黙に包まれた。


「来た!」とエリシェは近くの酒樽を蹴り倒す。

 濃厚な酒の匂いがあたりに漂う。

 酒樽の間を走るエリシェの頭上に巨大な顎が出現し。その上半身を丸呑みにする。家よりも大きな上下の顎が、がきっとかみあわされ、エリシェの姿が消える。


「あ、あ、あ」

 もはや、メイアには声を出すことも出来ぬ。

 その背後から、すっと誰かがメイアの体に手を回す。

「飛ぶよ」

 エリシェの声とともに、メイアの視界は暗くなった。



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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