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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
53/64

【53】四方を見る顔

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

 偽りの名前と魔法の呪縛に縛られて

 我は四方を見る。

 復讐の兆しを見逃さぬために。


 ウィリス11歳の夏。

 ついに、《冬翼の大公》を束縛する封印へと辿りつく。


 アヴァター山の山頂に広がる広大な廃墟の中心。

 吹雪く白雪で霞むその空中に浮かび上がる、巨大な四つの顔を持つ首。それはグリスン谷のどの家よりも巨大で、開かれた口だけで水車ほどもあった。絶えず、四つの口から風を吐き、唸り、吼え、呪いを紡ぐ四つの顔。

 それは呪わしき封印の大地から身を遠ざけようとするかのように、空へ空へと舞い上がっていこうとする。しかし、何本もの黄金の鎖が首の各所を縛りつけ、ギシギシと唸りを上げながらも、巨大な首を山そのものに縛りつけられている。


「あれこそ、我らが父」

と、吹雪の中を舞う雪狼たちがささやく。

「おいたわしや」


 同時に、ウィリスの脳裏に、ネージャ様の声が響く。

「解放の時は間もなく来る。

 ウィリスよ、そちはお迎え役。

 すべきことは、お迎えの儀」

 その声が遥か風見山から伝わってきていることは分かっていた。

 ネージャ様の封土。

 最初に、永遠の冬が来た場所。


「この地にありし封印は、呪わしき下僕が解く」


 それが誰かは、何となく想像がついた。

 以前、街道で出会った邪悪な気配の魔道師。

 ゼルダ婆が言っていた「最悪の男」。

 あの者は禁忌を冒すために生まれた者。

 おそらくは、魔族の封印を解きつつ、その呪いを受けようとする者。

 あの男はあまりにも恐ろしく、あまりにも邪悪で、思い出しただけで悪寒がする。近づいたら、瘴気に当てられ、倒れてしまうだろう。


 でも……


 ウィリスは涙が出るのを感じた。

 魔族の呪いを引き受けるために、生きているのだとしたら、それはそれで悲しいことだ。人であることを止め、誰からも恐れられ、嫌われ、解放した魔族からさえも呪われるとしたら、あの男はどこで安らぐのだろうか?


「人として越えてはならない線」


 獣師ディルスが言っていた線の向こう側に生きるのか?

 おそらく、あの少女のように見えてもはや人とは言えない「棘のある雛菊」という女性だけが旅の仲間なのだろう。


「優しき子であるよ」

と、ネージャ様が言う。

「あれは、自らあの道を選んだ。

 お前もお前の役割を果たせ」


 ネージャ様の声とともに、ウィリスを乗せた雪狼は、巨大な首の下へと舞い降りる。古代の都市の内側、呪わしい封印の鎖の根本だ。

 鎖は、大木そのものを使ったような巨大な黄金の杭と礎石で大地に固定され、ひとつひとつの輪が大人ほども大きく、輪にされた金属は、ウィリスの胴ほども太い。


 雪狼の背から降りたウィリスにはもうすべきことが分かっていた。

 お迎えの舞と祝詞。

 本来、冬の始まりに行うべきお迎えの儀により、《冬翼様》を、真実の封印のありかへお招きするのだ。

両手を差し伸べ、ゆらゆらと複雑な弧を描く。

 ウィリスの祝詞に合わせて、雪狼が吠える声を上げる。


 ウィリスは、自らの中に巨大な冬の力が集まってくるのを感じる。


 遥か北の彼方、《夏のお休み所》で《冬翼様》が目覚められるのを感じた。今まで、封印によってくぐもっていた意識が目覚め、荒御魂が飢えと怒りに満ちていく。戦いのための精気が身心に満ち、感情が高まってゆく。

 ああ、目覚めの時が来たのだ。



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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