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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
52/64

【52】異端者の過去

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

 失うことを恐れるな。

 怖れに身を震わせて無為に過ごす時間こそ最大の危険を招く。


 ウィリス11歳の夏。

白き獣師とともに、アヴァター山の吹雪の中、かつて愛した女の死を語り出す。


「異端者は、なぜ、異端者と呼ばれるのか?」

と、レディアス=イル=ウォータンは自嘲気味に笑う。酷薄さを示す薄い唇を見て、ウィリスは、(寂しそうだな)と思う。

「それは、人として越えてはならぬ一線を越えてしまうからだ」


 人としての線。

 黒い獣師ディルスも言っていた。

 異端の獣師とウィリスの間にある、一本の線。

 その見えない線を、「越えては欲しくない」と。


「私は、その女を生きたまま、魔族に捧げた」

とレディアスは言う。


 生贄の儀式。

 ウィリスはぞっとした。

 そういうことをする、魔族の使徒がいるとよく聞く。ありがたいことに、グリスン谷の周辺にはいないらしいが、それでも、邪悪な魔族の信徒によって、子供がさらわれたとか、殺されてしまった娘の話は噂として聞いていた。腹を裂かれ、腸を引き出されていたとか、首を切られ、目をえぐられていたとか、それは、それは、恐ろしい話ばかり。


 答えることの出来ぬウィリスを知ってか知らずか、レディアスの告白は続く。


「それは叡智の代償だった。

 そうして、私は魔獣作成の秘儀を得た」


(叡智?)


 ウィリスはそれがどれほど大事な物かは分からなかった。

 確かに、魔法を学ぶために、多くの努力と苦難が必要なのは分かる。

 あんなことが一つもなく、ただ力を手に入れられるなら……

 でも、自分は誰かを代わりに生贄に捧げたりはできない。

 ゼルダ婆でも、メイアでも。


「そこまでしてしまう理由をお前が理解する必要などない」

とディルスが言う。

「人の命より大事な知識があるなどと考えるな」


 それが「人としての一線」。


 白き獣師レディアスは、黄金に輝く右手の篭手を握って見せる。

 ウィリスはそれが大きな魔力を発しているのを感じる。

 それがもしや、女性を代償に得た力なのか?


(否)


 ウィリスの疑問に答えるように、篭手が遠吠えを揚げる。

「これは、《陽炎の王スルース》」とレディアスは笑う。「獣師同盟より奪いし、《混沌の六魔獣》の一体に過ぎぬ。こやつを御するために、我が右腕を捧げた」

 見れば、レディアスには、左腕がないし、顔にはまり込んだ白い仮面はもはや肉体と一体化しているようだ。


「二つの目は、《収穫の騎士ラシュノルド》に、

左腕は《すすり泣く無限》に捧げた」


 あと、この人の中に人である部分はどれほど残っているのだろうか?

「それでも、私は、サイアを救えなかった。

 私は彼女を見捨て、今、ここにいる」

 その声は毅然としていた。


(後悔はしていませんか?)

 その問いは、ウィリスの唇まで達しなかった。


 突然、遥か南でおぞましい龍の気配が爆発した。


(汝らは我が餌)


 再び、あれが目覚めたのだ。

 飢えたる《霧の龍王》が。


 レディアスは、黄金の篭手で山頂を指差す。

「ウィリスよ、さあ、冬の封印を解け。

 そうして、お前の大事な物を救いに行け」


 メイアの顔が浮かんだ。


 その瞬間、ウィリスはひとり走り出す。

 雪狼たちが回りに従う。

 心地よい風と雪が強まる。


(乗れ)


 雪狼の声が響き、ウィリスは風とともに浮かび上がる。

 そして、天高く舞い上がると、ついにそれが見えてきた。

 山頂の上、巨大な四つの顔を持つ首が、黄金の鎖によって山そのものに縛りつけられていた。



仮面の獣師レディアスは、「火龍面舞」の主人公です。


★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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