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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
50/64

【50】間奏:機織り歌

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

 物語を紡ぐのは誰か?

 あるいは、物語に紡がされているのか?

 どちらでもあり、どちらでもなし。


 ウィリス11歳の夏は、同時に、メーア11歳の夏でもある。

 少女は、少年のいない間も日々を過ごしている。


 ウィリスとゼルダ婆が東へ旅立ってもう一月以上が過ぎた。

 グリスン谷は短い夏の盛りを迎え、畑仕事の合間に、メーアは機織りを習った。

機織りは根気のいる仕事だった。糸を機に並べ、張り、足踏みで糸を開閉させながら、杼を左右に動かしていく。一巻の布を織るのに何日もかかる単調な作業だ。

 パタンと開けて、杼を通し、パタンと閉じて、杼を返す。

 母は歌とともに覚えよという。

 足踏み機をパタンパタンと開閉させるのに合わせて歌うのだ。

 そして、一節歌ったら、糸目を整える。


 母は、祖母から聞いたという歌を歌う。


**


『霧と雪に祈る』


 谷の、川瀬を流れる霧は、

 眠れる龍のため息か、

 雪狼の足音か。


 ああ、あの人は今、いずこ。

 来年来月、望月の、春の宵には戻りましょう。

 社参りの御講を担って街より戻りましょう。


 山の、尾根に降る雪は

 冬呼ぶ翼の御印か、

 飛び行く姫の外套か。


 ああ、あの人は今、いずこ。

 来年来月、望月の、春の宵には戻りましょう。

 結納品の白き糸、背負って街より戻りましょう。


 ただ、私は祈ります。

 あの人が野辺に倒れぬことを。

 あの人が戦の刃に刺されぬことを。

 ただただ私は祈るのみ。


**


 機織り歌はいくつもある。

 未婚の娘が、出稼ぎにいった婚約者の無事を祈る歌もあれば、通じぬ思いを託す歌もある。寂しい歌もあるが、総じて、軽快で元気な歌だ。パタン、パタンという織り機の音に合わせて、拍子をつけて歌う。機織りを教える母も傍らで声を合わせて拍子を取る。時折、近所のおばさんやお姉さんがのぞきにきて、一緒に機織り歌を歌って帰ることもある。歌詞もその場の調子で変わる。時には、近所の噂や過去の出来事を面白おかしく歌うこともある。どこぞの誰かが畑でひっくり返って泥だらけ、羊にかまれて大騒ぎ、誰かと誰かが好いたの、振られたの、村の女たちは笑い飛ばす。

 だから、メーアは寂しくなかった。

 ウィリスがいなくても寂しくはない。


「寂しい時も歌えばいい」

と、母は言う。

「そうすれば、声は届く」


 だから、メーアは機を織り、歌を歌う。



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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