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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
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45/64

【45】予言する猫

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

 我が主人よ、我は汝の帰還を待つ。

 千年の年月にも我は耐えよう。


 ウィリス11歳の夏。

 少年は、魔獣に飲み込まれ、ひとときの夢を見る。

 これは夢の続き。


 ウィリスは夢の中でふと思った。

 レ・ドーラの野が、龍の戦場であったという話はゼルダ婆から聞いたことがあった。《冬翼様》はそこで、龍を退治されたという。だが、夏が熱くなりすぎると、殺した龍が蘇ってしまうので、毎年、秋になると、龍の霊廟に雪を降らせるのだという。


「でも、もう、火龍は目覚めた」と誰かが言った。

「ミスタクタイズ河の川下に、霧の龍王が目覚めている」

「あなたは誰?」

 少年が問うと、黒猫は奇妙な仕草で夢の中に姿を現す。

 猫なのに、不思議な帽子を被っている。

 まるで、道化師のようだ。

「これは夢?」と、少年は問う。

「果て無き思い出よ」と、黒猫は答える。

「思い出?」と、少年。

「魔族は不死の代償に、未来を失った」と、黒猫。

「私たちは変わらない。私たちは変われない」

「私たち?」と少年が聞き返す。

「忘れなさい」と黒猫。「これは予言、これは夢。

 ただ、あなたに聞かせておきたいだけ。

 私に出会ったことは忘れてしまいなさい」


 そして、また少年の魂は夢の中へと落ちていく。


「これは予言だ」

 猫の王イーツォは魔族たちの前で歌って見せた。

「おい、また始まったぞ」

 魔都ヴァランティアの宮廷で誰かがささやいた

 猫の頭をした道化は、魔族帝国きっての痴れ者である。

 帝国の未来を幻視するべく、獣師ブラーツの提案で、猫の魔獣に、筆頭五大公の力を注がれて生まれたが、出来上がったのは戯言を叫ぶばかりで、欠片の記憶力もない痴れ者で猫頭の道化に過ぎなかった。しばしばこのように「予言だ!」とか叫び回るが、当たったためしなどない。

「いやいや、みんな分かっておらぬ。そうは思いませんかな…スボターンどの」

 名指されたのは、《波間の公子》として知られる青みがかった瞳の貴公子だ。南海の鮫やエイを支配する海の魔族は、本来、巨大なエイの姿をしているが、ここ、魔都ヴァランティアでは青き衣の貴公子の姿をしている。勇猛果敢な青の騎士だ。

「あなたはいずれ戦いに疲れるでありましょう。素晴らしい。我等の多くが失ってしまった才能だ。

 あなたは戦いに倦むがゆえに、未来を開く」


 言葉を濁している間に、猫頭の道化はぴょんと跳躍して、別の魔族の前に立った。


「あああ、世界は滅ぶであろう。我ら魔族帝国も滅びることになる。そして……ああ、冬翼の大公ペラギス・グラン殿、あなたはその滅びを越えるために、天空の獄につながれるが、いずれ、冬の空の王となりましょう」


 一角の白い角を持つ魔神は、ぎろりと道化を見た。

 かつて、火龍に首を吹き飛ばされた《四つ首の大公》は、火龍の角を得ていた。グランの鋭い視線は彼の持つ氷の魔剣のようであったが、道化は気にせぬまま、次なる戯言を紡ぎ出す。


「ああ、我が都は陥落する。黒き森は燃え、城壁は破られ、門は打ち砕かれる。

 火龍が! 火龍が!」

「戯言はそこまでにせよ、猫め!」

 道化の前に、六腕の戦士が飛び出した。それぞれの腕には鋭い剣が握られ、それぞれの腕には二つの肘があり、不気味なほどに長い。これこそ、星海の騎士と呼ばれる魔族の英雄、《星の王ザーン》である。八弦琴座に属する稀有な魔族にして、声なき歌の守護者である。

 異様な長さの六腕を生かした武芸の腕はおそるべきもので、天空城攻略において、無数の巨人兵を切り刻んだという。

六つの刃が旋風のように猫の王に襲い掛かった。あわれ、道化は五寸刻みにされてしまうのかと思えば、さにあらん。騎士の背後にするりと、猫の姿が転がり出た。

「おお、勇猛なる星界の騎士ザーン殿。

勇猛にして謙虚、知性あふるる貴方もまた、我が予言を受けるべきお方。来たるべき滅びの日、あなたは魔族となりて初めて、恐怖と屈辱を学ばれるであろう。逃走という悲しき定め。だが、ご安心あれ、あなたは我が帝国の未来のために星の彼方より立ち戻られる。あなたは」

 そこで、優雅に一回転した後、猫は皆にお辞儀した。

「我が戯言にお付き合いいただき、恐縮至極。

 しかし、今宵は度が過ぎました。

 お詫びに我が力を示しましょう。

 そう、これは予言です。

 されど、今は忘れてしまいましょう。

 果てしない安寧の一夜のために」

 猫がもう一回転すると、座は再び、ざわめきと笑いに包まれた。

 猫はそのまま、上座へ向かう。今や皇帝は退出し、筆頭五公のみが並ぶ。吐息の大公は陰鬱な瞳で、猫に向かい、うなずいた。

「それでよい。お前とあの娘は未来のために残された」

 そうして、強い酒をあおる。彼もまた今の出来事を忘れるように、目を閉じる。


「思い出して」

 少女はささやいた。

「時がやってきた」



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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