【45】予言する猫
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北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。
拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。
我が主人よ、我は汝の帰還を待つ。
千年の年月にも我は耐えよう。
ウィリス11歳の夏。
少年は、魔獣に飲み込まれ、ひとときの夢を見る。
これは夢の続き。
ウィリスは夢の中でふと思った。
レ・ドーラの野が、龍の戦場であったという話はゼルダ婆から聞いたことがあった。《冬翼様》はそこで、龍を退治されたという。だが、夏が熱くなりすぎると、殺した龍が蘇ってしまうので、毎年、秋になると、龍の霊廟に雪を降らせるのだという。
「でも、もう、火龍は目覚めた」と誰かが言った。
「ミスタクタイズ河の川下に、霧の龍王が目覚めている」
「あなたは誰?」
少年が問うと、黒猫は奇妙な仕草で夢の中に姿を現す。
猫なのに、不思議な帽子を被っている。
まるで、道化師のようだ。
「これは夢?」と、少年は問う。
「果て無き思い出よ」と、黒猫は答える。
「思い出?」と、少年。
「魔族は不死の代償に、未来を失った」と、黒猫。
「私たちは変わらない。私たちは変われない」
「私たち?」と少年が聞き返す。
「忘れなさい」と黒猫。「これは予言、これは夢。
ただ、あなたに聞かせておきたいだけ。
私に出会ったことは忘れてしまいなさい」
そして、また少年の魂は夢の中へと落ちていく。
「これは予言だ」
猫の王イーツォは魔族たちの前で歌って見せた。
「おい、また始まったぞ」
魔都ヴァランティアの宮廷で誰かがささやいた
猫の頭をした道化は、魔族帝国きっての痴れ者である。
帝国の未来を幻視するべく、獣師ブラーツの提案で、猫の魔獣に、筆頭五大公の力を注がれて生まれたが、出来上がったのは戯言を叫ぶばかりで、欠片の記憶力もない痴れ者で猫頭の道化に過ぎなかった。しばしばこのように「予言だ!」とか叫び回るが、当たったためしなどない。
「いやいや、みんな分かっておらぬ。そうは思いませんかな…スボターンどの」
名指されたのは、《波間の公子》として知られる青みがかった瞳の貴公子だ。南海の鮫やエイを支配する海の魔族は、本来、巨大なエイの姿をしているが、ここ、魔都ヴァランティアでは青き衣の貴公子の姿をしている。勇猛果敢な青の騎士だ。
「あなたはいずれ戦いに疲れるでありましょう。素晴らしい。我等の多くが失ってしまった才能だ。
あなたは戦いに倦むがゆえに、未来を開く」
言葉を濁している間に、猫頭の道化はぴょんと跳躍して、別の魔族の前に立った。
「あああ、世界は滅ぶであろう。我ら魔族帝国も滅びることになる。そして……ああ、冬翼の大公ペラギス・グラン殿、あなたはその滅びを越えるために、天空の獄につながれるが、いずれ、冬の空の王となりましょう」
一角の白い角を持つ魔神は、ぎろりと道化を見た。
かつて、火龍に首を吹き飛ばされた《四つ首の大公》は、火龍の角を得ていた。グランの鋭い視線は彼の持つ氷の魔剣のようであったが、道化は気にせぬまま、次なる戯言を紡ぎ出す。
「ああ、我が都は陥落する。黒き森は燃え、城壁は破られ、門は打ち砕かれる。
火龍が! 火龍が!」
「戯言はそこまでにせよ、猫め!」
道化の前に、六腕の戦士が飛び出した。それぞれの腕には鋭い剣が握られ、それぞれの腕には二つの肘があり、不気味なほどに長い。これこそ、星海の騎士と呼ばれる魔族の英雄、《星の王ザーン》である。八弦琴座に属する稀有な魔族にして、声なき歌の守護者である。
異様な長さの六腕を生かした武芸の腕はおそるべきもので、天空城攻略において、無数の巨人兵を切り刻んだという。
六つの刃が旋風のように猫の王に襲い掛かった。あわれ、道化は五寸刻みにされてしまうのかと思えば、さにあらん。騎士の背後にするりと、猫の姿が転がり出た。
「おお、勇猛なる星界の騎士ザーン殿。
勇猛にして謙虚、知性あふるる貴方もまた、我が予言を受けるべきお方。来たるべき滅びの日、あなたは魔族となりて初めて、恐怖と屈辱を学ばれるであろう。逃走という悲しき定め。だが、ご安心あれ、あなたは我が帝国の未来のために星の彼方より立ち戻られる。あなたは」
そこで、優雅に一回転した後、猫は皆にお辞儀した。
「我が戯言にお付き合いいただき、恐縮至極。
しかし、今宵は度が過ぎました。
お詫びに我が力を示しましょう。
そう、これは予言です。
されど、今は忘れてしまいましょう。
果てしない安寧の一夜のために」
猫がもう一回転すると、座は再び、ざわめきと笑いに包まれた。
猫はそのまま、上座へ向かう。今や皇帝は退出し、筆頭五公のみが並ぶ。吐息の大公は陰鬱な瞳で、猫に向かい、うなずいた。
「それでよい。お前とあの娘は未来のために残された」
そうして、強い酒をあおる。彼もまた今の出来事を忘れるように、目を閉じる。
「思い出して」
少女はささやいた。
「時がやってきた」
★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。
http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/




