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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
40/64

【40】獣師のさが

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

 誰かの妄執。

 そして、願い。

 人は死を恐れ、それを越えようとする。


 ウィリス11歳の夏。

 高き砦アヴァター、あるいは「始まりの場所」を目指す旅の一夜。魔道師の夜語りが始まる。


「まず、世の中には多くの事実がございます。これより語りますことは、それをご理解いただかねば、なりませぬ」

と、ディルスが切り出した。

 ウィリスは首をかしげる。

 多くの事実?

「ああ、分かりにくいでしょうね。

 魔道師学院では、候補生が初等から中等に上がれるかどうかは、これをきちんと区別できるかにかかっております」

「お前が言える身分か?」と、婆。

「確かに」とディルスが軽く流す。「私は、魔獣製作という子供じみた夢が捨てられず、学院を脱走し、《獣師同盟》なる秘密結社に加わった者」

 今は静かにしているが、この人物は生き物を切り裂き、魔獣を作り出す異端の魔道師である。今は、学院の支配下に戻り、ウィリスの元へ派遣されているが、それまでは何人もの人を手にかけ、切り裂き、殺した残虐と狂気の持ち主である。

 人々は、やっとそれを思い出した。

「……それゆえに、世の中の《事実》なるものが、どれほどおぞましく、はたまた、脆いものかをよく知っております。

できれば、……」

 そこで、ディルスは、細い棒を拾い、ウィリスとの間に、線を引くように横に滑らせた。

「ウィリス殿には、この線のこちら側に来ていただきたくありません」

 ウィリスは見えない線を必死で見た。その線の向こう側に、闇とともに微笑む魔道師がいた。


 ほんの目の前の見えない線。


 おそらく、そこには大きな意味があったが、ウィリスにはまだ、それが何かは分からなかった。

「少々、迂遠過ぎましたな」

と、ディルスは周りを見回す。

 兵士たちの何人かと巫女の二人が、ややいぶかしげな顔をしている。古参兵や婆、騎士はおぞましげな視線を魔道師に向けている。

「もう少し具体的な話をいたしましょう。

 例えば、この旅の一行の中で、私が『異教徒』であるのは紛れもない事実です」

と、ディルス。

「朝夕、巫女様が儀式舞いをされる際、私が近くで見ていると、非常に不愉快な顔をされる場合があります」

「それはお前が異教徒だからであろう」

と、アシャンが抑えた声で答える。

「お前の視線には邪な何かがある」

 少し顔が上気している。

「しかたありません」とディルスがおざなりに頭を下げる。「何しろ、私は異教徒ですから、本来、儀式舞いを見ることさえ許されません。

 そこで、全てを見て、全てを知ることを目的とする我ら、魔道師は、これこそ稀有な機会と、真剣に巫女様の舞いに注視し、観察し、記録すべく傾注いたしますが……」

「か、観察!」とアシャンがいきり立つ。

「その言い方は何だ!」

「何しろ、私には信仰心がございませんゆえ、巫女様の儀式舞いに、魔力は感じても感銘はいたしませぬ。

 あえてあるとすれば……」とディルスは、アシャンをじっと見返す。その視線のまがまがしさに、アシャンがすっと身を引く。「獣師として、素材を見切り、魔獣の設計図を脳裏に浮かべることぐらいでしょうか?」

「私を……」とアシャンが「切り裂く気か?」

 そこで、ディルスは頭をかいた。

 それから救いを求めるように、婆のほうを向いた。

「さて、どう答えるのが穏当でしょうかねえ、ゼルダ様?」

 婆は肩をすくめる。

「若い娘を怖がらせるのが好きだな、ディルス」

「いや、だって、ほら、可愛いじゃないですか?」

 ここでウィリスはぞっとした。

 冗談めかして誤魔化そうとするディルスの目が笑っていなかった。どちらかといえば、あの夜、風見山で戦った水の騎士のように澄んだ、明確な殺意を持った目だった。

 そして、その瞳は一瞬、ウィリスに向けられた。


(本当に切り裂きたい、と思っているのは、あなたですよ、ウィリス)


 ぞくりとした。

 雪狼に助けを求める前に、圧倒的な視線が突き刺さってきた。

 そして……。


 ディルスは視線をそらした。

 おそらくは一瞬の間であっただろう。それから、魔道師は巫女に向かって深々と頭を下げた。

「失礼の段、お許しくだされ」



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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