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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
31/64

【31】待ちたる時

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

 融合せよ、汝の生き様を我に分け与えよ。


 ウィリス11歳の夏。

 バッスル侯国の王都グレイドルにたどり着いたウィリスとゼルダ婆、ラゼは、《冬の祠》に入った。三人の巫女、アシャン、キューゼとユーリアに導かれ、誓願の儀を行うため、神殿の中庭に残る最初の祠へ近づいたウィリスの耳に雪狼の声は響いた。


(ようこそ、《獣の王》よ。お前が来る時を千年待った)


 その声はすっと、ウィリスの中に沁み込んで来た。


 千年……。


 口にするのはたやすいが、11歳にしかならぬウィリスには想像もつかない長い年月だ。秋の空に、冬翼様の兆しを見つけてからまだ四年にしかならぬ。この一年、いや、この春以来、あまりにたくさんのことが起きて、ウィリスには去年の秋が遥か昔のように思える。


 千年……。


 ゼルダ婆ですら五十年生きているかどうか?

 大いなる雪狼は、その二十倍もの年月をここで待ち続けたというのか?


(さらに長い年月を、我は生きてきた。

 我がここに封じられてより、何十もの世紀が過ぎた)


 ウィリスは古文書を学ぶ中で学んでいた。

 遥か古い古い時代に、冬翼様やその眷属が地上に住まわれていたという。

 しかし、ある時、星の女神の命によって、冬翼様は天に上がり、時を支配されるようになった。その眷属たる雪狼とその姫は、人の命の終わりを告げる番人となった。


(この日、《獣の王》たるお前がこの祠に来ることを我は祝う。

 あの谷こそ、冬の王の封領)


 雪狼の言葉とともに、ウィリスは悟った。

 グリスン谷は、かつて、その冬翼様と御眷属に捧げられた封領であった。ゆえに、お迎え役が冬翼様を迎え、ねぎらい、癒し、送り出す。そして、間もなく……。


(永遠の冬を迎えんがために、お前はここに来た)


「永遠の冬」

 ウィリスは、真っ白に染まった山々を見た。

 雪の花が舞う北風を見た。


(お前は学ばねばならぬ。そして、開かねばならぬ、扉を)


 永遠の冬に続く扉。


(お前はすでに、我が古き名を知っているであろう)


 冬の騎士ルーヴィディア・ウル……。

 魔道師ディルスが言っていた。

「その名前は人の子そのものより古いぞ」

 《冬の祠》の司祭たちが呼ぶ《冬の統領ル・ウール》よりも古く、そして、忘れられた名前。

「それを神殿で口にしてはなりませぬ」とラゼが言った。


(その通り)と雪狼の声が響く。(扉を開くまでは口にしてはならぬ)


  *


「ウィリス殿」とアシャンの声が聞こえた。

 目を開くと、ウィリスは、巨大な神像の前に跪いていた。見上げると、弓と犬笛を持ち、雪狼を連れた狩人の神の姿がそこにあった。

「ル・ウール様は請願を受けられました」

と、姫巫女たるエルナが手の中に輝く氷柱を差し出した。やじりのように鋭い切っ先を持つ小さな氷柱。

 キューゼが仲立ちとなり、これをウィリスの手へと渡す。

「誓願の証です。これをル・ウール様の御壇に献じるのです」

 キューゼが言うと、ユーリアが神像の前の祭壇を指差す。そこには、幾本もの氷のやじりが並んでいる。

 ウィリスは思い出した。

 これは、ル・ウールの誓願の証。

 《氷の祠》の秘儀に触れる者は、自らの手で触れた氷のやじりをル・ウールに捧げる。ル・ウールに叛いた時、このやじりは氷の矢となって、そのものの心臓を貫くという。


 しかし、ウィリスは恐れを感じはしなかった。

 もはや、古き冬の騎士は雪狼とともに、ウィリスの友であった。



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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