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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
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25/64

【25】バスカレイド

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

 世の中に、真実など無い。

 誰かが目撃しない限り、それは起こっていない。

 しかし、我らは見る。


 ウィリス11歳の夏。それはヴェイルゲン騎士団の城塞で試練の時を迎えていた。

 ヴェイルゲン候の宮廷でウィリスと婆を迎えたのは、二人の魔道師。禿頭髭面の男は黒剣の魔道師ディルス、白色で仮面の男は翼人の魔道師バスカレイド。


 仮面の男が静かに頭を下げる。

「バスカレイドです。学院より参りました」

 そこで、婆がぴくりとした。

「お久しぶりにございます、ゼルダ老師」

「ラーン・カイル殿は御息災か?」と婆は堂々と答える。

 ラーン・カイルは、《死の王》とも呼ばれる学院の大立者である。かつて、翼人座の塔の長であったが、今は引退し、北原の戦乱を収めるべく外交使節として活躍している。

 辺境の守護者とはいえ、バッスルとスイネの双方に通じるヴェイルゲン卿は、その名の重みを感じ取っていた。

 むしろ、その会話を理解していなかったのは、ウィリス自身であった。

「は」とバスカレイドが膝を折る。

「辞めておくれ」と婆が歩み寄って、魔道師を立たせる。

「学院の魔道師が、田舎の司祭などに頭を下げるものではない」

「しかし」とバスカレイドが言う。「いえ、差し出がましいことでした」


 その後、ヴェイルゲン卿は、風見山の一件に関して問いただしたが、その舌鋒ははなはだゆるやかなものであった。話の大半を婆がしても、ウィリスに話を振ることはなかった。

 そして、最後に、ヴェイルゲン卿が仮面の魔道師に向かって聞いた。

「得心行かれたか?」

 仮面の魔道師は無言でうなずいた。


 一刻の後。


 城内の一室に休息の場を与えられたウィリスと婆の前に、再び、黒と白の魔道師がいた。

「さて、どちらから、話を聞いたものかな?」

と、婆が言うと、禿頭のディルスが手を振って、バスカレイドを促す。

「学院の意向を、お先に」

「私は学院の使者ではございませぬ。ラーン・カイル師の命に従い、バッスルの安定を担当するのみ」

 その言葉には虚飾も自負もない。

(まるで人形のようだ)

と、ウィリスは感じた。

 ぞくぞくした。

 この人は本当に、人だろうか?


「学院は風見山の一件を知っておりますが、15人委員会はこれを重視してはおりません。なぜならば」と、魔道師はウィリスを見る。

 その瞬間、視線がずいぶん優しくなったように感じた。

「彼らは、この少年が《獣の王》とは認めておりません」


 ウィリスは驚いた。

 いや、話の流れが分からなかった。

 なぜ、《冬翼様》やネージャ様が選ばれたことに、魔道師学院が口を出し、認める、認めない、の話になるのだろうか?


「学院など関係ない」と婆。

 それから、婆はウィリスを振り返った。

「お前にも、そろそろ話しておかねばならぬようじゃな。

 《予言》のことを」

「予言?」

「9828年 白の風虎  獣の王、西に至り、冬を解き放つ」

と、バスカレイドが唱える。

「これが予言だ」

 今年は9825年、青の海王。白の風虎とは3年後である。

「14の年」と婆が言う。「お前は西に向かい、冬を解き放つ。

 それが予言だ。だが、いまだ、お前と予言の中の《獣の王》が同一であるかどうか定まってはおらぬ。他にも、《獣の王》と呼ばれるだろう男が何人も北原をさ迷っておる」

 そこで、婆はディルスのほうを見る。

「その一人が俺だ」と、ディルスが微笑む。

「獣師、と言っても坊主には分かるまい。魔獣の創造者、怪物の王」

 次の瞬間、4人の前に一匹の黒猫が現れた。

 漆黒の黒猫。

 ただ、その尾はふさふさした毛ではなく、おぞましい鱗に覆われた毒蛇であった。

「ディルス、格好をつけるな」と黒猫が嗄れ声で笑う。

「所詮は学院につかまった籠の鳥。この地で、龍の品種改良をするだけ」

 そこで黒猫はウィリスのほうを向いた。猫の首がしゅるるると伸びていく。

 ウィリスはわっと、後退した。

 その様子を見て、くすくす笑いながら、黒猫の魔獣はディルスを振り返る。

「ああ、いい素材じゃないか?

 これなら、ご主人様もお喜びになるな」

「その許可は出ない」と、バスカレイド。「おそらく永遠に」


「それで、ラーン・カイル殿の目論見は?」

 婆の問いかけに対して、仮面の魔道師は微笑んだ。

「ウィリス殿がすこやかに修行期間を終え、一人前の《お迎え役》となられることを祈っております。《冬翼様》の心を安んじ、炎と氷の周期を崩されぬことを。

 学院はすでに、東方と北原だけで十分に多忙ですから」



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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