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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
22/64

【22】弔いの声

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

僕は見える。彼らを。


 ウィリス11歳の夏。

 グリスン谷を旅立った婆とウィリスは、砂の川原に至り、ミネアス様の館に立ち寄った。グレイドルへの修行の旅に出るための挨拶である。

「グリスン谷の祭祀介添え役、ゼルダ。

 当代お迎え役ウィリスの修行付き添いにて、王都グレイドルへ向かいまする」

 婆が口上を述べる。

 村の守護神、雪狼の姫ネージャのお墨付きを得たウィリスはすでに、当代のお迎え役である。先代のゼルダはその後見人たる祭祀介添え役となっている。

「お役目ご苦労。

 砂の川原代官、ミネアスの名において、グリスン谷御当代を歓迎する」

 ミネアスはいかめしい顔でそう答えた後、やや青ざめた顔で微笑んだ。

「館の一室を用意したゆえ、くつろぐがよい。

 それから、風見山の一件では息子が世話になった」

 風見山の麓で水の騎士によって殺されたカルシアスは、ミネアス様のご嫡男である。

「ウィリス。幼少の身で苦労したな。

 もし、良ければ、息子の末期のこと、語ってはくれぬか?」

 そこで、ミネアス様は横に控える奥方とご家族に目を向けた。

 上品な奥方は、もはや30を越えられておられるであろうか、その横にはカルシアスさまによく似られた若き騎士が2名と御令嬢が付き添っておられる。若き騎士は二人とも成人されておられたが、おそらく18歳にもなっておられぬだろう。ご令嬢はウィリスと変わらぬ年である。そして、周囲にはカルシアスさまが 率いていたのと同じ赤揃えの兵士たちが集っていた。ゾークたちの同僚であろう。

「さあ、ウィリス」と婆はうながした。

 二人とも、このことは予期していた。

 ジードが戻り、ウィリスが言葉を取り戻した数日後、婆はウィリスに言った。

「生き残った者には義務がある。

 死者のことを家族に伝えるのだ」

 そこでじっとウィリスの目を見た。

「幼いお前には酷なことかも知れぬ。

 だが、お前は御当代であり、ネージャ様の御加護で生き残った。

 その感謝を形にするのだ。

 お前が語る言葉で、死者の魂は弔われる」

 最初に、婆の薬草小屋を訪れたのは、ダーシュの母親エナだった。

 息子の死に様を聞きたいと言って涙を流した。

「僕はダーシュの横にいました」

 ウィリスはゆっくりと言った。

 水の騎士と水魔の襲撃を話した。話しながら、ダーシュが水の騎士に殺された瞬間を思い出して声が詰まった。エナは涙に咽びながら、ウィリスの体を抱いた。

「ありがとう、ありがとう」

 エナは繰り返した。

 泣きながら、嗚咽を漏らしながら。

 エナが帰った後、ウィリスは婆を振り返った。

「見えました」

 婆がうなずいた。

「あそこに」

 指差すのは薬草小屋の隅。

 ウィリスとエナが泣きながら、ダーシュの話をしている間中、小屋の隅、暗く光の届かぬあたりにずっとひとつの影が座っていた。

 悪しきものではない。

 そう感じた。

 その影がウィリスに色々な言葉を促した。

 おぼろげであった出仕の軍行の様子が細かに思い出された。ダーシュがどんな様子で野営したか、初めての軍行で苦労したか、あるいは、カルシアス様と赤揃えたちがダーシュに剣を教えようとした様子。

 エナが薬草小屋を去った時、影はもう消えていた。

「それがお前のお役目なのじゃよ」

 数日後、水車小屋のヤンの妻キアラがやってきた。残された6歳の息子がついてきた。

 彼らもまた、一家の主の死を聞きたがった。

「ヤンは僕を助けてくれた」

 ウィリスの言葉にキアラは泣いた。息子は涙目でじっと母親とウィリスを見つめていた。

 ヤンの死に触れた時、ウィリスも声に詰まった。キアラもまた、ウィリスを抱きしめた。息子も一緒に抱いた。

 それから、何度か日を置いて、村人たちがウィリスを見舞い、死んだ息子や父、兄弟の話を聞いていった。百人ばかりの小さな村だ。村人の半分以上が死んだ者の血族である。

 彼らが訪れるたびに、薬草小屋の隅に影が集い、物語が終わるたびに消えていった。

「それは風見山の麓でありました」

 ミネアス様の前で、ウィリスはとつとつと話を始めた。


 部屋の隅に集った影がひとつひとつ消えていくのには、夜遅くまでかかった。



葬儀というのは、残された者にとって、必要なのだな。


★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。

http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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