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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
21/64

【21】感謝

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

 緑なす谷。心地よい風。

 これこそが我が故郷。


 ウィリス11歳の夏は、ゆっくりと始まった。

 去年から予定していた通り、ウィリスは婆とともに、バッスルの都グレイドルへ向かうことになった。そこには、冬翼様に近しい神、《冬の統領ル・ウール》様の大社がある。《冬の祠》という。そこで、さらに冬翼様について学ぶのが、今回の目的である。

 最初に、ゼルダ婆がそれを言い出したのは春の終わりだった。

 風見山の一件から一月ほどが経ち、すでにウィリスは元気を取り戻していたが、大事を取ってゼルダ婆はもう一月ほど出立を延ばし、しばらく、尾根の狼煙台と往復するようにいった。

 最初は尾根を上がる途中で息が切れた。

 坂の途中でへたり込んでいると、メイアが上がってきた。

「婆が見て来いって言ったのよ」

 メイアは笑いながら、汁気のたっぷりした果実を差し出した。茜色の皮をむいて、少し酸っぱい汁と身をすする。ほんのりした甘みとすっぱさが口一杯に広がった。

「おいしいね」

 メイアの言葉にうなずき、ウィリスは立ち上がった。

「行こう、狼煙台で少し練習があるんだ」

 風にウィリスの歌が響く。

 冬翼様へ捧げる祝詞に節をつけたものだ。

 狼煙台の脇にある、ちょっとした広場でウィリスは、祝詞を謡いながら、舞う。

「ありがとう、と言ってなかったような気がするんだ」

 ウィリスはメイアを振り返る。

「ありがとう?」

 狼煙台の隅に腰掛けて、舞いを見ていたメイアは小首を傾げる。

「誰に? ウィリス」

「君に、だよ」とウィリス。

「あのとき、迎えに来てくれてありがとう」

「ううん」

 メイアは軽く首を振って、狼煙台から地面に飛び降りる。

「私も婆も気づいただけ。

 あなたを助けたのは彼ら」

 両手を上に向けて見上げる。

 その上空、風の中にはいつの間にか、半透明の雪狼が舞うように飛び交っていた。

「あなたの舞いと歌が届いたのね。

 あなたのありがとう、が」

「うん」

 ウィリスはうなずく。

 そして、舞いをやめて、メイアのほうに一歩踏み出す。

「雪狼にも、ネージャ様にも、感謝している。

 ありがとう、雪狼たち。

 ありがとうございます、ネージャ様」

 もう一歩。

「でもね、メイア。

 僕は、君に言いたいんだよ。ありがとうってね」

「ウィリス」

 メイアは少年の顔を見つめた。

 いつの間にか、少しだけしっかりしたような気がする。彼の父ジードに似てきたかもしれない。

 ウィリスは正面からメイアを見つめた。

「ありがとう」

 狼煙台からは、グリスン谷が見下ろせる。

 細い谷川に沿って広がる小さな谷だ。

 丘の上に広がる畑。林檎林や小さな牧場、川にかかる水車小屋。

「また、修行の旅に出るの?」

「うん、今度は少し長くなる」

「どのくらい?」

「たぶん秋の半ばまで。

 婆は冬翼様のお迎えまでには戻れと」

「……寂しいね」

「寂しいね」

「……」


 夏のはじめ、ウィリスはグレイドルへ旅立った。


ウィリスとメイアの話はよいなあ。


★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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