【16】顕現
運命の劇場へようこそ
北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。
拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。
それは始まり。
それは終わり。
それは……
雪が舞っていた。
ふわり。遠吠えの声とともに、雪狼たちが虚空から現れた。
(さあ、祈り、求めよ。我らが姫の顕現を)
雪狼たちが空に向かって遠吠えする。
ウィリスは立ち上がり、眼を閉じたまま、お迎えの祝詞を唱える。
血まみれの大地を踏みしめ、舞の仕草を始める。両手を差し伸べ、ゆらゆらと複雑な弧を描く。
ウィリスの祝詞に合わせて、雪狼が吠える声を上げる。
雪狼の吠えるたびに、冷気が吹き荒れ、白い雪が舞い飛ぶ。
(この地を姫君に捧げん)
それは約定の言葉。
それは契約の言葉。
それは開門の言葉。
(御顕現あれ!)
ふわり。
毛皮の帽子と白い鎧装束をまとったネージャが虚空から表れた。
その手には青き氷の大槍。
「ウィリスよ、お迎え役ご苦労。
これにより、汝は獣の王となる。
これより、この地は我が領土。
すべては《冬翼様》に」
ネージャは微笑むと、目にも止まらぬほどの素早さで振り返り、その青き大槍を投じた。
しゅっ。
大槍は風を切り、鈍い音とともに、木々の間を突進してきた青白い騎士を軍馬ごと貫いた。騎士はたちまち霜に覆われた。
怪物のような青白い軍馬はそのまま突進しようとしたが、やはり瞬間的に凍りついた足を踏み出した途端、足から、もろい陶器のように割れた。まず、踏み込んだ足が粉々に砕け散り、倒れていく胴体と頭がその後を追った。まるで水面に飛び込んだかのように、地面に激突したところから砕け散り、きらきらと輝く飛沫を撒き散らしていく。その飛沫がまるで水面を割ってできる波しぶきのようだった。
騎士も、地面に叩きつけられ、陶器の人形のように砕け散った。
それはずいぶんと静かな風景だった。
悲鳴も血潮もなかった。
ただ、かの呪わしき騎士は砕け散った。
やがて、しんしんと降り続ける雪の中、ネージャは微笑んだ。
「もはや邪魔者はおらぬ。
こここそ、冬の国。
今宵より、永遠の冬が始まるのだ」
雪狼の戦姫ネージャの顕現です。
★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。
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