表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
15/64

【15】殺戮

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。

 我が声に答えよ。

 我が絶望に答えよ。


 カルシアスの敗北、ゾークの死とともに、兵たちは崩壊した。

 生き残っていた赤揃えの兵が斧槍を振り回したが、水魔たちが群がり、赤揃えの鎧はもはや見えなくなった。


「逃げるぞ!」

 青白い騎士が走り抜けた時から倒れたままのウィリスだったが、ダーシュに腕を引かれ、慌てて立ち上がる。息を荒くしながら、青白い騎士に背を向け、ダーシュとウィリスは街道とおぼしき方角へ向かって走り出した。

 水魔の吐いた霧がねっとりと足に絡む。

 林の木々の根っこがまるで生きているかのように、ウィリスのつま先に当たり、たびたび、体勢を崩させる。ひっくり返ったら、終わりだ。ウィリスは必死にダーシュの背中を追った。いつの間にか、剣は投げ捨てていた。空になった腰の鞘さえ邪魔だ。


 背後から蹄の音とともに、じっとりした湿気が押し寄せてきた。


「ダーシュ!」


 ウィリスは叫んだ途端、木の根につまづいてひっくり返った。


(右)


 雪狼の声に反応して、横に転がると、今、倒れた木の根を青白い蹄が踏み破って、通過していく。一緒に振られた剣の刃がウィリスの顔の上を抜け、そのまま走るダーシュの首へと叩き込まれる。

 丸い物が飛び、ずいぶん背の小さくなったダーシュは数歩走って林の木にぶつかり、倒れた。


「ダーシュ、ダーシュ、ダーシュ」


 ウィリスは呟きながら、立ち上がる。

 青白い騎士は、怪物のような青い軍馬の馬首をめぐらせる。

 ただ、無言で剣を持ち上げると、ぱんっと手綱を入れた。

 青い軍馬が、谷川の流れのような青い風となってウィリスに迫る。


 死ぬ?

 あの剣が僕を殺す?


 不思議と実感は湧かなかった。ダーシュの首が飛ばされた瞬間に、ウィリスの頭はよく動かなかった。


「うらああああ」

 水の騎士の剣が振り下ろされる直前、ウィリスの前に、大柄な姿が飛び出した。赤い斧槍が突き出され、騎士の剣を受け流す。

「馬鹿、ウィリス、逃げろ」

 水車小屋のヤンだ。

 その姿はすでに赤と青の血にまみれていた。水魔の血とおそらくヤン自身の血だ。

 ヤンは片手でウィリスを押しやる。

「みんな、やられた。お前は逃げろ」

 言われて、林の中に逃げ込む。

 慌てて、走り出し、「ヤンも……」と呟き、振り返った途端、ヤンが騎士の剣に刺しぬかれるのが見えた。

 悲鳴を上げながら、走り出す。

 もう必死だった。

 藪を突きぬけ、石を飛び越え、ただ走った。


 やがて、柔らかな何かに足を取られて地面に倒れた。


 鼻腔を、濃密な血の匂いが襲う。

 はっと顔を起こし、見回すと、周辺は死体だらけだ。見れば、ばらばらに引き裂かれた真紅の鎧が転がっている。踏み荒らされた薪の跡。

 そう、ここは最初に襲われた場所だ。

 足を取られたのは、誰かの死体だ。もう誰かは分からないが、あの御貸し武具はグリスン谷にあったミネアス様のもの。谷の仲間だ。

 立ち上がり、顔を見ようとしてためらう。


(弱い者、弱い者)


 雪狼の声が響いた。


(汝は獣の王。ここで死せば、谷は滅びよう)


 周囲にはまだ濃密な霧が漂っている。水魔の気配はないが、いずれ戻ってきてもおかしくはない。

 逃げなければ。

 しかし、ウィリスの足はもう震えて動かない。

 いや、どこへ行けばいいのかも分からない。


(我らの名を呼べ。我が姫君の名を呼べ)


 雪狼がささやく。


(されば、この地は我らが領土となろう)


 言葉の意味は分からなかった。

 ただ、生きたかった。

 ダーシュの仇とか、ヤンの復讐とか、そんな思いさえなかった。

 ただ、殺されるのが怖かった。

 ウィリスは祈った。雪狼へ祈り、雪狼の姫ネージャの名前を呼んだ。


 やがて、雪が舞い、ウィリスは雪狼の遠吠えを聞いた。



戦いに巻き込まれたウィリスは、ついに・・・


★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ