【1】晩秋の雲
運命の劇場へようこそ
北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。
拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。
雲が空を渡っていた。
三日月のような、あるいは、巨大な鳥のような、巨大な雲。
あるいは、雲のように巨大な一羽の鳥。
それは悠々と青空を飛んで、また今年もやってきた。
5歳の秋。
ウィリスは野菜畑でそれに気づいた。
見上げた青い空に、巨大な鳥が飛んでいた。北からやってきた雲の鳥。
「父上!」
ウィリスは、畑で叫んだ。
「空に大きな鳥が!」
畑で芋を掘っていた父親が空を見上げた。
「ああ、もうそんな季節か」
「父上、あれは?」
「冬翼様だ。もうすぐ、冬だとわしらに教えてくれるのだ」
「冬が来るのか?」
少年は呟く。
バッスルの西、広大なロクド山系の冬は長く厳しい。ウィリスの一家が住むグリスン谷は、その只中にある開拓村だ。谷の実りは豊かだが、冬には万全の備えをしなくてはならない。雪が降る前にやるべきことは数え切れないほどある。
父親は立ち上がり、少年の側に寄る。
「そうか、今年はお前が見つけたか?」
父親のがっしりとした手が少年の肩を優しく抱いた。
それはまだ永遠の冬が来る前のこと。
ウィリスが目覚める前のこと。
運命の劇場へようこそ
北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼様」と出会い、新たな道を歩みだす。
拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。
朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載いたします。
http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/