4/47
4話 悲
『コイツ・・本当に新吉なのか・・・』
俺の知っている新吉は、目のキラキラした元気な奴だったんですが、この男の目は死んでるんスよ・・薄目でぼーっと、遠くを見て・・・何かに操られている様な・・・顔は埃や煤で汚れ、血がべっとりと付いてやした・・・
手に刀を持ち、娘を大事そうに担いでいやしたが、酒屋の娘は血の気のない顔で、腕は力なくダラリと下がり、くるまれた布団は血だらけ・・・死んでるって感じやした・・・
長屋の中は酷いもんで・・・斬られた足や手、首がゴロゴロ転がり血の海で、目にした門倉のダンナは鉄二に見廻り同心を呼びに行かせ、俺と一緒に新吉の後を付けたんです・・・
新吉も深手を負ってたらしく、いつ倒れて死んでもおかしくない位の血を流し、ヨロヨロしてたんですが、酒屋の娘と刀は確りと持ってやした。
川の土手に咲く桜の木の下に来た新吉は、木に娘と刀を寄り掛けると、手で穴を堀り始めたんです・・両手で地面を掻きむしって、新吉の掻きむしる手に止めどなく涙が落ちているのを見て、俺は何とも言えない悲しい気持ちになり、訳を尋ねたんです・・