食パンとジャム
あなたはテーブルの上にある食パンの袋を手にするでしょう
それで、記念にもらったトースターにそれを挟み、ケトルのスイッチを押します
ジリジリと表面を焦がす音を聞きながら、食パンが小気味いい音を立てて出てくるのを待つのがあなたの楽しみ
ケトルから湯気が出てお湯が沸いた事を知らせる音がしたら、慌ててカップを取りに行きます
お気に入りのカップ
いつからあなたの手元にあるのかあなたも忘れています
そこに、インスタントコーヒーの粉をスプーン3杯山盛りで
渦を作りながら沈んでいくコーヒーの粉をそーっと見守りながら、いつもの量を注いでいきます
途中でトースターから弾ける音
また見逃してしまったとあなたは悔しそう
美味しそうに色づいた黄金色のトーストにうすーくマーガリンを塗って、いつものいちごジャムを塗ります
ぱくんと一口、二口
トーストはいつの間にか消えてしまいます
まだ飲むには熱いコーヒーを冷ましながら、椅子に着くあなた
窓の外は薄い青色を伸ばしたような空が広がっていて、風が揺れる音がします
あなたのその手の中にあるカップが静かに白い息を吐いている
そんなあなたのある朝のこと
この世界の何処かにいるであろうあなたの事を私は想うのです
顔も知らない、声も聞いたことのない、想いを交わし合ったこともない、私の存在さえ知らないあなたの事を
今日も私の胸の中にはあなたがいるのです