犬と恋人と麺の日
今日は十一月十一日だ。
ゾロ目の日はワクワクするが、今日は一段と楽しい気分になる。
「今日なんの日かわかる?」
友人に聞いた。今朝、コンビニでいくつか買ったお菓子を後ろ手に隠しながら。
友人はにっこり笑って答えた。
「犬の日でしょ?」
「え?」
「世界中で愛される、人気ナンバーワンなペットである、ワンダフルなオンリーワンなワンちゃんの日!」
あぁ、そうだ、この友人、家で何匹も犬を飼ってるんだった。
確かに語呂としては合っていそうだが、犬の日は別の日ではなかったろうか。
疑問を口に出す前に、友人は嬉々としてスマートフォンのアルバムを見せた。大量の犬の画像が収められている。
「昨夜のウチの犬、可愛かったんだよー!」
友人のペット自慢もそこそこに、隠していたお菓子をひと袋プレゼントした。
「⋯⋯犬に盗られないように食べてよ」
「今日なんの日でしょーかっ?」
今度は、最近恋人ができたという友人に訊ねた。
友人はにわかに頬を染める。
「恋人たちの日って聞いたよ」
訊かなきゃよかった、と内心で悔いた。
「一が四つ並んでて、寄り添ってる恋人の足に見えるからそういうんだって」
恋人に教えてもらったのだと、友人は照れながら告げた。正直、聞きたくなかった。
リア充め⋯⋯妬ましいやら羨ましいやらは置いといて、お菓子をひと袋プレゼントした。
「これ恋人と食べればいいと思うよ!」
「今日はズバリなんの日?」
次は、食べることが大好きな友人に問いかける。お菓子も好きだろうから、期待した
「麺の日!」
聞いたことのない答えが返ってきた。
「麺⋯⋯?」
「一がずらっと並んで、細長い麺みたいに見えるからだって」
「へぇ⋯⋯」
意外と勉強になった。
友人は目をキラキラと輝かせる。
「だから今日だけ、駅前の泰田軒がトッピング一品無料だってさ! 一緒に行く?」
食べたいのはラーメンじゃないんだ⋯⋯とも言えず、お菓子をひと袋プレゼントした。
「行かない⋯⋯けど、食後のデザートにでもこれどうぞ」
友人と同じ日を記念して、お菓子を食べたいだけなのに。
それとも自分が思っている記念日はマイナーなのだろうか?
不安になって、スマートフォンで『今日はなんの日?』と検索する。
すると、出るわ出るわ、記念の数々が。そしてなんと十一月十一日は、日本で二番目に多く記念日にされている日にちなのだそう。
そりゃあ、期待する答えも出ないわけだ。
不貞腐れていると、友人がふらりと現れた。
おや、という顔でこちらを見る。難しい表情をしているのが意外だったのだろう。
「⋯⋯今日はなんの日?」
今度はどんな返事が返ってくるだろう。なんだか疲れてしまっていて、期待は少しもしていなかった。
友人は目をぱちぱち瞬かせた後、
「ほい」
と、細長い個装を差し出した。
一瞬、なんなのかわからなかった。友人たちに渡してきた物と、全く同じお菓子なのに。
「ポッキーの日でしょ、これあげる」
「え⋯⋯?」
じゃあ、と立ち去ろうとする友人の背を、かろうじて呼び止める。
「一緒に食べようよ」
友人はきょとんとしてから、可笑しそうに笑って戻ってきたので、鞄に残っていたポッキーを大慌てで取り出した。
2020/11/11
今日はチーズの日でもあるらしいのでチーズを食べます。