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チュートリアルは存在しない

習うより慣れろ。

大事なことは一度しか言わない。

 ひんやりとした硬い感触が背にあるのを感じ、俺はゆっくりと目を開いた。

 まず視界に飛び込んできたのは、灯りの点いていないシャンデリアのような照明器具と、それを吊るす石造りの天井。

 首を動かすと、鮮やかな彩りのステンドグラスが、陽の光を受けて煌めいているのが見えた。

 その反対には、四〜五人は座れる長椅子が、通路を挟んで左右に四つずつある。


「ここは……」


 この建造物には、見覚えがある。友人の結婚式でも、これに酷似した場所が使われた。

 神を讃え、その祝福を受ける場所でも知られる場所……教会だ。


「……俺は何でこんなところに?」


 まだぼうっとしている意識を、徐々に覚醒させる。

 それに伴い、ここで目を覚ますまで自分は何をしていたか……鮮明になっていく記憶が、俺の脳内を埋め尽くした。


「……そうだ!?」


 俺は先程のことを思い出し、跳ね起きて上着を捲り上げ、腹部を確認する。

 よく見なくても、そこには傷一つついていなかった。


「……どういうことだ?」


 夢だと思っていたあの場所で、確かに俺はこの腹をぶった斬られた。その時の痛みも覚えている。

 しかし、俺は生きているし、身体に傷は無い。

 これは一体どういうことか。


「まさか、やっぱり夢……?」


 そうであるならいいのだが、やはりあの感覚はリアル過ぎる。

 それに、今この場にいることが、夢であるという可能性を少なく感じさせる。


 教会と言えば、RPGにもよく出てくる『死んだキャラクターを復活させる場所』だ。

 そんな場所で目を覚ましたとなれば、つまりはそういうことだろう。

 やはり、あの時俺は斬り殺され、この教会で復活したものと考えるのが自然だ。

 いや、異世界に召喚されて殺され、その後復活するということの何が自然だと思うのだが。


「……とりあえず動こう。石の床は痛くて座り心地が悪い」


 立ち上がろうとすると、背中から腰にかけて、気にはならない程度の痛みを感じた。

 教会にしては装飾も少なく、カーペットのような敷物もなかったため、硬い石床に直に寝転がっていたせいだろう。


 しかし、動かなければ状況は何も変わらないしわからない。

 酷く痛むなら話は別だが、そうでないなら行動を開始するべきだろう。

 近くにあった祭壇らしきものに手をかけて、しっかりと床を踏みしめて立ち上がると、不意にファンファーレのような音が脳内に響いた。


『レベルが上がりました』


「……は?」


 レベル? 何のことだ? え、つか今の誰?


『その質疑にお答えします。レベルは貴方の総合能力の高さを示す数値であり、現在のレベルは2。次の、私は何者かの質疑についてですが、私は、このエイルヴァーナにおいて貴方の補佐をさせて頂きます、所謂【ガイド】でございます』


「ガイド……?」


 口に出していないハズの問に答えた【ガイド】と名乗るその声は、やはり脳内に直接語りかけてくるようだ。

 現に、声の主を探して周囲を見渡しても、人どころか虫一匹も見当たらない。


「つか、エイルヴァーナって何だ? やっぱりこの世界は異世界ってことになるのか?」


 比較的、様々な国の情報が入ってくる日本でも、そんな地名は聞いたことが無い。

 新たに建国されたとしても、それはそれでニュースで見るハズだ。


『貴方が暮らしていた世界を元に考えるのであれば、このエイルヴァーナは異世界という認識で間違いありません』


「マジで……?」


 ガイドの口から――実体がないので口があるのかはわからないが――出てきた言葉は、にわかには信じ難いことだった。

 しかし、勇者召喚、魔族襲撃、教会での目覚め……普通に日本で暮らしていたのでは経験しようもないことを、体感一時間もないくらいで経験している。

 何度も言うが、夢と呼ぶにはリアル過ぎるこの感覚に、異世界に召喚されたという事実を認める他は無い。


「まぁ、この世界に召喚されたってのはわかった。ダメ元で聞くが、帰る方法はあるのか?」


『召喚された勇者が、元いた世界に帰還する方法は、現在判明しておりません』


 わかりきってはいたが、この世界に召喚された以上、何もせずにさぁ帰ろう、とはいかないのだろう。

 ならば次の質問だ。


「さっきレベルが上がったと言ったな? それで気になったんだが、レベルって敵やモンスターみたいなのを倒して経験値を貯めて、一定数になったら上がるモンじゃないのか?」


 あらゆるRPGにおいて、絶対と言えるくらいには存在するレベルの概念。

 それがこの世界にもあるのは、先程のアナウンスでわかっている。

 となれば次に知るべきは、その上昇についてだ。

 レベルというのは、普通に考えれば、質問の内容にある通り、戦闘に勝利し、経験値を得て上昇するものだ。

 しかし、俺はそんなことはしていない。

 ここで目を覚ます前、ギンボルと名乗った魔族に、戦闘とは程遠い一方的な殺戮を受けはしたが、それで経験値なんて貯まるものじゃない。

 ハズだったが。


『一般的にはその通りです。しかし、貴方の勇者としての能力はその限りでなく、経験値を得る条件は死亡すること。その内容が凄惨であればあるほど、経験値の量、レベルの上昇率は高まります』


「何……だと……?」


 つまりは強くなりたければ死ね、ということだった。

 元の世界にいた時も、特に大した人間ではなかったのだが、そんな一般人が、強くなるために死にましょうと言われて『はいそうですか。じゃあ死にまーす』なんて出来るわけないだろ。


「ンなバカな……死ななきゃ強くならんとは……待てよ。死ねば強くなれる、ということは、死んでも生き返るってことだよな。じゃあこの世界における【死】そのものの概念ってどうなってるんだ?」


 死んだ後に復活するのであれば、あの時魔族軍と戦って死んだ騎士達も、いずれは生き返るハズだ。

 だが、それがこの世界の常識と考えるには、少し引っかかる部分があった。

 ギンボルが俺をぶった斬る前に放った『死ねぃ!』という言葉。

 確かに殺しにかかる相手に対して放つ言葉としてはありがちだ。

 とはいえ、死んでも生き返るハズの相手に、わざわざ『死ね』などと言うだろうか?

 例えるなら、某乱闘ゲームにおける残機制の対戦で、一機目を倒す際に『死ね』と言うようなものだ。

 対戦で興奮している頭で言っても何も思わないが、よくよく考えれば違和感がある。

 そりゃそうだ、死んでも復活する相手に死ねって言うんだから。

 ならば何故ギンボルは、俺に対してそう言ったのか。

 答えはガイドの口から飛び出してきた。


『貴方の言う【死】の概念についてお答えします。この世界における死は、貴方のいた世界と同様です。病による死、外的要因による死、それらは全て一肉体に一度だけのものであり、死した肉体は、再び動き出すことはありません』


「は? じゃあ何で俺は……」


『貴方が生命活動を再開出来るのは、貴方が不死の勇者の力を持っているからです』


「……不死? 不死って……不老不死の、不死?」


『正確には、死亡しても直前に指定した位置で復活し、生命活動を再開する能力です』


「え、何それ」


 異世界召喚やその類の話には、いくつものお約束ってヤツがある。

 俺が危機的状況にあるダンペルク王国に召喚されたのも、そのうちの一つと言っていい。

 そして、異世界召喚にありがちなもう一つのお約束。

 それは、何らかのチート級の能力だ。

 振るだけで敵が薙ぎ払われる魔剣を持ったり、超強力な魔法をぶっ放したり、敵の攻撃が一切効かなかったり、俺が読んでいた本にも、自分が想像した出来事が現実に起こる、なんていうヤバい能力があったり……もはや飽きるくらい定着したチート能力。

 俺自身、それを否定する訳ではないが、別にチート能力を使って『俺TUEEEEE!』が出来ることに憧れや魅力は感じない。


 だが、自身が似たような環境に身を置かれた場合だと話は違ってくる。

 右も左もわからない異世界で生き抜くために、そのチート能力はとても心強いものとなるのだろう。

 では、俺の場合はどうだ。


「死ねば死ぬほど強くなるし、他の人にはありえない復活が出来るけど、苦痛はそのままだよ。頑張って死んでね! ってか……酷くない?」


 何度でも復活出来ると言えば聞こえはいいが、傍から見ればただのゾンビだ。異世界から召喚された勇者が持っている能力とは到底考えられない。


「他に何か無いのか? チート級とまではいかなくても、それなりに強そうな能力とか……」


『レベルが上がれば、何かしらあるかも知れません』


「ガイドのお前もわかんねーのかよ」


 どうやら俺がこれから生きるこの世界は、俺にとって前途多難であることは間違い無いらしい。

 だが、行動しなければ何も始まらない。

 実を言うと、少し腹が減ってきているのだ。

 空腹状態ではまともに動けるハズがないので、動けるうちに動いておくべきだろう。

 自分の能力を理解した後の最初の死因が餓死なんて嫌過ぎるしな。

 というわけで、俺は教会を出て、食糧を探すことにした。


「おお……」


 目の前に見えるは、広大な大地。

 教会は丘の上にあったようで、そこから近辺の景色はよく見えた。

 遠くには、街らしきものが確認できる。


「あそこは……」


『あちらはダンペルク王国の首都、カルバンです。貴方が召喚された場所でもありますが、どうやら魔族軍の手に落ちたようです』


 確かに、遠目でも分かるくらいに黒煙が立ち上っている。

 あの時戦っていた魔族軍がさらに火をつけたのであろう、建物からも煙が出ていた。


「……ま、ご愁傷様なこって」


 あちらからすれば、俺はあの国を救うべき勇者なのだろうが、俺には今そんな力は無い。

 あったとしても、混乱している俺を無理矢理戦場に立たせて殺させたわけだ。助ける義理も無いというもの。


 とりあえず合掌だけはしておいて、カルバンとは逆方向に歩を進める。


「こっち側には何がある?」


『約二時間程歩けば、小さな村があります。そこから一日程歩いた先には、ダンペルク王国の隣国となるフロウフォン皇国の国境線に辿り着きます』


「そうか、ならそっちに行こう」


 二時間くらいなら歩いても問題はない。

 まずはその村に行って、食糧を分けて貰えるか聞いてみよう。

 無理なら、労働を対価に交渉だ。


「じゃあナビは頼んだぞ」


『かしこまりました』


 ガイドに道案内を任せ、俺は歩き出す。

 このエイルヴァーナで生きるため、俺はとりあえず、隣の国フロウフォン皇国を目指して旅に出ることにした。



 ――――――――



 陽が少し傾き始めた頃、ガイドの言っていた村が見えた。

 ガイドの情報によれば、村の総人口は百人にも満たない小規模なもので、男の大半は、ダンペルクの首都カルバンに出稼ぎに出ているのだという。

 しかし、カルバンは現在戦火に呑まれているため、恐らくその男達がこの村に帰ることはないだろう。

 そのことをまだ村人達は知らないようで、あちらこちらに仕事のための道具を持った者が散見される。


「通信手段がないのは不便だよなぁ」


 さらにガイドから聞いた話だと、このエイルヴァーナの文明は俺のいた世界と比べてかなり遅れているようで、情報の行き来は基本的に馬で行われているとのこと。

 俺が見たダンペルク王国の騎士や魔族軍など、軍隊に関しても銃や砲などを使った近代的なものでなく、剣や槍、弓を用いていたことから、大体中世ヨーロッパと似た感じの世界と思われる。

 俺が目覚めた教会からカルバンまでは馬で半日かからない距離らしいが、戦場となっているあそこから、小さな村のために伝令の馬を走らせる余裕はないハズだ。


「まぁ、知らない方が幸せだよな……」


 カルバンが陥落したということは、村では言わない方がいいだろう。

 とりあえず腹が減った。

 まずは村に入って食糧を分けてくれそうな人を探そう。


「ん? 何だ兄ちゃん、見かけねぇ顔だな」


 村に入って少しもしないうちに、顎髭をビッシリと生やしたオッサンに声をかけられた。

 齢は三十代前半といったところか。

 男はほとんどカルバンに行ったものと聞いていたが、よく見たら左腕が半ばから無くなっていた。

 どうやら戦か何かで負傷し、戦えなくなったようだな。


「ああ、旅の者なんだ。ここにはついさっき到着した」


「旅? このご時世に珍しいモンだ。あっちから来たってことは、王都の人間か?」


「あー、いや、もう少し遠いところだ」


「ん……? その割には、何も持ってねぇように見えるが?」


「え、ああ……実は盗人にやられちまってな、一転して文無しなんだ」


「そうか……?」


「いや、恥ずかしい話だ」


 アホか俺は。

 そりゃカルバンより向こうから来た人間で、旅をしているのに何も持ってないのは疑われて当然だろう。

 恥ずかしいのは己の思考回路じゃねーか。

 そのことはとりあえず誤魔化しておいて、まずは食糧を分けて貰えないか聞いてみよう。


「そういうことなんだ。申し訳ないが、食糧を少し分けて貰えないだろうか? 金は言った通り文無しなモンで、代わりに仕事の手伝いでも何でも……」


「悪ぃな、兄ちゃん。ウチに……というより、村にはそんな余裕ねぇんだ」


「え」


 オッサンは苦々しい顔で、村の外れの方を見た。釣られて俺もその方を向くと、さして大きくない森があるのが見える。


「あっちから、この辺じゃ見ないハズのベルガルオンが来るようになっちまってな……家畜がほとんど台無しにされて、麦だけでの生活を強いられてんだ」


「ベルガルオン?」


「知らねぇか? まぁ、カルバンの向こうから来た兄ちゃんにはわかんねぇか。魔獣だよ、魔獣」


 魔獣、その字面を考えるに、モンスターみたいなものだろう。もしくは獣以上に何か力を持った存在か。


「魔獣かぁ……」


「ああ。軍隊に討伐を頼みたいが、王都は今魔族と戦争やってっから、頼めやしないんだ」


「ここにいるヤツらじゃ倒せないってことか?」


「とんでもねぇ! 並の男でも傷一つ付けるのがやっとだろうよ」


 マジかぁ……

 それなら、男がほとんど出払っているこの村では対処出来ないだろうな。


「兄ちゃん、悪いことは言わねぇ。今からでも村を出た方がいいぜ。余所モンの命にまで責任は持てねぇんだ」


「まぁ、俺も死にたくは……出来れば勘弁願いたいしな」


 死んでも生き返れるけど、出来れば死にたくない。

 しかし、腹を空かせて二日歩くのは無謀だろう。


「この辺に俺でも狩れそうな獣とかいるか?」


『近辺にはいないと思われます。恐らく、ベルガルオンに捕食された可能性が高いかと』


 周囲に何かいるのであれば、多少無理してでも狩りをして飢えを凌げばいい。

 しかし、残念なことに、そのベルガルオンのせいで何もいないときた。

 まぁ、村の家畜食いに来るくらいだから、当然と言えば当然か。


「そうか。野宿するにも無理があるな」


「どうした兄ちゃん、一人で喋って」


「いや、何でもない」


『私への呼びかけは、言葉を発さず、頭に思い浮かべるだけでも可能ですので、ご留意頂ければと』


 ンな大事なことは早く言え。


「まぁ、アンタらが大変なのはわかった。俺も無理は言えないから、これで……」


 失礼する、そう言おうとしたが、その言葉は大きな悲鳴によって中断させられた。


「きゃああああああ!!」


「ベルガルオンが出たーッ!!」


「何ィッ!?」


「え、マジで?」


 まさかの襲撃に、村は騒然とする。

 早いとこ村を離れようとした矢先にこれかよ。


「ちっ……こないだあんだけ食ったってのに、また来やがるとは……!」


 オッサンは歯軋りをしながら、近くにあった家屋に入って、中から剣を取り出して来た。


「戦うのか?」


「そうしねぇと、これ以上家畜を食われちゃ俺らも生きていけねぇからな!」


 そう言ってオッサンは、隻腕であってもお構い無しといった風に、勇んで飛び出していった。


「……ガイド、俺が勇者として使える力って、何がある?」


『現在貴方が使える能力は、死亡後に復活する場所を指定し、死亡した際にそこで復活することが出来る能力のみです』


「長い。便宜上セーブ&ロードと呼ぶぞ。そのセーブ&ロードで、ベルガルオンを倒せると思うか?」


『ベルガルオンを討伐するおつもりですか? それでしたら難しいと思われます』


「まぁ、だよなぁ……」


『しかし、貴方には死亡することでレベルがアップする特殊な能力があります。挑み続けて死亡回数を稼げば、ベルガルオンを倒せるだけの力が身につくものと思われます』


「……やっぱり?」


 ベルガルオンがどんな魔獣かは知らないが、勝つためには死ぬしかない。

 現在のレベルは2であるが、ベルガルオンに勝てるようになるまで、何回死ななきゃいかんのだろうか。


「考えたくねぇな。ガイド、セーブ&ロードの使い方は?」


『復活する場所に円を描き、その円を叩けば復活地点の更新が完了します』


「了解……っと」


 近くにあった石ころを拾い上げて地面に円を描き、その中心をパシンッと叩く。

 すると一瞬、その円が光った。これが更新完了の合図のようだ。


「っしゃ、行くぞ!」


 更新が終われば、変なとこにリスポーンせず、この場所にリスポーンすることになる。

 変なことを気にせずに死ねるというものだ。

 いや、出来れば死にたくないんだけどな?


「ガルルルァァァ!!」


「……あれがベルガルオンか」


 数人の男が剣を持って追い払おうとするその相手、ベルガルオンと思しきソイツは、一言で言うなら熊だ。

 しかし、ただの熊ではない。

 その姿はツキノワグマを二回り大きくした巨体で、爪が長いのが特徴と言えよう。

 両腕を振り回し、対峙する男達を近付けまいと暴れ回っている。


「普通に勝ち目なさそうだな」


 今の俺が挑んでも、一撃与えられればいい方だろう。

 そもそも武器を持ってないので、一撃与えても、それがダメージになるかは甚だ疑問だ。

 まぁ、死ねば強くなれるんだし、大人しく殺されに行ってやるとしますか……


「おーいオッサン! 俺も助太刀するぜー!」


「なっ、兄ちゃん!? 危ねぇぞ!!」


 オッサンの声が聞こえた時には、俺の目の前が一瞬暗くなっていた。

 いつの間にか、ベルガルオンが俺の前に来ていたのだ。

 え、速くね? そのデカい身体で何でそんなスピード出んの?


「ふげっ!?」


「兄ちゃん!?」


 まるでハエでも叩くかのようなベルガルオンの一撃で、俺は地面にめり込んだ。

 確実に首が逝った。それに続いて、俺の意識も――――。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆




「はっ!?」


 目を覚ますと、そこはリスポーン地点に設定した村の入口付近だった。

 やっぱり瞬殺されたか。

 今は痛みを感じないが、思いっきりぶっ叩かれて、地面にめり込んだ感覚ははっきりと覚えている。

 意識が途絶え、死ぬ瞬間というのはおぞましいものだな。死神が手を伸ばしてきたような錯覚を見たぞ。


『レベルが上がりました』


「OK、じゃあ次行くぞ」


 レベルが上がったのを確認してから、ベルガルオンの元へ、再び戦闘へ合流せんとダッシュする。


「オラァァァァ! また来てやったぞ熊野郎!」


「ガウッ!?」


「は!? 兄ちゃん!? なん……え!?」


 ははっ、オッサンどころかベルガルオンまで驚いてら。

 そりゃそうか。殺したハズの相手が舞い戻って来たんだからな。


「悪いなオッサン! 説明してる暇はねーんだぶっ!!」


 驚きはしたものの、ベルガルオンの対応は至って冷静なもので、突っ込んだ俺の喉笛は、ヤツの爪で串刺しにされた。

 激痛と呼吸困難のせいで、上手く頭が回らずに……あ、死ぬわ。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆




「はっ!?」


 目を覚ますと、そこはリスポーン地点に設定した村の入口付近だった。

 やはり、レベル3では倒すどころか一撃を当てることさえ難しいか。


『レベルが上がりました』


「よっしゃ、もう一本!」


 もはや死ぬことに躊躇いはあるまい。

 なんつーかね、死んでもリスポーン出来るからこその芸当だよね。

 普通だったらこんなホイホイ死にに行けねーわ。


「まだまだこれからだろ熊野郎! ほらかかって来いやァ!」


「ガウゥッ!?」


「いや、え、兄ちゃん……ええっ!?」


 ベルガルオンに挑発を飛ばしながら駆けていくと、またも生き返って現れた俺を見て驚くベルガルオンとオッサンが目に入る。

 流石に二度は無いと思っていたのか、ベルガルオンは動揺しており、明らかな隙を晒すことになった。


「隙あり! 食らえぇぇぇぇッ!!」


 尤も、その隙を突いて繰り出す一撃が、文字通り致命的なものになるかどうかは別であるが。


「……あ」


 ぼすっ、という音と共に、柔らかな体毛と硬い肉の感触が拳に伝わる。

 これはあれだ、全く効いてないヤツだ。


「えーと……いいボディしてますね?」


 ぐちゃぐちゃにされた。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆




「はっ!?」


 目を覚ますと、そこは……ってもういいか。

 いやぁ恐ろしかった。まさかあんなにされるとは思っていなかった。

 ベルガルオンなりに、俺が二度と蘇生しないように対策するためにやったことなんだろうな。

 どんな風にされたかって? 聞かない方が幸せだぞ。

 誰に言ってんだ俺は。


『レベルが上がりました。新しい能力を身につけました』


「おっ、やっとか」


 通算四回目の死を迎えてレベルが5に上がったところで、新しい能力を得たようだ。


「新しい能力について説明を頼む」


『承りました。新しく取得した能力は、死亡した原因が何者かによる殺害だった場合、その死因となる攻撃を自分のものとして扱える能力です』


「つまりどういうこった」


『簡単に説明しますと、例えば貴方が何者かに魔法で殺されたとして、次に復活する際には、貴方はその魔法を取得した状態となります』


「……ほーう、なかなか使えそうじゃねーか。つか、普通に強いな?」


『ただし、取得出来る攻撃は、レベルによって異なり、現在のレベルでは一つのみとなります』


「あ、やっぱ制限あんのね……」


 勇者の能力という割には、色々不便だし融通効かねーのな。

 ホントにこれ勇者の力?


「おっと、こうしちゃいられねぇ。オッサン達がやられてねーか心配だ」


 ともあれ、新たな力を手に入れたことに変わりはない。

 早速この力を使って、あの熊の目に物を見せてやろうじゃないか。

―による区切りは場面の切り替え。


☆による区切りは場面の切り替え、及び主人公の蘇生が生じたものを示しています。

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