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拙い作品かも知れませぬが、良ければどうぞ、読んでいってください

 目を覚ますと同時に、ざわざわとした喧騒が耳を叩いた。

 人の声のようだ。

 何やら焦った調子で声を上げている者もいる。

 はて、何でこんな声が聞こえるのか、俺、風美嵐(かざみあらし)にはわからなかった。


 確か俺は、自宅で眠りにつこうとしていたハズだ。

 一介の大学生であった俺は、いつものように夕食を摂り、風呂に入り、明日の講義の準備をしてから、ベッドに潜り込んだのを覚えている。

 何の変哲もない、普通の日常だ。

 それがどうしたことか、いつの間にか人がいる場所に寝転がっていた。何故だ。

 脱力していた身体を起こすと、次は歓声が湧き起こった。


「……これは、一体……?」


「おお、目覚められたか!」


 自分を取り巻く状況に目を白黒させていると、俺の元に一人の老人が歩み寄ってきた。

 どう見ても日本人のそれとは違う顔立ちと、おかしな服装。何者かもわからないその老人は、俺の手を取ってこう言った。


「良くぞ目覚めてくれた! ダンペルク王国の勇者よ!」


「……は?」


 まるで大きな勝負に勝ったかのような安堵の表情で、俺を立ち上がらせたこの老人は今、何と言った?


「勇者……?」


「左様、そなたはこのダンペルク王国の危機を救うため、我々が召喚した勇者なのだ」


 勇者、この老人ははっきりとこう言った。

 勇者とは、あれか。よくゲームや物語の中に出てくる、凄まじい力を持って、魔王の支配から世界を救うような、あの勇者か。


「俺が、勇者? それに、召喚だって……?」


 見知らぬ場所に見知らぬ人々、聞いたことも無い国の名、日本どころか地球上のどこであろうと、作り話や神話でしか聞かない勇者という単語、そして召喚。

 さぁ、この流れから導き出される答えは。


「……異世界、召喚……?」


 最近流行りの物語、異世界召喚が現実に起きたということか。


「……まさか」


 しかし、ごく一般の、現実的な思考をしていると自負する俺は、この状況を有り得ないものと判断した。

 これは現実じゃない、夢だ。

 立ち上がった際の、大理石のような床を踏んだ時の感触も、老人に支えられた際の頼りない力加減も、全てリアルな夢だ。


 そういえば、寝る前にその類のラノベを読んでいた。それが影響したのだろう。

 いやぁ、大学生にもなって、こんな夢を見るとは、俺もまだまだ大人には程遠いということか。


「今目が覚めれば、家のベッドの中だろうな。よし、じゃあ――――」


「何を言っておられるのか、勇者よ。我々の願いを聞き届け、その身をこのダンペルク王国に捧げたのであろう? さぁ、ぐずぐずしている暇など無いのだ」


「いやいや、勘弁してくれ。俺はそんな歳じゃないんだ」


 ファンタジーな物語を夢に見るのは、子供の頃だけで十分だ。

 目を覚ませ俺。流石に朝ではないだろうが、とにかくこの幼稚な夢から抜け出すんだ。

 頬をぺちぺちと叩いて、俺は眠っているであろう身体に覚醒を促す。

 しかし、どうしたことか、俺は一向に自室へ戻らない。どころか、叩いた感覚は両の頬にしっかりと残っている。


「……何故だ?」


 感覚がある夢とは、また何ともリアル過ぎる。


「何をしておられるか、勇者よ。そなたの力がすぐにでも―――――」


 首を捻る俺の手を、老人が力無く引っ張る。

 やや焦った様子だが、一体何だというのか。


「ロイン殿ォ!! 魔族が城門を突破しました! 王宮を制圧されるのも、時間の問題にございます!!」


「何っ!?」


 慌ただしく開かれた扉の方に目をやると、あちこちがへこんでしまっている甲冑に身を包んだ、騎士とも呼べる格好の者が現れた。

 それに応じた老人――ロインというのか――は、この世の終わりとでもいうような顔をした後、俺の方へ振り返った。


「勇者よ、もはや時間がない! そなたの力で、迫り来る魔族を討ち倒してくれ!」


「いやだからさ……」


 そこまで言って、俺は少しだけ思案する。

 話の流れ的に、このダンペルク王国という国が敵勢力に攻め込まれているのはわかった。

 その状況を打破するために呼ばれたのが俺だということも、まぁよくある異世界転生だか召喚だかのお約束ってヤツだ。

 となれば、俺には勇者と名乗るに相応しい力を持っているハズであり、今のこの騒ぎは、その力を使いこなすためのチュートリアルというわけだ。


「……いや待て、何で俺は夢の中で真剣に考えてんだ」


 早いとこ起きてしまえばいいのに、どうしても現実に戻らない。

 特に何もなかったと思うが、身体はそんなに疲れていたのか。大爆睡じゃないか。


「城内第三区画壊滅! 南の塔は陥落しました!」


「第二区画も魔族軍の援軍が到着! もう保ちません!」


「何と……!」


 次々と現れるボロボロの騎士達の報告に、ロインはわなわなと震える。

 すると、俺の方をいきなり振り向き、周囲の人間に指示を出した。


「お前達! 勇者を早く下へお連れしろ! 戦場の場所がわからぬようなら、我々が連れていくしかあるまい!」


「……は?」


 急に何を言い出すかと思った時には、俺の両腕は甲冑の騎士二人に取られていた。


「さぁ、勇者殿、こちらへ!」


「は? オイ待て!?」


 ガッシャガッシャと音を立てながら走る騎士達に連れられていく。

 時折窓の外から見える火の手を見て、彼らの言っていることは本当であり、絶賛戦闘中なのだとわかる。


「さぁ、着きましたぞ勇者殿!」


「さぁ、早く魔族軍を討ち果たしてください!」


「……え?」


 しばらく運ばれていると、庭園か、広場らしき場所に連れてこられた。

 そこには、草木が焼かれ、金属のぶつかり合う音が響き渡り、血と肉が撒き散らされた地獄のような光景が広がっていた。


「そこまでだ魔族軍! 暴虐の限りを尽くす畜生共め!」


「こちらには勇者がおられる! 貴様達が勝つ術など無い! 大人しく投降せよ!」


 騎士二人が声を上げる先にいた者達に、俺は絶句した。

 騎士が『魔族』と呼んでいるのは、人の形を持ちながら、毛むくじゃらの身体に、動物のような角や牙を携えた、人ならざる者。

 明らかにヤバそうな、いかにも『魔族』と呼ぶに値する存在。

 そんなのと戦っているのかコイツらは。


「お、おお……勇者様……!」


「召喚の噂は聞いていたが、成功したんだ……!」


「これなら、勝ったも同然だぁ……!」


 魔族軍にボコボコにされ、戦えそうにないであろう騎士達が、まるで希望の光を見つけたかのように俺を見る……あれ、これ何かヤバくない?


「ほう……貴様が勇者とな。ならば、この魔将軍、ギンボルが相手となろう。来るがよい」


 魔族軍の後ろから、一際デカい影が現れた。

 いや、影と勘違いするくらいに真っ黒な体毛を持った、山羊か何かに似た者だ。

 ギンボルと名乗ったソイツは、サーベルを腰から抜き取り、構えて見せた。


「え、いやちょっと……!」


「さぁ勇者殿、あの卑しき魔族軍に、貴殿のお力を見せつけてやってください!」


「はぁ!? いや俺戦ったことなんて無いけど!?」


「何を仰いますか! 勇者殿の力なら、魔族軍など敵ではありませんよ!」


「いやだから……」


「来ないなら、こちらから行くぞ!」


 大きな足音を鳴らしながら、ギンボルが駆けてくる。まるで突っ込んでくるトラックのような迫力だ。


「ひぃっ! き、来ましたよ勇者殿!」


「早く迎撃を!」


「いやそもそも、俺にはどんな力があるかさえわからないんだが!?」


「勇者殿なら出来るでしょう!」


「あ、もう面倒くせぇわ」


 勇者の役割だろうが、勇者の力だろうが、どうせ目を覚ませば全て夢の出来事だ。

 こちらの話も聞く気はないし、全部人任せなヤツらと話すのは、夢の中でも疲れるというもの。

 ならばさっさと起きて、現実で『変な夢だった』と笑い飛ばすのが一番だ。


「死ねぃ!」


 ギンボルの腕から振るわれたサーベルは、横一文字に俺の身体を斬り裂いた。

 ショックで目を覚ますには十分なレベルの一撃。モロに食らった俺は、その衝撃で目を覚ます――――ことはなかった。


「……あれ……がふっ!?」


 一拍遅れて、ものすごい痛みと熱が、斬られた部分から広がっていく。

 裂けた腹部からは、ボタボタと内臓が零れ落ち、苦しくなる呼吸には血が混じりだした。


「……嘘、だろ……?」


 夢にしては、あまりにもはっきりと感じる苦痛。

 痛みだけならまだしも、掠れる呼吸と、臓物の喪失感は、流石に普通の生活をしていればわかるわけが無い。

 故に、この苦しさは本物だ。身体がそう告げている。

 だとするなら、今俺がいるここは……?


「夢じゃ、ない……?」


 俺は、俺自身が撒き散らした血の海に倒れ伏しながら、その言葉を口にした。

 鉄を舐めた時と同様の味を最期に感じ、途端に全てが暗転した。

 消えてしまいそうな意識の中、何も考えられなくなる直前に……



『おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない』



 どこかで、そんな言葉が聞こえた気がした。

残念ながら、ゲームの世界ではない

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