1話
ーようこそお出で下さいました。此処は「人ならざる者、及び死者」が来る温泉街でございます。今宵も多くのお客人がいらっしゃいます。さぁさ、貴方もどうぞごゆるりとー
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カラカラと小気味よい下駄の足音軽く、此処「モノノ怪湯宿」は名の通り化け物が跋扈する湯の街。ざっくり言うならば異世界温泉街、ってところな訳さ。やぁや失礼、自己紹介が遅れあした。アタクシはこの街の観光案内人を務めます分福茶釜の「ブン太」ってもんで、自慢じゃありませんがね?アタクシの茶釜はそれはもう硬度、フォルムに於いては茶釜界一と言って過言無しなんでさぁ。おっとイケねぇ、アタクシの悪い癖でしてね、ついつい自分の事を話ちまうんですよ。
「ブン太、ブン太!ちょいと来な!」
おや、こいつぁ珍しい方からお呼びだ。
「へい、何でしょうか?」
アタクシを呼んだのはこの街を仕切る九尾の白狐様、御影様さ。見事な毛並み、圧倒的なカリスマ性からファンも大勢いらっしゃる。アタクシもその一匹さ。
「河童達が騒いでるんだ。アンタちょいと見てきてくれやしないかい?」
「河童が、ですかぃ?承知しやした。」
河童は街の門番で普段は冷静沈着なんだが、奴らが騒ぐたぁよっぽどの事件か。兎に角御影様のご指示に従おうかね。
ー平穏な街に事件が起きたと少しワクワクした自分を後から恨む事になろうとはブン太は微塵も思わなかったー
街は常に夜を示し、空には穴だらけの唐傘が表通りをアーケード街よろしく覆い尽くしている。27時から30分間だけ唐傘の足湯タイムとなるが全く見目麗しいものではない為見ない事をお勧めする。暗がりを優しい橙色のカンテラが照らし、街中はどこか暖かさで満たされていた。各湯宿の番台には御影様の配下の狐が多い。噂は様々で、金勘定に長けている者が多いのだとか、狸には倍料金だとか良し悪しあるが狸以外文句がないので現行されている。
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モノノ怪湯宿に入る際には河童から必ず木札が渡される。妖怪なら水色の木札、モノノ怪なら黄色い木札、死者なら橙の木札。それぞれの木札にバーコードが付いていてそれが個別証明書となっている。
その他として、街の従業員は赤い木札、神様は紫色の木札、そして街に波乱を起こす者は緑の木札が渡される。拒みはしない。それがこの街の掟だ。もし緑を街に入れた際は各湯宿及び有権者に報告が行き、厳重警戒となる。
昔一度だけやんちゃ者が木札を緑に染め大騒ぎになった事があった為、自動認識装置の早期開発及び設置し、二度と混乱の無いよう徹底している。余談ではあるが、そのやんちゃ者の最後は語るも無惨な姿であった事は言うまでもない。