第7話
「ここがその魔力反応があったって場所なのか?」
「はい、間違いありません」
――キーンコーンカーンコーン
聞きなれた鐘の音が鳴る。
エミルに先導してもらい、着いた場所は、俺の通っている高校だった。
いつも、帰りのホームルームが終わり次第、直ぐに帰るので知らなったが、放課後というのは青春で溢れているらしい。
楽しそうに友達と話しながら下校する生徒。
グラウンドで汗を流し、ボールを必死に追っているサッカー部。
その周りのトラックをひたすら走っている陸上部。
「よし帰ろう」
「来たばっかりじゃないですか!」
「ここに俺の居場所はないんだよ」
「何を仰るのですか。勇者様は、この場所でモンスターを倒す使命があるではありませんか」
「そんなこと言ったって、モンスターなんてどこにも……」
む―っと、不満げな様子のエミルが、頬を膨らませながら、右手で空を指す。
そちらを見ろという事だろう。
首を軽く動かして、指の先が示す場所を見――
いた。
なんかいた。
一目で人外だとわかる緑色の肌に、どっしりとした筋骨隆々な身体。
ただでさえ気色悪いのに、身体全身についているぶつぶつと、低い鼻や、ニタァと張り付く笑みが、醜さを際立たせる、
肩に担いでいる、規格外の棍棒が、より一層異様さを放っている。
生徒が絶えず行き来する、靴箱にそいつはいた。
魔王を倒す系のRPGジャンルゲームで見たことがある。
俺が知っているのは、もっと小柄なタイプだが。
「あれは……ゴブリン……?」
「その通りです。中級モンスターに位置していますが、図体と筋力だけで、知能は低く、勇者様なら何の問題もないかと」
「それよりみんなおかしいだろ! なんで、あんな化け物がいるのに、みんなは平然としているんだ]
今、ゴブリンは地面と靴箱を繋ぐ階段の真ん中に仁王立ちしている。
それなのに、誰も気づく様子はない。
場違いすぎる化け物を、生徒は器用に避けて、階段を行き来している。
誰も不自然に空いている真ん中を通ることはしない。
「早く逃げないと、あの棍棒で殴られたりしたら、ひとたまりもないじゃないか。だいたい、モンスターってなんだよ。地球にそんなのが現れたら、世界中が大パニックに……」
「御心配には及びません。異世界から転移してきたものは、地球上の人間には見えませんから。もちろん、干渉することもありません。モンスターは、勇者様を殺す。その一点で行動します」
なるほど、そういうことか。
確かに、お隣さんも、メイドさんが剣を振りまわして暴れているのに、俺だけに向けて話していた。
あれは意図的な無視なんかではなく、まるで剣を振りまわして暴れているメイドなんて存在していないといった振る舞いだった。
「じゃあ、人類がモンスターに滅ぼされる、みたいな展開にはならないわけね。安心したわ――……って安心できるか!」
「どうしたのですか勇者様。いきなり大声なんて、近所迷惑ですよ」
「それを廊下で剣を振りまわして暴れていた君が言う!?」
はて、なんのことでしょう、とでも言いたげに、エミルはとぼけた顔で無言を貫く。
このしらばっくれメイドが言うように、モンスターという存在は、地球の人間と関わることはないらしい。
かと言って、モンスターは人類を襲わないから安心だね、よかったよかったとは全くならない。
その人類という単語に、俺は含まれていないのだから。