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第6話


「俺が異世界を救った勇者の転生した姿というのを、仮に認めたとしよう。それで、俺はどうすればいいわけ?」

「勇者様の目的は、深手を負って、地球に逃げてきた魔王に今度こそトドメを刺すことです」

「俺を襲ってくるモンスターを倒しながら?」

「そうなりますね」


 当然、と言うように、エミルは頷く。

 

 スライムが存在する以上、他のモンスターもいるのだろう。

 有名どころだと、ゴブリンや、ガーゴイルといったものが思い浮かぶ。

 

「無理だね。スライムですら死にかけたもん。何度も死んでは生き返って、おお、勇者よ。こんなところで死んでしまうなんて情けない、って神父さんに言われ続ける未来が見える……って、ここは現実だから、死んだらお終いか」

「ご安心ください。死ぬのは地球での出水秀平であり、勇者シュヴァルツ・ロイスは元の世界に戻ります。万が一、死ぬようなことがあれば、別の肉体に転生しなおせばいいのです」

「全く安心できないわ!」


 エミルは俺を勇者として話を進めているが、そんな記憶は俺には一ミリもない。

 俺は出水秀平として、出水秀平として生きてきた。

 モンスターと戦って、はい、死にました。転生しなおしましょう、とはならない。


「これから、地球にモンスターが現れるわけ? 今まではそんな非現実的なこと怒らなかったのに?」

「モンスターが現れたのは、魔王が目覚めたのと同義です。まだ、スライムを生み出す程度ですが、これから徐々に力を付け、勇者様の命を狙うモンスターも強くなるでしょう」

「言っとくけど、俺めちゃくちゃ弱いからね! 見たでしょ!? スライムすら倒せないんだよ! どんなゲームでもレベル1でいい勝負するスライム相手にだよ!」

「記憶喪失の勇者様が、この状況を理解するのに時間がかかるのは仕方がありません。しかし、貴方が魔王を討つ使命を持った、勇者シュヴァルツ・ロイスだというのは変わらない事実なのです」

 

 正座してピクリとも動かないエミルの顔は真剣そのものだ。


 実態のあるスライムも見た。

 お隣さんに見えない、メイドも見た。

 何より、記憶は全く戻っていないが、よく見ると超絶可愛いメイドさんと普通に話せている俺がいる。

 それが、異世界で時を共にしていたからだ、と言われたら、納得できる。


 年齢=彼女いない暦。帰宅部でコミュ障、スクールカースト最下位の非モテ陰キャ。

 そんな俺が、魔王を倒す勇者という話があるのだろうか。

  

 もしかしたら、俺は人生勝ち組の陽キャへと大逆転するチャンスなのではないか。

 モンスターに襲われたクラスのヒロインの元へ、颯爽と駆け付け、華麗な剣技で敵を葬る俺。

 一気にラノベの主人公に――


「勇者様、マチルダから報告がありました! ここから1キロ先に魔力反応です! 今はまだ納得いかないかもしれませんが、どうか私と共に――」

「よっしゃあ! かかってこい、俺が勇者だあああああああ!」

「えええ……」


 魔王でも、サタンでも、デーモンでも何でもいい。

 俺の人生逆転劇の糧になってもらおうじゃないか。




 

 



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