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第3話



「人違いですね。俺はそのシュヴァなんちゃらさんじゃありません。出水秀平って名前が――」

「それは転生した身体で歩んだ人生の記憶です。貴方は間違いなく、魔王を倒した勇者様です」



 聞き間違いじゃなければ、このメイドさんは、俺を魔王を倒した勇者と思っているらしい。

 転生というのは、何らかの理由で突然死んだ後、チート能力を手に入れて異世界で無双するアレだろうか。

 だとしたら、魔王を倒した勇者が地球に何の用があって転生するんだろう。

 観光とかかな。異世界って、和食なさそうだし。


 

「その思案する佇まい! 姿形は変わっても私にはわかります! 貴方は復活を目論む魔王を追って、地球に転生した勇者シュヴァルツ・ロイス様!」

「いやいやいや! 勝手に盛り上がらないで! そんな前のめりになって、羨望の目を向けないで!」

「勇者様が転生した後、行方が分からなくなってから、皆がどんなに心配したことか……。そうだ、まずは各地に散らばっている仲間を集めましょう! 魔王探しはそれから――」

「ちょっと落ち着こうか! そうだね、じゃあ家集合で、みたいな感じにはならないから!」


 謎にテンションが上がっているメイドさんが、遂には立ち上がっちゃて、身体を小刻みに動かしている。

 全身が落ち着かないメイドさんは、どこから取り出したのか、携帯っぽいけど携帯じゃない、不思議な機械――正直、機械なのかも怪しい何か耳にて、急に無言になってしまった。

 落ち着いて、という言葉を聞いてくれた感じではない。

 


「もしもし、マチルダ? 勇者様が見つかったわ! うん、うん……それ、本当? だとしたら急を要するわね……」

「それ普通に携帯なのかよ! てか話全然聞いてくれないじゃん! 俺は勇者じゃなくて、陰キャボッチで仲間なんていないの!」

「勇者様、マチルダから報告がありました。私達の接触に反応して、モンスターが接近しているようです!」

「ほんとに全然話聞いてくれないじゃん!」



 さっきまでふわふわしていたメイドさんの雰囲気が変わり、どこか真剣みを帯びている気がする。

 かなり凝った設定を自分の中に持っているくらいだから、この手の演技もお手の物なのだろうか。

 小走りで廊下の奥の玄関まで行ってしまった。


「段々、モンスターの気配が強まっている……。でも、安心してください! この微弱な魔力はスライム系の雑魚でしょう!」


 スライムでも、スライムベスでもなんでもいいけど、いい加減に俺の楽園から出て行ってもらいたい。

 今日は大乱闘の気分なんだって。

 メイドさんの演技に付き合って、空想のモンスターとエアバトルをするつもりはないんだ。

 

 ちょうど今、玄関まで勝手に行ってくれたし丁度いい。

 近所の公園にスライムが! とか適当言って、演技にノってあげよう。

 そのまま外に出て、機を見計らい、俺は楽園に戻る。

 完璧な作戦だ。


 あの子には悪い気がしないでもないが、冷静に考えると100パーセント俺は被害者だ。

 通報しないだけありがたいと思ってほしいくらい。



「ここで待つより、探しに行った方が良くないか? ほら、公園とかにいるかも」

「勇者様、今ドアを開けるのは危ないです!」

「大丈夫、大丈夫。我、勇者ぞ? 我、魔王倒した勇者ぞ? スライムなんてちょちょいのちょい――」

 


 いた。

 なんかぷるぷるした透明なやつがいた。

 ドアを開け、マンションの廊下に踏み出そうしたら、1歩目の着地予定地に奴はいた。


 スライムだ。

 紛うことなき、RPGゲームの序盤に出てくるスライムご本人が目の前にいる。

 しゃがんで、実態を確かめようと、人差し指を伸ばしす。

 


「これ、CGか何かだったりしま――」

 

 突然、顔にひんやりとした感覚がしたのと同時に、声が出なくなる。


 息が出来ない。

 それに、視界がぼやけている。

 例えるなら、水の中で溺れているような。


 恐らく、スライムが頭に纏わりついている。

 自由な両手で引き剥がそうとしたが、ぶよぶよでぬめぬめのスライムを上手く掴むことができず、状況は変わらない。


 これはヤバイ。

 割とマジで死ぬ。


 

「勇者様から離れろや、このクソ雑魚下級モンスターがああああああ!」



 えっ、誰の声……?


 スライム越しに、耳が痛くなる程の怒声が聞こると同時に、俺の頭は完全開放された。

 

 


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