表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

第1話


「それでは帰りのホームルームを終わります。寄り道をしないで、まっすぐ帰るように」


 退屈な学校が今日も終わった。

 先生が教室から出ると、遊びの誘いや部活の話でクラスは一気に騒がしくなる。


「ねえねえ、今からカラオケ行こうよ」

「今日の練習、ロードじゃん……。休みたくなってきたわ」

「ダーリン、今日は家に誰も居ないから来ない?」


 表情は様々だが、忙しく口を動かす彼らからは等しくリア充オーラが溢れている。


 オーラといっても、俺が能力者で、そういう目に見えない何かが見えるとかいうわけじゃない。

 そんな中二病的な発想は去年、中学を卒業した時に置いてきた。


 オーラというのは、俺のような帰宅部、友達ゼロのスクールカースト最下位の陰キャだからこそ眩しく見える、キラキラとした彼らのリア充っぷりのことだ。

 同じ教室にいるのに、住む世界が違うと思うことが度々ある。

 その度に、俺は自分がみじめになり、何とも言えない暗い気持ちになる。



「他にカラオケ、誰か誘う?」

「そこで暇してそうな出水君とかは?」

「あ――……まあ、うん」

「ちょっと、ねえ」

「なんというかなあ……」


 

 偶然聞こえた、近くのグループの会話が俺の豆腐メンタルをズバズバ切り裂く。

 なんだその歯切れの悪い返事は。

 まだ、あまり仲良くないから、って感じでバッサリ断ってくれた方がいい。


 別にいじめられている訳じゃないし、皆から無視されている訳でもない。

 ただただ、友達がいないだけ。

 いわゆるボッチというやつだ。


 いいもんね。俺はみんなでワイワイ遊ぶとか興味ないし。

 そもそも、先生が寄り道するなって言ってるのに、放課後遊びに行くとか論外だ。

 俺がチクれば、お前ら全員謹慎なんだぞ……。


 心の中で言ってて悲しくなる。



「ネガティブモードに入る前に教室出よう……」



 人がいないルートを即座に割り出して、リア充空間から抜け出す。

 早足で下駄箱まで移動し、靴に履き替え、校門まで小走り。

 ここまでくれば、ボッチの俺の空間だ。

 小走りをジョギングくらいの速さに変更し、風を感じながら軽快にアスファルトを蹴る。


 目的地は楽園。

 誰にも、何にも邪魔されない俺だけの空間。

 そこでは好きな時に食べて、好きな時に飲んで、好きな時に寝ることが出来る。

 さらには漫画、ゲーム、アニメ、俺が好きなものが沢山集まっている夢の場所。


 つまりはマイハウス。

 俺の家だ。

 正確にはマンションの一室。


 海外赴任で両親がアメリカに行っているため、1人っ子の俺は中学生の時から1人暮らしを強いられている。

 最初は家事全般がとてつもなく大変で、アメリカ移住も考えたが、今では仕送りさえあれば、人間らしい生活を出来るようになるまで成長した。 




 校門から10分ほど軽く走ったところで、ようやくマンションのエントランスに着く。

 エレベーターで他の乗客と乗り合わせた時の無言の時間がダメな人なので、ジョギングの勢いのまま階段を駆け上がる。

 目的地の3階に着き、廊下の角に位置する301号室のカギを回して、勢いよくドアを開ける。

 ここが楽園。

 学校では陰キャだろうが、ここでは関係ない。


「高校1年生、出水秀平(いずみしゅうへい) ただいま帰りました!」


 玄関に着くや否や、外では一度も出したことのない、大きく元気な声を出す。

 家ではずっとこんな感じだ。

 外で抑圧されたエネルギーをここで発散させてるような感じ。


 お風呂やトイレや物置を無視して廊下を進み、突き当りの広い空間――リビングに直行。

 今日はテレビで大乱闘の気分だ。

 

「リビングにもただいま!」

「おかえりなさいませ、勇者様」

「はいはい、ただいま――――って誰ええええええええええ!?」


 本来、絶対に帰ってこないはずの「おかえり」。

 リビングのフローリングの床に、その声の主はいた。


 俺の俺による俺のための楽園に、場違いな可愛いメイドさんがちょこんと正座していた。






 


 


 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ