第10話
プルルルルルル……プルルルルルル
机に放置した携帯電話が小刻みに震える。
ソファからゆっくりと起き上がった女性が長めの欠伸をしながら電話でる。
「ふわぁぁぁ……おはようエミル。いや、結構寝た気がするからこんにちはかもしれない」
「残念ならがらもう夕方ですよ。こんばんは、勇者様」
「もうそんな時間か……。電話をかけてきたってことは、魔王の討伐に成功したのかな?」
「はい。予想以上にあっけなく終わりました。転生先の身体で記憶が戻っていなかったのが大きいですね」
「お隣さんが魔王の転生先だと気付いた時は流石に焦ったけどね……。上手くいってよかったよ。それじゃ、魔王の器となった人間へのフォローは頼んだよ」
「はい、ショックで気絶しているので病院前まで運んでおきます。それではまた」
通話が切れたのを確認し、勇者と呼ばれた女性はそっと携帯を元の場所に戻す。
まだ寝足りないのか、再びソファに倒れこんだ女性は誰も居ない部屋で静かにニヤリと笑みを浮かべる。
計画はこれ以上なく完璧に進んだ。
かつて戦いに敗れ、故郷の世界を滅ぼされた怒りを胸に、魔王を倒すべくに地球へと降りたった。
しかし、地球制服を目論んでいたはずの魔王はいつまで経ってもアクションを起こさない。
そこで一緒に転移してきたエミルに調べさせたところ、勇者は1つの結論を導き出した。
隣に魔王が住んでいる。
どうやら魔王は転移に失敗し、転生してしまったらしい。
絶望的なまでに強力な力を持つ魔王を倒すにはここしかなかった。
勇者である自分自身が接触すると、魔王の目覚めのきっかけになりかねない。
だから、勇者はマチルダとしてエミルに指示を送ることにした。
自分はゆっくりとソファでくつろぎながら、確実に魔王を葬る。
魔王が目覚める前に、何も知らない転移先の人間にエクスカリバーを使わせる。
勇者以外の使用者を認めず、必殺技の解放呪文を唱えた瞬間に不適合者を消し去る聖剣。
計画は完璧に進み、魔王の討伐に成功した。
「父さん、母さん、そして故郷に生きたみんな……どうか勇者として世界を守れなかった私を許してほしい。今、ようやく敵を討ったよ。これで、少しは報われるといいんだけど……」
あまりにあっけなかった最強にして最恐であり最凶の魔王。
どこか物足りなさを感じながら、勇者は再び微睡の世界へと誘われた。