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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
4章 鬼狩り 
95/232

95 二丁銃

「さて。それじゃあ、戦いを教えよう」


 そう言って、冥官はすいと左手を差し出した。力が集まり高まるのを、疾の目が捉える。


「まず、武器だ。疾の銃は、魔力を射出する為だけのものだろう? 無理に使えば異能も扱えるようだが」

「異能だけを扱う魔道具の作成は試みてるが、芳しくないな」

「だろうな、あまりにも相性が悪すぎる」


 少し苦笑を滲ませ、冥官は軽く頷いた。手に集まる力が常人の目にも映るほど強まり、次第に形を取り出す。


「疾の異能は、術式破壊にはずば抜けて優れている。だから、魔術という理論で構築された魔道具じゅつしきには当てはめにくい」

「生体内では問題なく同居しているのに?」


 疾が取り組み続けた課題の前提条件を提示すると、冥官は首を横に振った。手に集まる力は、冥官の身丈よりも長く細く伸びていく。


「完全に問題ないわけじゃないだろう? 体内では回復力が働く、道具には働かない。……もっとも、本来なら問題なかったのだろうが」

「……異能そのものが影響を受けたと?」


 可能性を考えはしたが、それほどの技能をかの総帥は持っているだろうか。……魔法士は、異能そのものにあまり興味を示している様子は無いらしいが。


「魔法士協会は異能に関して知識が乏しい、というのが疑問点か。あれは日本に多いからな。あ、ちなみに疾が住む紅晴市にはやたら多いぞ」

「封印のせいか?」


 冥官は少し驚いた顔をして、にこりと微笑む。


「良く考察しているようだな。だが、半分正解だ」

「こちらの世界とあちらの世界、いや紅晴市と協会の違い……日本に多く、紅晴市に特に多いものとくれば……成る程。八百万の神か」

「その通り。異能は神からの恩恵だ」

「呪いの間違いじゃないのか」


 皮肉げに吐き捨て、疾は冥官の手元に目を向ける。一際明るく輝いた光がぱっと散ると、そこには漆塗りの弓が握られていた。


「鬼狩りが扱う力は「神力」と呼ばれる異能だ。こっちは生まれつき持ってる方が珍しく、大抵は冥王が管理者を通して授けている。あ、フレアには会ったか?」

「会う暇がどこにあった。異能も一応神が授けた力に分類される。だからこそ具現化出来るというわけか」


 神話において、神が力を具現化して人間に授ける話は少なくない。であれば、神の恩恵である力を具現化出来るというのも頷ける。


 疾は空いた掌に意識を傾けた。観察した力の流れを真似るイメージで異能を操ると、掌に燐光が瞬く。光は徐々に輝きを増していった。


「おお、流石だな」

「ここまでは経験がある」


 結界代わりにした時と工程は同じだ。問題はここから、具現化出来るかどうか。


「具現化はイメージが肝心だ。しっかり自分の武器を思い浮かべろ」


 冥官の言葉に従い、銃の形を脳裏に描く。ここまでずっと使い続けてきた武器を一部仕様変更するだけだ、想起するのは容易い。

 光がぐにゃりと歪み、疾が思い描く通り銃の形へと変形し始めた。


「後はそこに思いっきり力を注ぎ込め。濃度が上がって具現化すると思えば良い」

「急に雑な説明になりやがって、神秘の欠片もないな」


 夢のない説明に悪態をつきつつ、疾は指示に従いありったけの異能を注ぎ込む。光が一際明るく輝き、ぱっと散った。

 光の残像が消えた後には、鈍く光を反射する一丁の銃が疾の手に握られていた。


「お見事」

「……」


 冥官の賞賛を無視して、武器を観察する。元来持っていたものとほぼ同じデザインで、ぱっと見では見分けが付かない。

 銃を構え、引き金を引く。力が吸い取られ銃弾として撃ち出されたそれは、魔力ではなく、異能を弾としていた。


(……本当に、出来たのか)


 これまで散々理論をこねくり回しても完成しなかった頭痛の種が、よもや異能の具現化だけで片付くとは、肩すかしにも程がある。


「ちなみに、一旦具現化すれば、今後は力を注ぐ必要はない。武器を喚び出す感覚だな」

「喚び出す?」


 引っかかる表現に顔を上げると、冥官は弓を掲げるように疾に示した。弓が溶けるように消える。


「神力に溶け込ませるイメージで消して──」


 冥官が手に力を集めた、と思うと、次の瞬間には弓が握られていた。


「──身の内から手元に湧き出すイメージで喚び出すんだ」

「……分かるような分からんような」


 ぼやきながらも、疾は手元に集中する。銃に異能を纏わり付かせ、沈めるように力を流すと、確かに消え去った。改めて武器を意識すれば、唐突に手に重みが現れる。


「出来ているんだから問題ないじゃないか」

「……」


 少し考えて、疾は魔力を撃ち出す方の銃を取り出した。父親と共同で作りだしたそれに、試しに異能を纏わり付かせ、先程と同様に力を操る。が、銃は消えない。


「流石に、既存のものは無理か……となると」


 今まで使い続けてきた銃に愛着はあるが、それはそれ。疾は改めて異能を操り、銃をもう1つ作りだした。引き金を引くと、魔力が吸い取られて撃ち出される。


「……魔力弾用も改めて作ったのか?」

「どうせ使い分けるなら、自由に出したり消したり出来る方がいいかと思ってな」


 元々の銃をポケットに突っ込み、疾は両手に銃を出し入れしつつ冥官に答える。外観設定も同一にしたため、相手から見てどちらの弾が飛んでくるか混乱させられるメリットもあった。


「二丁銃はあまりいい戦い方じゃないと思うんだが」

「それは銃の反動ありきの話。これは魔法具だ、弾倉だの雷管だのが実際に組み込まれちゃいない。トリガー引くのがスイッチになってるだけだぜ、片手でも十分操作出来る」

「いや、両手でという時点で、だよ。意識が分散されるだろう?」

「は? それぞれの手で別の図形を描く程度の処理量だぞ? プログラミングでもするわけじゃあるまいし。ま、距離だの威力だのの調整は慣れが必要かも知れないが、それだけだ」


 胡乱げな気分で反論した疾に対し、何故か冥官は溜息をついた。


「……母親の悪影響が見事に出てるな」

「何か言ったか」

「いや、何も。まあ、疾がそれで戦えるなら良い」


 にこりと笑う冥官はまだ何かを隠していそうだが、言う気は無いらしい。今追求する必要も無さそうなので、疾も肩をすくめて返しておいた。


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