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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
4章 鬼狩り 
87/232

87 足掻き

「……っらあ!」


 半ばやけくそ気味に、疾は身体強化を宿した蹴りで剣を蹴り飛ばす。痺れる足を直感で操り、軸足に置き換えて宙に飛んだ。

 その場に置き去りにした魔道具が炎を吹き上げる。高位の魔術を込めたトラップは、並みの魔術師なら為す術なく丸焦げに、そうでなくても足止めにはなる。……これまでは、そうだった。


「つまらないな」


 冷ややかな声がして、炎が逆巻いた。


「!」


 即座に銃を撃ち込んで炎を相殺する。爆風が吹き荒れるも、一瞬で散らされた。


「小細工が通じると思われたなら心外だ」

「な……があっ!?」


 真後ろに聞こえた声に戦慄するより早く、疾は地面に叩き付けられる。地面を抉る程の攻撃に、意識が遠のいた。


(──まずい!)


 本能の警告に従って、地面を転がる。刹那、地面に拳が叩き付けられた。直撃していたら、確実に防御を破っていただろう威力は、余波だけで疾の身体を吹き飛ばす。不安定な体勢で、男がすいと腕を掲げるのを見た。


「俺はまだ、術も使ってないぞ。失望させるな」

「──!」


 来る、と認識した時には、凄まじい力の奔流に呑み込まれた。

 全身から血が吹き出る。床に落ちた身体が、びしゃりと嫌な音を立てた。


「はあ……っ」


 痛みを無視して無理矢理身体を起こし、疾は振り下ろされた剣を銃で受け流す。左手で魔道具を顔目掛けて投げつけながら、右手の引き金を引いた。

 壁に当たった銃弾が、展開していた魔術を発動させる。水流が細かく分岐してうねり、敵を捕らえる鎖と成って襲いかかった。


「──だから、小細工はやめろと言っている」


 男がすいと左手で印を切る。あっさりと鎖が砕け散り水と戻って飛び散る。そこに、投げていた魔道具が落ちた。

 壁により掛かって立つのがやっとな疾は、頬を歪ませて呟く。


「小細工が俺の精一杯だっての」


 水が、黄金の輝きを帯びて弾けた。


 魔道具に込められた雷の魔術は、水と、床に撒き散らされた疾の血を導電体として四方八方に走り抜け、文字通り光の速さで襲いかかる。──少なからぬ返り血を浴びた、男目掛けて。


 電流が走る音と、肉が焦げる音がした。


「っ……はあ……っ」


 大きく息を吸い込んで、吐き出す。ぐらつく頭を振って、疾は魔力不足の影響を追い出した。


(……消耗が早すぎる……あの力、同系統か)


 どうやら彼の貴人、疾の異能と似たような力を持つようだ。小細工として通用する魔術を扱うだけで、魔力切れが起きかけている。

 だが、そんな事で相手が止まるわけもなく、またこの程度で負傷する様な輩でもないのは、疾自身が誰よりも、分かっていた。


 これは、ただの時間稼ぎ。


「──発想も大した事はないな」

「そりゃ悪かったな」


 冷めきった声が酷評を下すのに、軽口を叩いた。震える右手に持つ銃を握りしめて、漆黒の瞳を真っ直ぐ見返して、大きく息を吸い込む。

 始めから結果の分かりきった戦いに、どんな足掻きも無意味だ。小細工が通用しないならば、自分が何も出来ないほど無力なのは、疾は嫌と言う程知り尽くしている。……それでも。


「千年生きる人外を驚かせるようなシロモノなんぞ、持ち合わせちゃいないんでな!」


 言いながら、銃の引き金を連続で引いた。弾をばらまくように撃ち込んで、全ての点を結び合わせて魔法陣と成す。


「俺がつまらないのは、その引き際の悪さだ」

「あんたを楽しませるために戦っちゃいねえからな!」


 振るわれた刀が、展開された防御魔法陣に阻まれる。僅かなタイムラグを縫うようにして、疾は銃に込められるだけ込めた魔力を撃ち放った。


「……」


 くっと眉を寄せた男が、刀印を結んで軽く振る。あっけなく霧散した魔力目掛けて、魔石を投げつけた。


「お前──」


 男が何かを言いかけたが、構わず疾はもう1度銃の引き金を引く。


 凄まじい爆風が疾の身体を吹き飛ばした。事前に展開した緩衝魔術が、壁に叩き付けられた疾を受け止める。

 魔力の不協和音が引き起こす爆発。下手な魔力持ちが巻き込まれれば、それだけで体内の魔力回路を乱され、動けなくなる。自滅覚悟で男へと少しでも影響を与えようとしたが、精々足止めにしかならなかったか。

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