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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
4章 鬼狩り 
82/232

82 課題

 取り敢えず、なにはさておき異能をどうにかしなければ。


 それが、目下、疾の頭痛の種だった。


 相変わらず、銃作りは難航している。父親にも相談しているが、なかなかこれといった助言は得られていない。母親も興味を持って口出ししているようだが、理論が宇宙の彼方へ飛んでいってしまうので、技術的に再現可能な状態にまで引き落とせないらしい。

 そして。


(仮に完成したとして……練習をどうするか、だよな……)


 今まで疾が異能を練習する方法は、設置型の魔術をひたすら破壊するか、魔道具をばらまいて破壊するかの二択だった。だが、それではノワールの魔術を破壊したような異能の扱い方は練習出来ない。

 魔術理論を勉強しなおし、ノワールの魔術でも即座に破壊するような練習は当然している。見て覚えた限りの魔術を再現し、破壊するまではきっちり済ませた。


 ……ところで、ノワールの扱っていた魔術は、どれもこれも魔力消費を極限まで減らし、発動までの工程を簡易化してあり、疾でも扱える代物だった。そのくせ威力は上級魔術クラスという意味不明な出来である。あんなに魔力をあり余らせているくせに、何を思ってそんな魔術を編み出したのだろうか。

 あと、そんなトンデモ魔術を10も20も発動する処理能力はともかくとして、疾如きにはオーバーキル過ぎる。1つでも直撃したら確実に骨も残らず消し飛んでいただろう。


 疾はノワールに対し、どうにもアンバランスさを感じてしまってならない。一体あの人外レベルの少年は、何を思って魔術を身に付けているのだろうか。

 それはそれで少々興味が沸いたが、現状の疾にそんなささやかな好奇心を満たしている暇はないので、ひとまずは保留である。


 閑話休題。


 魔術や魔道具を破壊する異能の行使は、フランスにいた頃から課題とされていたのもあり、かなりの自信を持っている。魔術の解読さえ出来れば、あの場でノワールの魔術を全て破壊するのは決して不可能ではなかったはずだ。


 だが、そもそも異能の発動条件が「魔術を解読する」であることに、疾は限界を認めていた。


 知識がなければ魔法陣の解読は出来ない。理論体系が異なれば、魔術の構成要素も全て変わってくる。今回は幸い魔術書を読んでいたから良かったものの、見も知らぬ魔術理論を初見で潰せないというのは無視し得ない欠点だ。


(異世界に行って、それで危なかった事も多いしな)


 幾つかの世界で危うく死にかけた経験を持つ疾としては、いざという時の為にも、より異能の幅広い扱い方を身に付けておきたいという思いがある。相手の不意打ちの魔術に対して、余裕を持って異能で破壊する技を磨いておきたい。

 欲を言えば、異能と魔術を存分に使っての、異能戦の戦術も磨きたい。今の近距離一辺倒では、遠からず対策を練られてしまうだろう。ノワールに対処されてしまった以上、時間はあまり残されていない。


 問題は、戦術を試す相手だ。


 疾の異能は、すべからく相手に負荷を掛ける。下級魔術ならば軽い衝撃で済むが、疾の敵対している相手のレベルに合わせた魔術を破壊すれば、内臓が傷付けられてもおかしくないほどの衝撃がかかるのだ。何度か使った魔力回路そのものの破壊など論外。まして、異能の加減無しの放出が、相手にどの程度の負荷を掛けるか未知数だ。

 そんな練習をまさか父親相手にやるわけには行かないし、かといって魔法士が喧嘩を売ってくるのを待つのも非効率的だ。喧嘩を売りに行くことも考えたが、それでまた幹部が出てくるようでは身体が幾つあっても足りまい。


 となると、人間以外の相手を想定するが──


「妖……見ねえな」


 学校の帰り道、薄暮の中を歩きながら、疾はつい呟いていた。


 どうやら、学校が始まってからというものの、夜ごとにおびき寄せては滅していたのが想定以上に効を奏したらしい。高校入学から3ヶ月近くが経った今となっては、疾が魔力をばらまいても、近寄るどころか全力で逃げられてしまう。

 そもそも、疾にとって、妖は殆ど相手にならない。一撃でも異能を当てれば溶け落ちるのだから、本能に忠実で単調な動きを見せる妖は殆どが雑魚扱いである。

 それこそ、災害級の妖でも来れば話は別だろうが……特異点といえど、この街にそこまでの規格外が出没する確率など、さしたる期待は出来ないだろう。


(誰か、いねえかな……)


 異能を扱っても身体を損ねることなく、疾の戦力を引き上げるだけの実力の持ち主。最低限、自分と同格、出来れば格上で、疾が殺す気で向かっても、敵味方どちらでもない関係を維持出来る相手。更にそれが、魔法士との戦いに支障をきたさない存在であれば──


(……いくら何でも虫が良すぎるか)


 全ての条件を満たし、かつ、疾が存分に利用しても支障が出ないなど、そんな都合の良い人材がそう転がっているとも限らない。取り敢えずは、自主練で異能の使い道を色々と試してみるしかないだろう。

 そんな思考を進めながら、夕飯の買い物を済ませた疾は──そこで、思いも寄らない運命を引き寄せることになる。



 後々、疾は真剣に思う。



 都合の良い人材が必ずしもベストではなく、デメリットの方が目立って全く喜べない場合もあるのだという真理は、知らないままでいたかった──と。



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