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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
3章 戦いの始まり
75/232

75 省みて

 戦いの半分は最初の一撃で決まる。

 疾は今回、それを実行しただけだ。


 潜入して手伝う振りをして、少しずつ相手の意図とずれた行動をとる。それらを積み重ねることで、実験がどれも成功しないように狂わせた。歩き回ることで仕掛けた幾つもの小さな魔術と実験失敗を組み合わせることで、あの惨状を生み出した。

 最後の天井破壊は、単にあの爆発の数々と薬品の煙で脆くなったところに一撃入れて許容値を超えさせただけだ。


 あとは魔術師を相手にするのと、大きな違いはない。念には念を入れて、魔法士にまともに魔法を使わせる暇を与えず翻弄し続けるべく、密かに心理的動揺を誘う魔術を発動し続けたが、それ以外に特別な魔術は一切使っていない。


 たった、それだけ。

 だが、それだけのことで、疾はすっかり疲弊していた。


(やっぱ……お袋のようには、いかねえか)


 ぐったりと自室のベッドに身を沈めながら、疾は自己の能力に対し、冷静に判断を下した。


 疾の演算能力は、かなり高い方だ。だがそれはあくまで一般と比べてであり、あの母親が見ている領域は足元も拝めないほどに差がある。演算能力は訓練次第である程度までは伸ばせるが、ある程度はある程度。母親に届くまで成長出来るとは、疾の計算上は到底考えられない。

 今回で言えば、あちらこちらで行われている実験の意図を汲み取り、失敗させる為の手段をその場で編み出すこと。仕込みが終わるまで魔法士を誤魔化し続ける為に、動線の管理で視界から外れ続けるようにと気を配ること。魔力を少しずつ染み込ませ魔術の足場を作ること。

 これらの演算だけで、疾はほぼ限界に近い。これが母親なら、全フロアで同時に同じ事態を起こすくらいのことはしてのけるだろう。


 圧倒的なスペック差。それを無視して母親と全く同じ方法で敵を相手取るのは、無理だ。


(それでもなんとかするなら……魔術をもう少し負担減らす練習が必要だな……)


 手足を動かすように魔術を扱えれば、演算は戦術の方にもっと割く事が出来る。魔術は苦手だが、四の五の言っていられる相手ではない。


 そして。


(異能……マジで、魔法具をどうにかしねえと……)


 相変わらず銃は完成していない。異能を射出する銃で、銃としての機能を魔力で構成しつつ、その魔力を異能に破壊されないという矛盾への解がまだ導き出せていない。父親にも相談しているが、芳しい返答はなかった。

 異能をもっと使えれば、魔術の負担は減る。現在体中にのし掛かる疲労感の原因の一つに、魔術使用による身体への負荷もあると思えば、その価値は明らかだ。


 今回、母親の真似をして魔法士を相手取ったように、疾の中で戦闘スタイルが確立していない。試行錯誤はしているが、その手前の武器を用意する段階で手間取っているのだから世話はない。


(……まあ、今回は取り敢えず、魔法士を相手にしても、やりようによっちゃ無傷でいけると分かっただけでも、収穫か……)


 結果も出せたことだし、1度であまり多くを求めては何も得られなくなる。ひとまずはこれでよしとして、疾は休養に努めた。


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