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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
3章 戦いの始まり
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71 模索

 体調が少し整ったところで、疾は次に、情報集めに入る。

 魔法士協会とはどんな組織なのか、構成人員はどうなっているのか、どのような権力を持つのか。特徴を、強みを、弱点を、分析するための基礎データを集めようとして──


「……母さん、早い」

『あら、普通よ』


 ──その矢先に母親から先回りでデータを送りつけられ、疾は溜息をつくことになった。


『情報戦なら手伝えるもの。疾の勉強の為なら任せるけれど、これは確かな情報の方がいいでしょう?』

「……まあな」


 事実、疾のハッキングの腕では、不確かな情報も拾ってしまう場合がある。普段ならばそれも込みで扱うし、読み間違えてもカバー出来る。だが、今回は確実に勝ちに行くべき戦いだ。


「ありがたくいただいておくよ。……けど、何で暗号化されてるんだ?」

『え? ただ読むだけだと、本当に疾の勉強にならないなって』

「……」

『大丈夫よ? 正しく解読しなければ、文章として繋がらないから』

「……あっそう」


 天才ってよく分からない。改めてそう思った疾であった。



 ──魔法士は、絶対実力主義の階級制度だ。

 10級から始まり、9,8,7と数が小さくなるにつれて上位となり、1級が最上級の魔法士である。級の認定は筆記と実戦があるが、実戦に大きく点数が偏っている。

 下級の魔法士程度であれば上級魔術師、あるいは中級魔術師でも十分相手取れるが、中級……5級以上の魔法士となると世界が変わってくる。彼らは1人で10人分以上の働きをこなし、通常魔術師が3体もいれば死を覚悟するような魔物を一撃で倒す威力を持つ魔法を操る。上級ともなれば、魔物の集団発生に対して1人で討伐へ向かうよう指示されることも多々ある。


 そして。1級魔法士の更に上、魔法士の級認定を行う側であり、魔法士の管理や指導を行う側である、『幹部』という立場が存在する。彼らは特殊な異能や、ずば抜けた戦闘能力、研究成果を挙げ、魔法士協会において脅威にも利益にもなり得る存在と認められて肩書きが与えられる。

 戦闘を担う幹部ともなれば、単身で国1つ、いや世界1つ落とせるほどの実力を持っており、人間を辞めた化け物扱いすらされるという。


 その幹部ですら頭を垂れるのが、疾が敵と定めた総帥なのだ。


(マジで……落とすまで、何年かかる……?)


 総帥以前に、幹部からして疾には手に追えない気がする。魔力量1つ取っても、下級の魔法士の半分程度しかない疾が、一体どのように勝利までの道のりを描くのか。目眩がしそうな難易度だ。

 得た情報を元に、考えなければ。どうすれば自分の戦える舞台を作り出せるのか。必要となる戦力は、道具は何か。相手をどう崩していくのか。


「ま、どうにでもなるさ」


 敢えて強気に言い放ち、疾は制作中の魔法具を机に置いた。1つ伸びをして、夕食の準備に取りかかる。


 楓のような凝った料理は作れないが、疾も最低限自炊や家事をこなすだけの技術は身に付けている。面倒な時は外で済ませるが、基本的には自分で食事を作る方が多い。異世界に渡るとどうしても携帯食や野宿用の簡単な食事で栄養が偏りがちなので、自分で調整するようにしている。

 この日も適当に野菜炒めを作って食し、日課となっている魔術の練習を始めた。が、途中ではたと手が止まり、机の上の魔法具に目が向く。


「……異能をもっと使いこなすべき……だな」


 疾が魔法士に立ち向かえる武器は、やはりあらゆる魔術を無に帰す異能だろう。勿論、魔術と併用してこその武器だが、異能が使いこなせていなければ話にならない。

 そうなると、まずは、異能を操る起点となる武器を完成させるべきか。


「……はあ」


 未だに、異能に対して忌避感が消しきれないのは確かだ。何が可能で、どんな武器に仕上げていくのか……試すことすら、嫌な自分がいる。

 だが、そんな甘えが許される状況でないのも、分かっているのだ。


「ま、しゃあねえか」


 才能は、自分では選び取れないのだ。戦いに使えるのなら、最大限に有効活用しなければ罰が当たる。疾は自分にそう言い聞かせて、魔法具の制作に戻った。


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