表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
2章 旅立ち
52/232

52 精霊

 体内の魔力の流れを整える事に集中して、しばし。


 ゆっくりと息を吐きだして起き上がった疾は、周囲に精霊が留まっているのを視て瞬く。精霊は、どこか不安げな気配を漂わせてふよふよと漂っている。小さな人の形を取る精霊達に、疾はつい、声をかけてしまった。


「急に悪い。もう大丈夫だし、迷惑にならないうちに出て行く……って、なにやってんだ俺」


 独り言に近いそれに苦笑し、疾は立ち上がる。そして森を出る方向を探ろうとして……聞こえてきた声に目を丸くした。


<大丈夫?>


 振り返る。精霊以外に、視える範囲で生物はいない。


<貴方の声は、届きやすい>

「……マジか」


 確かに、元の世界でも長生きしている異形は会話が出来るし、数少ない精霊にもそれが可能な存在があるとは、文献で読んだが。こちらの世界でも適応されるとまでは思わなかった。


<どこから来た?>

「遠いところから」


 相手の知性レベルがどれ程か分からない。慎重に答えると、精霊がざ……っと音を立てて舞い上がる。


<遠い、世界から>

<客人が訪れた>

<何の予兆? 何が起こる?>

「何も」


 次々と零れる言の葉にきっぱりと答えて、疾は精霊達に目を向けた。小さく唇を持ち上げたのは、滑稽に思う気分が滲んだためか。


「俺は、自力でここに来た。世界が必要として行う召喚じゃない。ここの文明を学ぶ気はあるが、利用されに来たんじゃない。利用しに来た」

<…………>


「数日で帰る。変に持ち上げようとするな。この力、毒なんだろ?」

 異能を少しだけ指先に集中させると、精霊が怯える気配が伝わってきた。


<それは、なに?>


「さあ。魔術の破壊を可能にする、としか」


<ちがう>

「……何?」


 初対面の相手に否定されて、疾の眉が寄る。精霊は、構わず続けた。


<魔術の破壊だけではない。私達が触れれば、消滅する>

「……」

<魂の死、存在の死。全てを否定する力>

<おそろしい。けど、なくならない>

<消えてはならない力>

「……何だ、それは」


 眉間の皺が深くなるが、精霊からの答えはなかった。


<わからないから、聞いた。それはなに?>

「……知らねえ」


 体内で蠢く異能の力。父親には魔術を破壊するもの、と説明したが、疾自身も何かが違う様に感じていた。

 あの、地獄のような空間で無理矢理引きずり出されたせいなのか。この力は、どこか歪だ。例えば、精霊だけでなく──


「……知るかよ。とにかく、俺に関わるな」


 これ以上、情報が得られないのならば留まる理由もない。疾は今度こそ、森の出口へと足を踏み出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ