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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
1章 はじまり
45/232

45 反撃

 ──数日後。



「だ れ が テ ロ リ ス ト に な れ と い っ た  !!」



 楓の盛大な吠え声に、疾はしらっと返した。


「テロリストじゃなくて過剰防衛と呼べ。被害者って素晴らしい免罪符があるんだぞ」

「過剰って自覚あるんじゃん! そこまでやるか普通!?」

「別に普通じゃなくて良いだろ」

「駄目だこの人、開き直ったらとんでもない……っ」


 テーブルに突っ伏す楓と、平然と紅茶を飲む疾の前には。ニュースを映す画面が、とある廃墟の倒壊画像を映し出していた。


 疾を罠に嵌めようとしていた連中の計画を探り、その計画にぴたりと嵌まる行動を取ることで逆に誘い出し、廃墟まで誘導した時点で廃墟もろとも瓦礫に埋まってもらった。廃墟が既に相当痛んでいたため、要の柱を数本崩すだけで済んだのは幸いだった。連中が疾を攻撃しようとした振動で崩れ落ちたのだから、実質自爆に近い。

 生死については知らないが、魔術師なのだ、余程当たり所が悪くなければ死なないだろう。ただし、魔道具魔法具の類は片っ端から壊してやったので、しばらくは自由に動けまい。

 魔術師は、自分達の諍いによる怪我をひた隠す。存在を知られない為、不自然な怪我を追求されない為だ。つまり、魔術師を攻撃しても、一般には公にならず、廃墟だけが崩れた「事故」となる。疾はそれを利用して、鬱陶しい連中を一網打尽にした。


 真っ当に相手にするより遥かにエコで、手っ取り早い。何故もっと早く思い付かなかったのか、反省しきりの疾である。


「随分派手にやったな」

「え、それを貴方が言うの?」

「……」


 両親は平然としているので、説教はされないらしい。これでアウトじゃないなら何も怖くない。


「……疾」

「何だ?」

「一般人に被害は出すなよ」

「了解」

「父さん! マジでそれで良いわけ!?」


 がばっと顔を上げて喚いた楓は、あっさり頷かれて再び沈んだ。忙しい奴だ。


「楓」

「……なによ」


 突っ伏したままじろりと睨む楓に、疾はにこりと笑って見せた。


「俺は我が身が最も可愛い一般人だからな。綺麗事で他人を救うヒーローなんていうのは他の奴に任せて、俺は手段選ばず自分を最優先する」

「……あっそ」

「だから、頑張れよ?」

「はい?」


 顔を上げて怪訝そうな顔をした楓に、さらりと事実を示す。


「これからもこの方針でいったら、恨みは買うだろ。その矛先がそっちに向いても、俺は自分のことで精一杯だからな」

「…………え。ちょっと待って」


 顔を引き攣らせた楓は、正確にその危険を──自分が、巻き込まれ逆恨みで狙われる可能性を、察知したらしい。が、こればかりは、疾も手が回りきらない領域だ。……まあ両親が守るだろうが、本人に自覚があるに越したことはない。

 と、いうわけで。


「頑張れ」

「この……っ、馬鹿兄さん!!!」


 楓の絶叫が、リビングに響き渡った。






 それからは、早かった。

 罠、闇討ち、卑怯技、だまし討ち上等。相手の自滅狙いで攻撃を誘う。あらゆる手段を行使して、徹底的に叩く。事前に敵の動きを嗅ぎ取ったら先手必勝、手を出してきた組織が残ってるから波状攻撃が続くのだ、纏めて潰せ。

 もはや逃げるや反撃を通り越してこっちから攻撃を仕掛けまくっている気がするが、結果的に身を守れるから結果オーライだ。なんだか最近、連中の方がこちらを外道だの何だの言って来るが、全て無視した。そもそも手を出す方が悪い。


 吹っ切れた疾は、ある意味、才能に目覚めたのかも知れない。


 魔力が少ないのがなんだ。魔術なんか、魔道具があれば使える。

 魔術師としての才能がどうした。才能があっても使いこなせていない魔術なんて、少し誘導したら自滅する諸刃の剣でしかない。


 そうして、敵の動きを掻き乱すことを覚えた疾は、急速に戦闘面での実力が伸びていった。


「……兄さんって……頭が良いんじゃなくて……性格が悪かったのか……」

「ご挨拶だな、血の繋がった兄貴に対して」


 思い切り胡乱げな眼差しを向けてくる楓には、涼しい顔で事実を指摘する。楓はふっと遠いところを見て、ボソボソと言った。


「うん、まあ……私もさ、心根の美しいお嬢さんでは断じてない自覚はあるけどさ……何この開き直ったテロリスト、すげームカツク」

「イライラすると思考力下がるからな、カモだぞ」

「わぁ、確信犯……ええ良いわよ、私はひたすら無関係の被害者装って逃げまくるから」

「装ってる時点で同類だろ」


 わあわあと言い合う兄妹に、母親はくすくすと笑い、父親は黙っている。ある意味、昔通りのやり取りが戻っていた。


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