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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
13章 敵対
223/232

223 激闘

「あはははっ、たーのしーね!」

「はっ、そうだなあ!」


 黄金の炎が舞う。銃弾が飛び交う。魔法陣が輝き、魔法と魔術が衝突する。

 縦横無尽に魔法が魔術が屋内を駆け抜ける中、両者は干戈を交わしていた。


(強い……!)

 ノワールとは異なり、このサンドル・インフェルナルという魔法士は典型的な遠距離攻撃型だ。体型を見ても近接戦闘はこなせる領域にない。シンプルに手をかざし、魔法を操り、敵をねじ伏せる。


 だが、シンプルであるが故に、強い。


 一つ一つの威力はもちろん、魔力密度が尋常ではない。それにより疾の銃弾で魔法の核を撃ち抜いても打ち消しきれずに飛び散ってしまう。さらにそこからあえて密度を下げて炎の体積を増やし、凌いだはずの敵を飲み込む技は、わかっていても防ぎ難い。

 そんな炎を直線、曲線、追尾を交じえ最低でも10以上常時操ってみせる。その上で追撃の中級以上の魔術を適切に捩じ込んでくるのだから、その魔法技術は卓越したという言葉では生温い程。一瞬の隙を縫って接近戦に持ち込むスタイルを得意とする疾をして、間合いに入り切れない。


「さあもっと楽しもうよ、ねえ!」


 笑いながらサンドル・インフェルナルが両腕を開いた。その空間からいくつもの炎が吹き出し、鞭のようにうねりながら疾を拘束せんと迫る。


「はっ……いつまでもてめえだけと遊んでやってる暇はねえんだよ!」


 両手の銃をスイッチ。利き手で異能を吐き出す銃口を細かく動かしながら、もう片方の銃では魔法陣を幾重にも重ねて展開する。

 炎の半数は威力をあげた異能の銃弾に打ち消され、もう半数は展開した魔術で迎え撃つ。


「……! あはは! そうきたか!」


 攻撃特化とはいえ、同系統火属性魔術がこの魔法士相手に敵うわけがない。だが、そこに上位属性である闇属性を付与した上で、追加概念として「燃焼」「収束」「亜空間」を魔法陣に編み込むことで拮抗し、炎を「燃え尽きた状態」に持ち込んで「ここではないどこか」へ放逐する。属性特徴を最大限活かした魔術は、込められた魔力は魔法の十分の一以下にもかかわらず、全て打ち消してみせた。


「すごいな、君は本当に合理的だ! しかも合理に背理まで持ち込んで力押しにも応じてみせる! ここまで粘ってくれるとは思わなかったけど──」


 そこで言葉を止め、ついに間合いに踏み込んできた疾に嬉しそうに笑う。


「──いつまでもつかなあ?」


 サンドル・インフェルナルの形が崩れ、炎が溢れた。


「!!」


 思わず目を見開いた疾は、咄嗟に背後に飛びのこうとした。しかし後ろから囁く声に知らず息を呑む。


「つーかまえた」


 女の形をした炎がそう言って、疾を背後から抱きしめるように拘束した。

 全身に、炎が触れる。


「っああああああ!!」


 咆哮が喉から溢れ出た。前から降り注ぐ炎にギリギリで編み上げた防御魔法陣を展開、後方からの拘束は全力全開の異能を放出して吹き飛ばし、わずかに生み出された隙間から獣めいた身のこなしで離脱する。

 肌に触れて燃え出そうとする魔力まで全て吹き飛ばしたが、手持ちの魔道具にも被害が出た。遅れて、全身からどっと汗が噴き出す。


(……っぶねえ……!)


 一瞬遅れていれば骨も残さず蒸発していた。額の汗を雑に拭って、疾は一度銃を消す。


「……すごいすごい。これでも燃やせないなんて、君、実は人間じゃなかったりする?」


 炎から人に形を戻したサンドル・インフェルナルが、無邪気に首を傾げた。疾は密かに一つ深呼吸をして、いつもの不敵な笑顔を作ってみせた。


「はっ……そのセリフ、そっくりそのまま返すぜ。人間が扱える魔法の域を超えてやがる」

「私らには褒め言葉だなー」


 ふふっと笑いをこぼしてから、サンドル・インフェルナルは人差し指を一本立てた。


「でも、この魔法はタネも仕掛けもあるんだよ。君が今日ここに来るって分かってなかったら、ちょっと間に合わなかったかも」

「……へえ?」


 その言葉に、疾は思考を分割してそれぞれフル回転させる。



『準備の必要な炎化──建物への延焼が起きてない、屋内戦を想定した、場所もおそらく警備の配置で誘導した──つまり場所を限定する包囲陣が存在する』

『事前に情報が漏れていた──あるいは解析された。読まれた原因は最近の襲撃ポイント、情報を買ったノワールの罠、日付まで特定されていることから行動パターン分析が進んでいる、精度は低くない』

『このまま手数で押し込まれる消耗戦は不利──撤退か、足止めをして先へ進むか、あるいはこちらも仕掛けるか』

『魔法に込められた理論系統は概念魔法に近いが、戦略的思考はボードゲーム様のシステマティックなもの、あるいはこちらの戦闘スタイルに合わせた思考戦術か。否、そこまでの器用さは魔法の軌道制御からは感じない』

『現在、敵の行動は会話5割、次の魔法装填3割、残り2割はここではないどこかへ向いている。魔力密度の調整率はこれまでと同程度、魔力はまだ余裕がある』

『この場に総帥が現れる可能性は──』



 同時にいくつもの思考演算を進めながら、疾は女との会話に応じる。


「ふふん、うちの組織も捨てたもんじゃないんだ」

「そりゃ面白くもないジョークだな。お綺麗な建前を盾にして各世界の文化文明を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して資源をぶんどっていくヤクザ顔負けの組織って、どこ行っても悪評だらけだぜ?」

「あはは、だからいいんだよ。私みたいなのがこうやって暴れる場がたっぷりある」

「はっ、戦闘好きもここまで来るとタチが悪いな」


 心底楽しそうに顔を明るくする魔法士に苦笑する。ある意味、生まれる時代を間違えた才能である。だからこそ魔法士協会などに適応し、幹部にまで成り上がったわけだが。


「君もたのしーだろう?」

「一緒にすんな」


 疾の場合は戦闘狂いの気質ではないので、同類を見る目を向けられても困る。


(……さて)

 やりとりの間に思考演算も結果が見えてきた。これから自分が取る行動は、適切だからこそ読まれているだろう。が、それでもリスクを取るのは、目的を果たすために必要だからだ。

(対策をとっただけで尻尾巻いて逃げた、と思われるわけにはいかない)

 これすらも読み取られての策だろうが、上等だ。


 勝ち筋を掴み取るために、疾は動いた。


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